見出し画像

短歌で小説作ってみた

短歌名「観覧車 回れよ回れ 想ひ出は 君には一日 我には一生」

主人公:葵(20歳女子大学生)
=田舎町に暮らす、ごく普通の女子大学生。
19歳の春、同じ大学に進学する翼と付き合い始め、素敵なキャンパスライフを過ごしていた。ただ、 
その一年後、脳に腫瘍が見つかる。無事手術は
成功するも、そのまた一年後癌が再発し、さらに
余命宣告を受ける。切なくも淡い、男女の愛を描いた
田舎町のある物語。

第8話【虚偽の信頼】

「私が守る」

恵から送られてきたメッセージの内容は
それだけだった。

「どうゆうこと?」

私はメッセージを送り返し、恵からの返信を待ったが、1時間経っても返信がくることはなかった。

ただ、私はそこまで気にすることもなかった。

みかさんが運んできてくれた夕食を口に運びながらノートを再度読み返す。

夕食を食べ終えた後も、何度も読み返しては書き直す作業を繰り返した。

ペンを止めたときには日付が変わろうとしていた。

今日の計画が上手くいったことに対しての達成感に浸りながら目を瞑った時、携帯の通知が鳴った。
続け様に、もう1度通知音が鳴り響く。

重い瞼を開き携帯を手に取る。送り先は華恋と千春だった。

「葵、ほんとごめんね。気づいてあげられなくて。そんなことがあったなんて気づきもしなかった。

辛かったよね。親友だからさ、これからもしそんな悩みができたら4人で助け合っていこ。

病院が暇だったらいつでも呼んで!」

千春からのメッセージだ。
続けて、華恋からのメッセージに既読をつける。

「悩みがあったら何でも聞くから!私ら親友だし、隠し事なしで行こう。

葵だけで溜め込まなくて良いからね。今度また病室
遊びに行くね!おやすみ」

「親友......何様?」

2人のメッセージを読み終えた後、手元にあった枕を窓に投げつけた。

私がいじめの話を千春と華恋にした理由。
それは試したかった。

見て見ぬふりをしていたこと、もし今日認めてくれたら、謝ってくれたら今まで通りでいいと思ってた。

でも、結果はまた見て見ぬふり。しまいには親友って。

ただ、どこかでホッとした自分もいた。
これで私が思い描いた計画通りに進めることができる。

「もう見て見ぬ振りはできないよ」

高ぶった感情を必死で抑え、強引に眠りについた。

約20年間生きてきた中で、ここまで気持ちが荒ぶったのは初めての事だった。


2月21日

外を見ると、大量の雨が歩く人々に容赦なく襲いかかっていた。

天気予報では曇りだったが、雨雲レーダーを見ると5時間ぐらいはこの大雨が続くようだ。

雨のせいか、あまり気分が乗らずぼーっと外を眺めていた時、病室の扉が開いた。

「また暇つぶしー(笑)体調はどう?」

「雨のせいで最悪」

扉を開けたのはみかさんだった。
いつものように口を動かしながら病室の掃除を始める。

「雨って最悪だよねー。葵ちゃんは天気の中で何が1番嫌い?」

「んー。やっぱり雨かな。髪の毛ベタつくし、化粧崩れるし。みかさんも1番ってなったらやっぱり雨?」

「私は曇りかな。中途半端な感じがして嫌い。

人も一緒で、やると決めて最後までやり遂げない人とか大っ嫌いだな」

「そっか。私も嫌いかも」

「あとは嘘を平気でつく人も嫌い。私って、こう見えて嫌いなタイプ多いんだよね(笑)」

「めっちゃわかる!私も大っ嫌い」

女性同士で話す時、愚痴を言い始めるとキリがない。
次から次へと出てくる。

天気で始まった会話だったが、気づけば10分近くも
愚痴話が続いていた。

みかさんが掃除を終え、ベッド近くの椅子に腰掛けた。

「ほんとわかる!私、葵ちゃんと気が合うかも」

「私もなんかみかさんと話す時は落ち着く。
男の先生は絶対無理。なんか臭いし」

「匂いのことは言わないであげて(笑)
最近気にしてるみたいだから」

「臭いものは臭いんだもん」

みかさんが笑いながら、スカートの裾を上げ
足を組み直す。

「それは否定できないけど(笑)
あ、そうだ。前から気になってたんだけど、そのノートって何のノートなの?」

「これは計画ノート。みかさんから自分の為に生きていいって言われてから、残りを自分の為に生きようって思って作ったのがこのノート」

そう言ってノートを取り、みかさんの視界からノートを外した。

みかさんは一瞬戸惑いを見せるも、すぐにいつもの
笑顔に戻り話し続けた。

「そうなんだ。でも良かった。最近、葵ちゃんの表情が良くなってる気がする。前より断然、生き生きしてる」

「でも、たまに怖くなる。本当にノートの通りにして後悔ないのかなって。これが本当に私のやりたいことなのかなって」

みかさんの表情が一気に険しくなった。
みかさんは足組みをやめ私の左手を握りしめた。

「葵ちゃんは間違ってない。大丈夫。それでいいんだよ、最後くらい。他の人なんて気にしなくていい。自分の人生なんだから。大丈夫」

私の左手を握りしめる力が少し強くなる。

みかさんの手は私の手よりも一回り小さかったが、この瞬間だけは誰の手よりも大きく、そして温かく感じた。

自然と私は涙を流していた。

「ありがとう。ありがとう。ほんとにありがとう」

今、感謝を伝えようとしても伝える言葉は
【ありがとう】の5文字しか思い浮かばなかった。

その言葉を、何度も何度も繰り返し伝えていた。

「気が済むまで泣いていいから」

結局、20分ほどずっと泣き続けていた。涙はとっくに枯れ、涙で濡れていた下着も乾き始めていた。

「大丈夫だよ。いつでも相談して。私は葵ちゃんの味方だから。何があっても、精一杯応援する。

そろそろ行くね。臭い先生に怒られちゃう(笑)」

「そうだね。クビにならないようにね」

「葵ちゃん、一言余計」

みかさんと顔を見合わせる。思わず吹き出して笑ってしまった。つられて、みかさんも吹き出した。

病室が穏やかな雰囲気に包まれた。扉が閉まり、1人になった後もずっとその雰囲気は漂っていた。

—————————————————————————

病室を去った後、私はすぐにトイレに駆け込んだ。

洗面台のセンサーに手をかざし、水が出るや否やすぐさま両手を流水に当てた。

洗面台に置かれている石鹸を手に取って何度も手のひらを擦っては流し、また石鹸をつけて擦る作業を何度も繰り返した。

手を洗い終えた後、顔をあげると鏡に私の姿が映る。
そこにいる私は、笑っていた。

念入りに手を拭き、トイレを後にする。そして、何事もなかったように次の病室をノックした。

「暇つぶしで来ちゃった。茜ちゃん元気?」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
看護師のみかから救いの言葉をもらい
より一層計画への確信が深まった葵。
ただ、そのみかは病室を出た後不可解な行動をとる。
人生計画の行く末はどうなっていくのか。
みかがとった不可解な行動の意味とは。

第9話に続く
12/23投稿予定

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?