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諸刃の剣のスプリット

スプリットフィンガー・ファストボール(Split-Finger Fastball、ここではスプリット)は歴史が浅く、1976年にメジャーデビューし5回の最多セーブに輝き殿堂入りしたブルース・スーターが開発したと言われています。引退したロジャー・クレメンスや現役だと田中将大など、時を経てスプリットを使う投手が増えました。

スプリットはFastballと名がついてるように、フォークボールよりも球速が速く、見極めがフォークよりも難しいと言われています。そのためメジャー→日本にこの球が伝わった時は「現代の魔球」、「20世紀最後の魔球(ダイヤのAで知りました)」と評されました。

しかしこの球はフォーク同様負担が大きい球でデス・ピッチと言われる程です。事実、負担を考えスプリットを投げるのを推奨しないチームがあります(投稿の最後にある出典のThe Newyork Timesの記事によるとそのチームはLAA、MIN、SF、CIN、SD、TB)。この投稿では何故スプリットやフォークが危険視されているのかまとめていきます。

1. スプリットのかける負担

まず初めにスプリットだけでなく、どの球を投げるにせよ腕に負担は必ずかかります。投手の写真で下のチャップマンのような腕がしなる瞬間の写真を見たことがあると思いますが、この状態は肘や肩に大きなストレスがかかっている状態です。しなりが大きいほど強い球を投げれますが、代償に腕へのストレスも大きくかかります。そのため、投げるという行為に負担はつきものです。

フォークやスプリットは挟んで投げます。更に抜けてしまうと落ちずに甘くゾーンに入ってしまうのでそうならないよう握力が必要になります。実際にやってみたら分かりますがボールを挟む時には力がかかります。

試合中この球を多投すると握力が落ちその中で投げ続けると負担も増します。2013年の日本シリーズで菅野がフォークを多投したため握力が無くなり、楽天打線に捉えられたという解説を聞いた覚えがあります。フェアプレイ・データの石橋秀幸社長によると投げすぎると握力が落ち、手がむくむことがあった投手もいるとのこと。またフォークを投げた時はストレートより1.4倍の急ブレーキがかかり(下図)肘への負担が大きくなります。(出典『 田中将大投手を襲ったケガの裏にあるもの』 図は記事内にあったもの。 図の参照 車谷洋、村上恒二、「フォークボールと肘関節障害」、臨床スポーツ医学 19-4)

この図は肘にかかる加速度を示しています。スプリットやフォークは挟むことでボールの回転を減らし、空気抵抗を得て落とします。落差のあるものを投げようとするとリリース時に更にブレーキが必要となります。ここで言うブレーキは、直球はそのまま指に縫い目がかかってスピンがかかりスっとリリースするのに対して、フォークを投げようとするとリリース時に指にボールが引っかかる感覚のことだと思います。

図を見るとフォークのリリースの瞬間のブレーキが大きく、「ボールリリース」後のブレーキが直球のより大きくなっています。そのため腕にかかるストレスもその分大きくなります。

2. スプリット使いの離脱期間

以前、ツイートでこの記事を紹介しました(noteに表示されない(やり方分からない)のでTwitterの方で見てください)。

https://twitter.com/shhamilton32ryo/status/1005284890651193344?s=21

この記事は2014年の記事で、MLBでスプリットを投げている投手の離脱について書かれたものです。2010年〜2013年の各年のスプリット投球率10%以上の上位15人の投手を見てみると…

2010年…4人/16人がDL。4人で計300日の離脱。最長はブラッド・ペニーの126日(投球率も1位で34.2%)。

2011年…6人/15人がDL。6人で計401日の離脱。最長は松坂大輔の134日(投球率11.9%)。投球率1位はホルヘ・デラロサの28.4%(離脱126日)。ペニーは手術後にスプリットの率を半分に。

2012年…8人/15人がDL。8人で計736日の離脱。最長はデラロサの170日(投球率も1位で36.3%ですが登板数は3試合のみ)。デラロサと松坂は前年に手術。

2013年…6人/15人がDL。6人で計400日の離脱。最長はブランドン・モローの120日(投球率14.4%)。投球率1位はデラロサの27.7%ですがDLは無し。

ホークスファンにとっては頭が痛くなる選手がちらほらいますが、スプリットの投球割合が多い投手は離脱日数が多いかなと思います。MLBではスプリットは危険という考えが広まっており、そのため全体の数が少ないですが、2012年は約半数がDL(故障者リスト)を経験してます。松坂はこれまでの投げすぎの蓄積もあると思いますが、デラロサは使用率も高い上に手術を受け、他の投手よりも離脱日数が多くなっています。ベニーは手術後にスプリットの割合を減らすなど、怪我の影響があります。

さらにこの記事では、スプリット使いの離脱の平均は77日、中央値は74日。MLB全投手の離脱の平均は69日、中央値は51日と紹介しており、離脱の日数は多いです。やや古めのデータなので今は変わってると思いますが、やはりスプリットは諸刃の剣と認識されてると思います。この影響もありスプリットを封印、または投球率を減らした投手もいます。

終わりに…

スプリット、フォークは負担が大きいというのは事実ですがケア次第では十分に長く現役を続けることが出来ます。有名な例だと黒田博樹や上原浩治、ロジャー・クレメンスがそれです。

現在、球速の高速化が進み、人体の限界に近いパフォーマンスを見ることが出来ます。そのため、スプリットという負担の大きい球を投げるためにはより一層の注意が必要になってきます。例えば球数や連投、フォームに気をつけたり、一度大きな怪我をしたならスプリットの割合を減らすなどが対策だと思います。もちろん登板後のケアも重要です。

日本ではフォーク、スプリット使いは多いです。MLBでもスプリット使いが0ではありませんが、ストラスバーグやシンダーガードなどが投げる90マイル近い速く、鋭く落ちる高速のチェンジアップがスプリットの役割を果たしています。スプリットが人体の限界に近づくにつれて薄れていくのか、または現代の魔球として存在し続けるのか見ていきたいです。

出典…
田中将大投手を襲ったケガの裏にあるもの (月刊Wedge) - オピニオンサイトiRONNA https://ironna.jp/article/478# iRONNA

車谷洋、村上恒二、「フォークボールと肘関節障害」、臨床スポーツ医学 19-4

Do splitters ruin arms? https://www.beyondtheboxscore.com/2014/3/5/5466414/do-splitters-ruin-arms

Split-Finger Fastball: Use of a Popular Pitch Falls Off the Table https://www.nytimes.com/2011/10/02/sports/baseball/split-finger-fastball-use-of-a-popular-pitch-falls-off-the-table.html

#MLB #NPB #変化球 #怪我 #投手

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