“うそいつわりでない、本当のこと”
辞書で「真実」を引いてみよう。
まずは、その筆頭 広辞苑 から。
【 真実 】
うそいつわりでない、本当のこと。まこと。
と、ある。
続けて、大辞林。
【 真実 】
うそいつわりのないこと。ほんとうのこと。また、そのさま。
小学館の 日本国語大辞典 にも、ほぼ同じ解説が載っている。
私は、この「真実」という言葉を疑っている。
世界情勢が不安定な昨今、「○○の真実」なるものが世にはびこっている。文明の利器によって大衆の呟きを目にすることができるようになり、より目立つようになったが、それは今に始まったことではなく、人は不安になると「真実」を探し求め、見つけ、そこに安定を求める。
この「真実」が、辞書の言う通り “うそいつわりでない、本当のこと” として、じゃあ例えばそれを『桃太郎』に当てはめてみよう。
・○○年○○日、時刻は○○時。○○村の○○に住む老夫婦。ジイさんは山へ芝刈りに、バアさんは川へ洗濯に向かった。バアさんは、川の上流から流れてくる大きな桃を拾った。
・自宅へ戻り、ジイさんと共にバアさんは川で拾ってきた大きな桃を真っ二つに切った。すると中から男の子が出てきた。2人は、男の子に桃太郎と名付けた。
・○○年、○○歳になった桃太郎は “鬼ヶ島という所に悪い鬼がいて、この村に度々やって来ては悪さ(金品強奪など)をしている” 事を確認した。○○日、バアさんにきびだんごを作ってもらい、桃太郎は単独、鬼退治に向かう。
・(場所)で、きびだんごを分けてあげた、犬、猿、キジが桃太郎の意見を支持。援軍となり、共に鬼ヶ島へ向かう。
・○○日○○時、鬼ヶ島の(場所)へ上陸。桃太郎軍と鬼軍は激しい戦闘を繰り広げる。上陸から○○時間後、鬼は降伏を宣言。桃太郎軍は、鬼が村人から奪った金品を取り返し、村に戻る。
どういった武器を所持し、どういう作戦を展開したか、といったところも記すべきでしょうが、まあざっとこんなとこでしょう。しかし、この「真実」は、桃太郎側からの「真実」であります。
では、鬼側からの「真実」を。
・○○年に、ここ鬼ヶ島の鬼山の山頂に鬼神社が建立された。御神体は純金の金棒。その他、鬼神像などが祀られている。
・○○年○○日○○時頃。鬼神主が本殿から御神体が消失している事を確認。鬼神像や、宝物殿からも○○が消失。その日の明け方、海岸から人間数名が焦った様子で船を出すところを目撃したと、鬼漁師が証言している。
・○○年○○日、鬼兵隊が結成される。○○日○○時頃、人ヶ島へ上陸。無抵抗の人間はすぐに降伏を宣言。御神体の奪還に成功する。その後、○○回にわたり全ての御神宝類を奪還。鬼神社に、それぞれが返還される。
その○○年後、人ヶ島において歴史改竄といっていい主張がはびこる。それは、鬼ヶ島の国宝である鬼神社の御神体「純金の金棒」が、人ヶ島から我が島の軍(当時の鬼兵隊)が略奪したものだという主張であった。
人間側は、再三にわたる抗議を聞き入れることなく、○○年○○日に特殊部隊を我が島に投入。宣戦布告のない不意打ちにより、我が島の軍は全滅。そして、再び「純金の金棒」その他、御神宝類が略奪されるに至る。
・・・こうだとしたらどうよ?
どっちも、“うそいつわりでない、本当のこと” だぜ?
モチロン “鬼側からの真実” は、私の創作であるが、こうして第三者が解釈した “真実” も存在する。そして、メディアがそれを流布する。「ちょいと待ってくんねぇか。金のために、うそいつわりとわかってて書くんなら、そりゃあ真実じゃァねぇんじゃないのかい?」そうではない。 “うそいつわりなく金を貰えるように、真実を書く” のです。
真実なんてモノァ、立場の数だけある。いや、立場の数どころか、人間の数だけある。世界の人口は2022年5月現在、約79億人ということなので、79億の真実がある。お?そう考えると、辞書に書いてある “うそいつわりでない、本当のこと” という解説にもガテンがいく。人それぞれが持っている価値観、自分が信じてりゃあ他人には関係のない “うそいつわりでない、本当のこと” なのであるから。辞書を編纂している方々、そこまで書いてくんねぇとわからんよ。
なぜだか私達は、“真実” は共有している、共有できるモノだと思っている。
なんかあるかい?みんな一緒の “真実” ?(ちなみに辞書で「事実」も引いてみた。広辞苑:事の真実。真実の事柄。本当にあった事柄。 と、ほとんど “真実” じゃねぇか!ってな解説でございました)人はいつか死ぬっていう一点にしか当たらねぇわ。
証拠、根拠があり、誤解されることも無く誤りもなく、立場によって変わることのない唯一の “真実”。 それは、もう、神様の目線になるよネ。物語を創った者だけが語れることだよネ。そんなの、私達の住むこの世界には無いよネ。
己が見聞きし、信じたモノだけが真実でさァ!
あとは、ぜーんぶ噂話でございまァーす!
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