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ニートハウス

これは2022年僕が旅をしていた頃の記録。

福岡の山奥にニート荘がある。

青年やら、婦人やら
働いていない人がやたらと集まるので
新斗荘(neat house)と呼ばれている。

僕は、住人の青年S君とよく話す。

S君の両親は
「働かない人だけにはなって欲しくない。」

兼ねてからS君に伝えていてそうだ。

しかしS君は会社を辞めた。
そのことを親には伝えず、失業保険をもらい、新斗荘で働かない暮らしをしてる。

私は、S君とニート問題についてよく話す。
一般的にニートになるのは、怠け者と見られがちだが、親、社会、世間に対する静かな抵抗運動ではないかと論議する。

「他の人を見習いなさい。」
「こうじゃなければ、幸せに生きていけません」

半ば決めつけられた世間の圧力。
押し付けられた幸せな価値観を信じて生きていたが、しかし、幸せはそこにはなかったと気づいたS君。

怠け者だ!
心を殺してでも働け!
人様に顔できない!

S君はそんな声に逆らうように、会社を辞めて、里山で静かな暮らしをしている。

里山で生活していると朝、
丁寧に入れたお茶の美味しさに気がつく。

忙しない労働の日々には、味わえなかった幸福である。

ニートとは、親、社会、世間に対する、極めて人間的なレジスタンスではないか。

「失業保険が続く間はニートだ。」と、満足そうに微笑むS君。

僕は様々な場所でニートに会ってきたが、彼らは、決して人を傷つけない優しさを持ってる。そして、働きたくないという意志を持ってる。

非暴力、非不服従運動のような静かな者たち。
ニートの溜まり場から、未来のガンディーは出てくるのかもしれない。

静かな革命家を讃えながら談笑をしてると、
S君は新斗荘に以前住んでいた青年Tさんの話しを始めた。

Tさんは会社を辞めて、新斗荘にやってきた。

会社に勤めていれば色々なことがある。

住人達はそんな野暮なことを尋ねない。
何か理由があってやってきていることは分かってる。

しかし、食卓の席でTさんが
ポロッと
「親から連絡が来た」と漏らした。

この一言で、住人は大体察する。

いつも穏やかに過ごしてる住人も
自分ことのようにギョッと体を硬らせる。

多くの若い人は仕事を辞めたことを両親に伝えず、自宅に帰る勇気が持てない。
かと言って、精神的に疲れてしまって、馴染めない組織ばかりの社会。仕事探しをするのも辛い。
半ば逃げるように、里山シェアハウスに流れ着く。

そんな問題を抱えた者は、
ニートが集まるシェアハウスには何人もいて、Tさんにも当てはまっていた。

Tさんは、
これから母に打ち明けてくると言って、
電話を掛けに外に出た。
そして思い切って、母に現状を告白する。

「働くのが辛かった。
ずっと嘘ついてきてごめん。」

母は泣いた。

そして母は、Tさんに言った。

「悪かったのは、私の方。
母なのに、こんなにも頼りづらい関係を築いてしまった。今まで、本当にごめんなさい。」

母は、咽びながら言う。

思ってもなかった答え、、、
泣かせてしまった母を想い
Tさんは嗚咽した。

それは、家族でありながら
すれ違っていた母との雪解けの瞬間だった。

それからすぐに
Tさんは、新斗荘を去った。

僕は隠していた苦しみを打ち明ける告白。
その美しい物語に感動した。

なんとドラマチックな話だ!
とS君に伝えると

S君が後日談を話してくれた。

Tさんが旅立って数週間経つと
S君に連絡が届いた。

新斗荘を出て実家に帰り、
母と再会を果たしていたTさん

そのあと実家に居付き、甘えるように
母公認の家ニートになったらしい。

なんとなく浮かんだ言葉、
腐っても鯛。

讃えるのはやめよう。

性悪説。
彼は、本物のニートなのかもしれない。

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