アイリッシュコンサーティーナにおける装飾音について #6 ドローンとコード
ここまで様々な装飾音について分析や解説をしてきましたが、今回で一区切りとします。
最終回の内容はドローン(Drone)とコード(Chord)です。
厳密な定義からすれば装飾音には当てはまらないと思うのですが、アイルランド音楽におけるコンサーティーナの奏法としてはとても重要なもので、海外のサイトを見ても装飾音(Ornamentation)の一種として加えられていることが多いため、ご紹介します。
※前回の記事(トリプレット編)
■ドローンとは
ドローンは、主に民族音楽でよく使われる、単音で長く伸ばす音のことです。
バグパイプ(アイルランドで主に使われるものはイーリアンパイプス)の低音が最も分かりやすい例です。
バグパイプには、笛のように指孔が付いている管・チャンターの他に、ドローン管(単音が出る管)があります。そのドローン管を持続して鳴らしながら、同時にチャンターを操作して旋律を演奏することができるのです。
基本的にドローンは曲の調の基音(DmajorならD)を鳴らします。これを参考にコンサーティーナでも真似しようということなのですが、アングロコンサーティーナは押し引きで音が変わるという特性上、ずっとドローン音を鳴らし続けるのはほとんどの曲では不可能です。
そのため、フレーズの始めや裏拍など、区切った形でドローン音を入れることが多いです。
伸ばす音という本来の定義からは外れてしまうのですが、コンサーティーナにおいては「旋律を演奏しながら同時に低音を鳴らす」くらいの意味で考えていただければよいかと思います。
※余談ですが、左手の親指部分などに押し引き同音のドローンボタンが付いているアングロコンサーティーナも存在します。
■ドローンの使用例
Caitlín Nic Gabhannさんの演奏を紹介します。
Reels: The Rookery / Joe Cooley's Morning Dew / The Edenderry
0:36からGのドローン、2:20からEmのドローン、3:06からGのドローンが、全て裏拍中心に入っています。
なお、ドローンは最初から使うのではなく、各チューンの2周目や3周目でバリエーション的に使っています。このような即興性も勉強になります。
■ドローンの奏法
はじめに、以下の説明で使うボタン番号を示しておきます。
番号の付け方はGary Coover氏の教則本に倣っています。
1~5はC列、6~10はG列、上の列はアクシデンタルボタンということでaが付きます)
ドローンは基本的に低音ですので、左手側のボタンを使います。
よく使うドローン一覧
・Gのドローン → push 2(小指) or pull 1(小指)
・Dのドローン → push 7(小指)or pull 3(薬指)
・Aのドローン → push 2a(薬指)or pull 6(小指)
・Eのドローン → push 1a(小指)
■コードとは
これは一般的な意味通り、和音のことです。
フレーズの始めや終わりであったり、裏拍であったり、または音を伸ばす場所などで入れることができます。
アングロコンサーティーナでは、押し引きの都合で入れられる場所やどの音を選ぶか(ボイジング)が変わってくるので、曲によって工夫が必要だったりします。
■アイリッシュでよく使うコード一覧
※パターンは多く、奏者によって様々なので下の楽譜はあくまでも一例です。使える音の組み合わせはまだまだあります。
※コードは個人的によく使う順に書きました。
※下記は全て左手です。
※音符の上の線は「引き(pull)」を表しています。それ以外はpushです。
■コードの使用例
Liam O'Brienさんの演奏を紹介します。
コードは最初から入れるのではなく、何度か繰り返す徐々に増やしていっています。
Jigs: Maid on the Green / Frost is All Over (←おそらく)
1:50あたりからD、Bm、G、Aなどのコードが出てきます。ドローンも組み合わせていますね。
■まとめ
アングロコンサーティーナでは、低音を単音で鳴らすドローンや、複数の音を重ねるコードを、曲の中で即興的に取り入れることができる。
入れる場所や音の選択は奏者によって様々なので、いろいろな演奏を聴いて学ぶ必要がある。
■終わりに
コンサーティーナの装飾について考えた記事でしたが、予定より長くなってしまいました。
装飾音は奥が深いですね。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!
私もまだまだ勉強中ですので、ご意見などお待ちしております。