生き物を探すフィールドワーク
こんばんは。ryoです。
この記事は「フィールドワーカーの記録 Advent Calendar 2023」の13日目の記事です。このアドベントカレンダーには文理・所属を問わず、フィールドワークについて語った記事が集まっています。どうやら理系の記事は少なそうですが、お邪魔させていただきます。ネタに困っているので。
生物系のフィールドワークとは
生物系のフィールドワークについて書く人はいなそうなので、他の分野のフィールドワークとの比較をしてみたいと思います。まずは一般的なフィールドワークの定義から見てみましょう。Wikipedia の「フィールドワーク」のページを見てみると、以下のような記述が見つかります。
生物系のフィールドワークについて考えながら、前からこの記述を追ってみます。「ある調査対象」とは生き物のことです。細菌から哺乳類まで全ての生き物がフィールドワークの対象になり得ます。「そのテーマに即した場所(現地)」は多岐にわたります。都市圏をフィールドとしても興味深い発見があるでしょう。「対象を直接観察」することは生物学の基本です。「聞き取り調査やアンケート調査」を行うことは稀だと思いますが、現地の人が発信する情報やSNSの投稿がヒントになることは多いです。「現地での史料・資料の採取」によって標本を制作することが望ましいです。「学術的に客観的な成果を挙げるための調査技法」であることは、生物系においても間違いありません。「巡検」とは呼びませんね。
冗長になってしまいましたが、要するに基本観念は共通しています。生物系の特色としては、対象としているのがヒトではないというところでしょうか。自然が相手なので人間社会の礼儀やマナーに囚われる必要がありません。私は髭を剃らずにフィールドに出ることが多いです。地学のフィールドワークとは性質が近いと思います。
生物系のフィールドワークの目的は大きく2つに分けられます。1つは「特定の種を探し出すこと」、もう1つは「ある環境における生物相を明らかにすること」です。簡単に言えば、前者が「あの生き物を見つけたい!」で、後者が「ここにはどんな生き物たちがいるんだろう?」です。この2つの目的は明確に分けられているわけではなく、「ぼんやりとAという生き物を探しながら生物相を調査する」みたいなことが往々にして起こります。
フィールドに出るときの持ち物リスト
ネタの例として挙げられていたので、今一度まとめてみようと思います。いつも適当なのでよく忘れ物をします。私は主に小型魚類を対象としたフィールドワーク、いわゆるガサガサを行っているので、そのときの持ち物をまとめます。
たも網
マストアイテムです。基本的には網を固定して足で魚を追い込んで捕獲するのですが、上から被せたり泥ごとすくってみたりと、使い方次第で幅広い魚を採集できます。
胴長(ウェーダー)
胸まである長靴のようなものです。ガサガサでは浅い川や海に入って網で魚を捕獲するのですが、水の中で快適に過ごすために必須です。とても蒸れますが、脱いだ時の快感は凄まじいです。みんなも脱ごう、胴長。
カメラ
生き物や環境を撮影します。写真が重要な記録になることもあるため、必ずフィールドでは携帯しています。私はTG-6を愛用しています。
プラスチック製の小瓶やジップロック
採集した魚を持ち帰って標本にする際に使用します。法律で移動が規制されている種がいるので注意が必要です。
車
公共交通機関ではたどり着けないフィールドが多いです。汚れる可能性が高いので頻繁に洗車しましょう。
上記のもの以外にも水分、軽食、タオル、クーラーボックスなどは毎回携帯しています。夜はヘッドライト、冬は寒いので肘まであるゴム手袋なども用います。必須なものは少ないので気軽に始められますが、身の危険があったり法規制が複雑だったりするので、よく下調べをすることを勧めます。
下田市でのフィールドワーク
説明欄に「他人のフィールド思い出話が聞きたい!」という文言があったので、自分のフィールドワークについて語ろうと思います。しかし、生き物の生息地情報はセンシティブな情報で、希少な生き物の生息地は気軽に公開するべきではありません。乱獲の可能性があるからです。このため、「普通種」(一般に見られる種)を対象とした静岡県下田市のフィールドワークについて語ろうと思います。
下田市でフィールドワークを行った目的は、下田市の魚類相についてまとめて野生動物研究会誌に投稿することでした。私は野生動物研究会に所属しており、今年の雙峰祭(筑波大学の学祭)で会誌を頒布しました。会誌のテーマは自由でしたが、私は現在下田市で生活しているため、周辺にどんな魚が生息しているのかに興味がありました。上で述べた2つの理由では後者にあたる理由です。
幸いにしてフィールドには徒歩で行けるので、前の項でまとめた持ち物を持って採集に向かいます。記事の募集を開始してから締切まで期間が短かったため、一週間に3回ほどフィールドに行って網を振ることになりました。自然が相手なので、天気が悪い、波が高いなどの理由でフィールドに出られないこともありました。しかし、記事を書き切るために実験を終えた夜にフィールドに向かいます。
フィールドに何度も通っていると、環境を手掛かりにして生息している生き物を予想できるようになってきます。川で言えば、河口からの距離、植物の生え方、川底の環境(砂・泥など)、流速、水質、周辺環境など、様々な要素がヒントになります。今回の調査でも「あの生き物がいるはずだ」という思いで探し当てた生き物がたくさんいます。
幸いにして、徒歩圏内のフィールドで21種の魚類を採集することができました。この中には下田市で報告のなかった種も含まれており、魚類相の報告として価値のある記事になったと思います。記事の執筆のために過去の文献を調査したことで、付近の環境で見られる魚類についても理解が深まりました。
私にとってフィールドワークとは、生き物と直に触れ合って、生命の力強さや儚さを感じることができるライフワークです。アマチュアの報告も重要な価値を持つため、これからの人生でフィールドでの生き物観察を辞めることはないでしょう。
みなさんも思い立ったときに身近な自然を観察してみてください。きっと素敵な出会いがあるはずです。観察する目さえあればどこでもフィールドになるのです。
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