『思い立ったら隠居 週休5日の快適生活』大原扁理

週二日はたらいて年間 100 万円の収入があれば多摩地区で暮らしていける──という夢のような話が書かれている。 2015 年に発刊された単行本の、 20 年になってからの文庫化版を読んだところ。
25歳ではじめた隠居生活をまとめた単行本だったとのことで文庫化の時点で著者は30を越えているだろうこと、そして文庫化に際してのあとがきを読むかぎりいまだに隠居生活は続いている模様。(とはいえその間に別の文庫本を出したりもしているようで、もう少し収入は増えているかもしれない)

週二日、ということはひと月8日。8日で8万円、つまり1日で1万円稼げば暮らせる。都の最低賃金が千円をわずかに超えるくらいだから一日で1万円を稼ぐのはちょっと厳しいか。
少々無理のきく若い時分でこそ成り立つ暮らし、という気はしなくもない。

それでも人ひとり暮らすのに年間 100 万円でいけるという実例は力強く感じられる。

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2021年の今、無収入の家族ひとりを養う必要経費は55万円となっており(年末調整の税金控除より)、つまり政府によれば「健康で文化的な最低限度の暮らし」は年間 55 万円でいける。家賃通信費光熱費などは扶養者持ちだとしてこれら合算で月2万円、年間60万円。まあ100万円前後といったところか。
(この辺りの金額を決めていらっしゃる政治家先生たちに年間 100 万円の暮らしをなさってみてほしい)(数年前は 65 万円が基礎控除額だった。さらに貧しくなったんだな──というおもいが拭えない)(政府がデフレが継続していて賃金も上がっていないと認識していないと、この決定はできない)(余談が過ぎた)

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年間 100 万円。ここに家族が加わると話がややこしくなるけど。パートナーも同じように働けるなら収入は変わらなくてよい。いや、家賃光熱費を折半するとして年間50万円前後をふたりで稼げばよくなるので 75 万円、まあ 80 万円程度?

こどもが加わるともう少し必要。ひとり増えて5、60万円程度? うん。大病なくば自分とパートナーそれぞれが 100 から 120 万円コンスタントに手に入れられたら行けなくはなさそう。(数字だけ見ると)
ただしこどもは世話を必要とするものだし、体調を崩したりの世話でまともには働けなくなる。

それであれば、それだからこそ、平日5日をまるっと差しださないと立ちゆかない現行の暮らしが異常だとも言える。核家族化が進み地域のつながりが寸断され頼りあうことも難しくなった。
こういう日本で、進んでこどもを持つのはあまりにリスクが大きい。まっとうに考えれば、そして考えるほどに避けたくもなるだろう。(学歴が上がるほどに、こどもを持ちたがらなくなるという数字がどこかになかったか)

なお著者はゲイだそうで、こどもが増えた場合の試算は不要かも。(養育したいと考えることがあるかも?)

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こういう暮らしを選ぶ人が増えるといよいよ日本の未来はなくなる。しかしこの国で暮らすことが幸せで豊かなことだとは断定しえず、産めよ殖やせよとは言うつもりはサラサラない。いっそ未来がないことが確定した方がよいのかもしれない。

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齢50を前にして隠居暮らしは憧れるものの、ぼくには支える必要のある家族があり、ゆえに著者のような暮らしは無理だとわかる。

できないがゆえに、ああ、隠居、したいなあ。

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