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#8 建設業界と公共工事について考えてみた

私は公務員時代に数多くの工事を担当し、多くの建設会社の現場代理人や作業員たちと工事の話だけでなく世間話をしてきました。私が実際に体験したことを元に、地方の建設会社の現状をまとめてみました。本記事は、国の施策が建設業界へ与えた影響と、国と地方自治体が連携して克服しなければならない課題だと感じています。


・はじめに(建設会社の規模と格付け)

まず、建設会社は「完成工事高(完工高):1年で完成させた工事額の合計」や「経営状況・経営規模」などにより格付けがされます。私が勤めていた県では、建設会社(一般土木の場合)はA級からD級まで4つの等級に分けられていました。この時、A級が最も大きい工事(設計金額4000万円以上)を受注できることになります。
(注:上記は私が勤めていた県の例であるため、他の自治体では格付けの数や金額などが異なる可能性が高いです。)

建設会社を格付けする理由としては、格付け(ランク)により建設業者の棲み分けを行い、事業の規模・能力に応じた工事を受注させるためです。これにより、その地域の大きな建設会社が公共工事を独占する事を防いだり(A級は4000万円以下の工事を受注する資格が無い)、新規参入した建設会社も、小規模な工事から受注する機会を得ることが可能となります。

よって、皆様が住んでいる地域にある知名度が高く従業員が多い建設会社はA級である可能性が高く、B級からD級と格付けが下がるにつれ、会社の規模は一般的に小さくなっていきます。

・建設会社の職員数と年齢層

私が勤めていた地方の県では建設会社の高齢化はかなり進んでいたため、現場代理人のほとんどが50代以上であり、60代後半の現場代理人も普通に活躍していました。そういった状況もあり、地方の建設会社(A級)では、45歳くらいまでは若手、45〜55歳ぐらいが中堅、55歳以上からようやくベテランくらいの認識だったと思います。

特に、30代の職員(現場代理人)はレアなため、30代がいる会社は世代交代が上手くいきそうだなと感じていました。20代については、30代に比べれば意外と多く在籍していたように感じています。ただ、これらはA級の建設会社であり、B級からD級と格付けが下がるにつれ若手はどんどんいなくなり、地方のA級以外の建設会社は、ほぼ50代以上だと言っても過言ではありません。よって、業界全体で担い手不足を解消していかなければ、建設業の未来は無いと思っています。

・建設会社は30代(特に35〜39)が少ない

なぜ30代が少ないのかというと、2009年に政権交代を果たした民主党が掲げた「コンクリートから人へ」による影響が大きいのではないかと感じています。これは私が建設会社の職員と世間話をしていた際にも多く出てきましたし、公共事業が減ったことで多くの建設会社が倒産せざるを得なくなったとういう話もよく聞きました。2009年は高卒で1990年生まれ(2023年で33歳)、大卒で1986年生まれ(2023年で37歳)となるため、ちょうど30代が少ない現状とリンクしています。

・「コンクリートから人へ」による影響?

この政策は、「コンクリート」を「建設を中心とした公共事業」に置き換え「人」と対立させた構図であり、ダムや道路、空港などの大規模な公共事業(コンクリート)に巨額の税金を充てていた従来の自民党政権の政策に対し、子育て・教育、年金・医療、雇用・経済などへの予算充実を目指したものです。この政策により、当時の民主党政権は大幅な公共事業の削減、事業仕分けをおこないました。「八ッ場ダム」を一時建設中止としたり、事業仕分けで「スーパー堤防整備は中止」と判断したことは、まだ記憶に新しいのではないでしょうか。

・人材育成には現場経験が必要不可欠

建設業は人材育成が必須です。工事現場は土質や環境(都市部、海岸沿い、山間部、気温、降雨量、積雪の有無など)工事内容などが全ての現場で異なるため、1つとして同じ現場はありません。よって、様々な現場を経験し、失敗と成功を繰り返しながらやっと1人前となれるため、採用後即戦力となれるような人材は基本的にはいないと思っています。

「大幅な公共事業削減」により建設業の仕事が減ったことで、元請け会社だけでなく下請け会社も新採用の活動を見送らざるを得なかったため、その影響が現在の「最も働き盛りで次世代を担う30代(特に後半)の不在」に繋がっており、更に即戦力が育ちづらい建設業の特徴が、30代不在の改善を難しくしているのだろうと感じています。

・30代の不在が建設業の高齢化に繋がっている?

30代が不在だと、40〜50代の職員が20代の超若手の育成をしなければいけません。中には自分の子供と同い年、もしくは子供より年下の超若手を育成することとなります。私自身も感じていますが、今の20代はアラフォーの私からしても、なかなか理解することが難しい世代です。

今の20代は、学校でも、あるいは家庭でも怒られたことはほぼ無く、出来ないことや苦手なことを克服するより、好きなことや長所を伸ばせ、と育てられてきたため、我慢することが苦手な世代では無いかと思います。出来なければ怒鳴られ頭を叩かれ、出来るまで泣きながら必死に努力してきた我慢強い世代(40〜50代)とは全く異なります。
注)私の個人的な意見です。違っていたらすみません。。。

よって、少子高齢化の現代で貴重な20代が会社に入ってくれたとしても、上記のような「世代の壁」から理解し合うことが難しく、お互いストレスを感じることが多いのでは無いでしょうか。これにより負のサイクルに陥り、なかなか会社としての生産性を向上させられないことから、60歳以上のベテランがなかなか会社を辞められず、今なお第一線で働かざるを得ない現状に繋がっているのでは無いかと考えています。

・建設会社が減ったら困るの?

建設業との関わりがない人達は単純に建設業が減っても困らないのでは、と思う人もいるかもしれません。私としては、「コンクリートから人へ」により多くの建設会社が減り、中には減るべくして減った会社もいたのではないかと思っています。ただ、今生き残っている特に地方の建設会社の多くは、地方に必要な建設会社だと思っていますし、無くなってはいけない会社だと思っています。

・激甚化する自然災害

まず、建設会社がいなければ自然災害が発生しても復旧できません。勿論復旧も出来なければ、事前の対策(河川堤防の補強工事など)もできません。近年では、公共工事の予算を確保しても、建設会社が減ったことや技術者不足により1つの会社が受け持てる業務量に限界があるため、公共工事を受注できる会社がおらず、不落札となり災害復旧を含む公共工事が実施できないことも多くなっています。

特に主要な道路(橋やトンネル含む)であれば地域社会や経済に多大な影響を与えるため、被災した際は即時復旧が原則ですが、激甚化が進む自然災害に対し、建設会社や担い手不足がこのまま続けば、高速道路も含め1年以上復旧できないような状況が発生するかもしれません。また、復旧はどうしても人口や利用者が多い地域が優先されるため、大規模災害が発生した際、人口が少ない地方部はいつまで経っても復旧工事に着手できない可能性も十分あります。

これは道路に限らず、JRや空港も同じです。建設会社がなければ、あらゆる交通機関を含むインフラの維持が難しくなります。

・施設の老朽化

今利用している道路などのインフラは高度成長期(1954年から1973年の19年間)に造られたものが多く、それらインフラの老朽化は10年以上前から深刻な社会問題となっています。インフラの老朽化に起因する重大事故(トンネルの天井板落下や道路の陥没、水道管破裂による長期間の断水など)を防ぐためには対策工事が必要不可欠ですが、既にできたものを修繕することは新たに造ることより難しい場合も数多くあるため、インフラ老朽化に対応できる知識や経験を備えた技術者の育成も必要不可欠となります。

◎建設業界存続のカギは安定した公共工事の予算確保と発注

こういった自然災害やインフラの老朽化に対応するためにも建設会社は必要であり、建設会社は利益の追求だけでなく、若手の人材育成・技術力の継承に力を入れなければなりません。

建設会社が若手職員を多く採用するためには、長期間に渡り安定的に公共工事を受注できる見込みが必要となるため、国策として安定的な公共工事の予算確保が、今だけでなく未来の日本のために必要不可欠であると私は確信しています。

他にも「建設DX」「ICT施工」「働き方改革」「労務単価の増額」など、建設業界が抱える担い手不足などの課題解消に向けた興味深い取り組みがあります。それらは今後別途記事にしていきたいと考えています。

「安定的な公共事業の予算確保」は、建設業界全体の雇用の安定化に繋がり、担い手不足解消に向けた取り組みの第一歩です。その結果、10年後、20年後の「30代の不在」(本記事にて記載した内容)を防ぎ、少しづつ建設業界の高齢化が解消され、効果的かつ効率的に技術力を継承していく事が可能となっていくのではないかと私は考えています。

現在の本記事はここまでです。今後も本記事について、追記したい内容があれば追記していきます。

最後まで私の記事を読んで頂き、ありがとうございました。

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