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6-7.明白なる運命

それが運命

この領土拡張時期のアメリカの人びとを捉えて離さなかったのが、「明白なる運命=Manifest Destiny」という言葉でした。
 
「神の精神を読めるとまで公言する者はほとんどいなかったけれども、白人のキリスト教世界が大陸全土に広がるという運命の成就を神が望んでいることは明白だと確信していた」(「アメリカを作った思想/ジェニファー・ラトニー=ローゼンハーゲン著/入江哲朗訳P101」

したがって、アメリカ大陸の先住民を追い出すことには、良心の呵責も罪の意識もなかったと思います。最も大きなその動機は経済的な理由、つまり「もっと儲けたい」という欲求でしょう。そのために先住民を追い出したことにも、奴隷を使い続けることも、「神」の明確な意思だと思い込んだ(あるいは思い込もうとした)のです。

黒人奴隷制の擁護

さらには、黒人奴隷制擁護論の一つとして受け入れられていた人種学的見地の影響も見逃せません。さまざまな人種の頭蓋骨を収集、その容量を測定した結果、白人のそれが最も大きく、黒人のそれが最も小さいことを測定値として示した学説が現れ、それは黒人の生物学的な劣等性を示すもの、黒人が奴隷にふさわしい人種であることを実証するものとして受け入れられたのです(出所:アメリカ史(上)/紀平英作)P162)。

もちろん、今ではそれは何の価値もない妄説ですが、この説は「白人」至上主義を産んだだけでなく、今日に至るまで白人の心の奥底を支配するものとなりました。それからしばらくして、わたしたち日本人もその現実に気付かされることになります。

悲しき先住民

アメリカの西への領土拡張は、同時に先住民がその居住地を奪われたことを意味しています。白人との土地をめぐる戦いだけでなく、白人が持ち込んだ病気に対する免疫のなかった彼らは、病気でも多くの命を落としました。部族全体が消滅してしまったことも少なくなく、その数は1920年にはわずか35万人にまで減少したというのですから、驚くしかありません(出所:「アメリカ合衆国のポートレートー第1章『多民族の国、アメリカ』」アメリカンセンター・ジャパン/)。

急増する人口

悲しいほどに人口を減らされた先住民がいる一方で、ここまでの間に新しい国家アメリカは、爆発的に人口を増加させています。1790年の390万人が、1850年には2300万人にまで激増しているのです(出所:「U-S-History.com」)。60年間で約6倍、10年毎の成長率では30%を超えています。アメリカへ渡ってくる移民の数も1821〜1830年は約15万人、次の10年間は約60万人でしたが、1841〜1850年では170万人、次の10年では260万人と激増、1821〜1900の約80年間での移民総数は、19百万人を数えています。また、20世紀初めの20年間では15百万人にものぼっているのです。(出所:「アメリカ史(上)/紀平英作編」P18の表より)。

映画「タイタニック」 のワンシーン

やや、のちのことになりますが、急増する移民に対処するため、1892年にニューヨーク湾内のエリス島に移民のための入国管理事務所が設置されます。この島の近くに建っているのが「自由の女神像(1886年にフランスからアメリカへ寄贈)」。世界的に大ヒットした映画「タイタニック/1997年」のラスト近いシーンで、主人公ローズが到着したのがエリス島、彼女がアメリカに入港して自由の女神像を見上げた場所です。新天地を求めてアメリカへ到達した移民たちが、最初に見上げるのが「自由の女神」。なんと象徴的なことでしょうか。

ちなみに、アメリカへの移民数は、今現在に至ってもなお膨大(21世紀最初の10年間では1千万人)。ここには不法移民は含まれていません。合衆国移民・帰化局の推定では、今現在約500万人の不法移民がおり、その数は年間約28万人の割合で増え続けているらしい(出所:「アメリカ合衆国のポートレートー第1章『多民族の国、アメリカ』」アメリカンセンター・ジャパン/ )。

続く

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