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消しゴムの虚無感 Ver.2

消しゴム「隣町の仲間は消しゴムはんこになったとか。そんな話もあるんだな。ま、俺は俺の仕事をやるだけさ」

今日も今日とてせっせと“身を削って”仕事をする消しゴム。そして毎度のことながらネリ消しの“消し残し”を発見し、仕方なく残った跡を綺麗にしていくのだった。

ネリ消し「ありゃー、残ってたぁ? ごめんねー。でも、消すのって楽しーよねー」

消しゴム「まぁね。一生懸命消している時は楽しいけどね」

ネリ消し「でしょー。ボク、鉛筆ちゃんの足跡の上に“ぺったんこ”すると、同じ跡がくっつくのー。ほらー」

ネリ消しは、消しゴムの前で床に這いつくばったり起き上がったりしてみせる。ひとりでも楽しそうだ。

消しゴム「毎日同じことの繰り返しで、虚しくなったりしない? 一生懸命やっても無駄な気がして“消えて”なくなりたいときがあるよ」

ネリ消し「消すのが仕事の消しゴムくんが“消えて”なくなりたいのー? おもしろいこと言うねー」

そんなある大掃除の日、たまたま机に置いてあった「漂白剤」が倒れ、色画用紙の上にこぼれてしまった。

消しゴム「!! すごい、色がみるみる消えていく! か、神の仕業か!?」

消しゴムは目の前の状況に興奮がさめやらない。

消しゴム「ネリ消しくん! 俺らもあれをやってみたいと思わないか?」

ネリ消し「うーん、別にー。すごいけど、ボクはいいや…」

消しゴム「なんで君はそんなに伸びきったゴムみたいにしていられるんだ…?」

ネリ消し「だって、腰が無いもーん。それにさぁ、消しゴムくん。ボクらがどんなに努力したって、所詮文具だし、毎日同じことの繰り返しだよー。でも、楽しければそれで良いじゃん」

消しゴム「いや、俺もあれくら消せるようになるんだ! だって消すことが俺たちの“使命”じゃないか」

翌日から消しゴムは何かに憑りつかれたかのように仕事に取り掛かった。煙が出るくらい消しまくった。素晴らしい仕事ぶりだった。どんな線でも消せると思った。

消しゴム「今の俺なら、ボールペン大将にだって負けないだろう」

ネリ消し「何と勝負してるんだよー。そんなんじゃ楽しくないじゃん。やめておきなよー」

消しゴム「俺は消すことしかできないんだ。消している時しか生きている気がしないんだよ…!」

翌日、消しゴムの姿は無かった。

ネリ消し「消しゴムくん…」

ネリ消しは、わずかに遺った“カス”を、コンパスによって掘られた机の穴に埋めてやった。

----------キ-----リ-----ト-----リ----------

こちらの物語は、8年前に思い付きで投稿したFacebook記事の内容です。

【消しゴムの虚無感...

Posted by Ishii Ryo on Thursday, November 21, 2013


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