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謎の動物、珍無腸動物

こんばんは。年内に片づけたい仕事がたくさんあってnoteの執筆が負担になってきています。ryoです。書くと言ったので書きます。ちなみにこれは「生物学類アドベントカレンダー2023」の20日目の記事です。絶賛中だるみ中です

さてみなさん、珍無腸動物をご存じでしょうか。ほとんどのみなさんは聞いたこともないと思います。それもそのはずで、珍無腸動物についての記述がある日本語の文献は、研究している私でさえ両手両足で数えられるくらいしか知りません。筑波大学の生物学類には珍無腸動物について触れる珍しい講義があるため伝わることもありますが、他大学の生物専攻の人に伝わったことは1度しかありません。それくらいの知名度です。

珍無腸動物とは

珍無腸動物とは、珍無腸動物門に属する動物のことを言います。エンプレス構文かな。門とは生物の高次分類階級です。分類については前の記事で語っているのでよかったら読んでください。

珍無腸動物はのっぺりとした柔らかい体の無脊椎動物で、大きく珍渦虫類、皮中神経類、無腸類の3つのグループに分けられます。主だった共通の特徴として、肛門を欠くことが挙げられます。「無腸」という名前もここからきています。口から食べた餌を消化吸収し、口から排出します。刺胞動物(クラゲやサンゴ)も同様のシステムですが、系統的に近いわけではなさそうです。

3つのグループの動画を見てみましょう。動画で見ればきっと可愛さが伝わるはずです。一般的な感覚では可愛くないかもしれない。こんなマイナーな生き物たちの動画が見つかるなんて、YouTubeって最高ですね。

最初は珍渦虫類です。以下に示したのは水中ドローンのようなもので深海底の珍渦虫類を採集する、素晴らしい動画です。二枚貝を食べているため、周りに二枚貝の殻が産卵しています。吸われる様子がとてもキュートです。珍渦虫の最大サイズは20cmほどで、珍無腸動物の中では極めて大型です。

続いては無腸類です。下は瀬戸内海に生息しているナイカイムチョウウズムシという無腸類の動画です。一部の種は藻類と共生するという興味深い生態を持っています。動画の種も藻類と共生していて、光だけで長期間飼育することができます。サイズは2mmほどだと思います。

最後は皮中神経類です。3つのグループの中で最も研究が進んでいないグループだと言えるでしょう。正直私もどんなところに生息しているのか知りません。無腸類と似ていますが、体の前側に平衡胞という小さな丸い構造が2つ見えるのが特徴です(無腸類では1つ)。

結論、どれもとても可愛いですね。

珍無腸動物の系統的位置

無腸類は見た目の類似性から扁形動物門に分類されていました。扁形動物門には再生力の高いプラナリアの仲間や、磯で度々見かけるヒラムシの仲間などが属します。しかし、近年発達した分子系統解析(簡単に言うと、DNAを解析することで系統関係を推測する技術)の成果が強力な根拠となって、珍無腸動物門として独立しました。

珍無腸動物の系統的位置は未だ確定されていません。珍無腸動物以外の左右相称動物の姉妹群になる仮説と、棘皮動物と半索動物から成る水腔動物の姉妹群になる仮説の2つが有力です。私は後者が正しいと思っています

珍無腸動物以外の左右相称動物の姉妹群になる仮説。
棘皮動物と半索動物から成る水腔動物の姉妹群になる仮説。

生物学専攻向けに系統的位置が定まっていない理由を話すと、一部の珍無腸動物(無腸類と皮中神経類)の分子進化速度が速く、長鎖誘引(LBA)が引き起こされてしまうからです。系統解析に用いるデータセットや配列進化モデルによって系統樹のトポロジーが変わってしまいます。分子系統解析以外のアプローチ(発生学や形態学的なアプローチ)が必要だと思います。

珍無腸動物内の系統関係ですが、無腸類と皮中神経類が最も近縁で、珍渦虫がその外側に位置するという説が有力です。枝が長くて怖いですが、形態的特徴・発生の特徴がよく一致しているため、合っていると思います。

こういうことです。

珍無腸動物に興味を持っていただけたでしょうか。珍無腸動物のうち無腸類は意外と身近で、浅い海の砂浜や磯場に生息しているようです。藻類と共生して光合成で栄養を得るという性質が関係しています。みなさんが海に遊びに行ったときにもしかしたら見つかるかもしれません。もし見つけたら連絡をください。とても喜びます。1mmくらいだと思いますが、頑張ってください。

太平洋沿岸に分布するオニムチョウウズムシ。水面に張り付いて腹側が見えている。

アドベントカレンダーの枠をとった後輩たちへ、忙しいとは思いますが、記事の投稿をお待ちしています

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