一期一会の思い出が、今を楽しませてくれている【旅が僕らに教えてくれたこと#2】
mio(会社員)
「私たちは、死ぬときに、お金も家も車も恋人も家族も、何も持って行けない。自分が着ている服も身につけている指輪も、何ひとつ持って行けないのだ。持って行けるのは、もう持ちきれないほどたくさんになっている思い出だけだ。悪い思い出もきっとあるだろう。でも、それはきっと死ぬときにはよい思い出に変化しているだろう。そしてよき思い出をたくさん創ることだけが、人生でできることなのではないか、そう思う。」
よしもとばなな『人生の旅をゆく』 70頁より(2016年/NHK出版)
ベトナム横断中のゲストハウスにあった一冊の本
リビングに置かれた日本語の本。手にとったら綺麗な真新しい本。不思議に思いながらも、読み進めたら止まらなくなった。そして冒頭の言葉に出会えた。
その当時、まだ学生だった私は、長期休みの度に貯めたバイト代でちょこちょこ旅に出ていて、旅に出ることが学生生活の一部だった。
さらに社会人になって、旅の目的が”貴重な休みに最大限リフレッシュすること”に変わり、冒頭の言葉は頭の片隅に追いやられてしまった。
そんな中、前代未聞のコロナ禍になり海外旅行ができなくなってしまった今、茫然と昔の旅を振り返ることが多くなっている。
そして初めて、冒頭の言葉の意味を心から理解した。
旅という大好きなことができなくても、過去の旅の思い出が今の自分を支えてくれる。特に、旅先での何気ない会話や交流、その多くは一期一会だけど、わたしの中でずっと大切にしたい思い出ばかりだ。
その中でも印象に残っている、ノルウェーでの一期一会を書いてみようと思う。
〈よしもとばななさんとの本の出会いはビーチリゾート〉
電車のホームでの一期一会
ドイツにいる友人を訪ねる途中、ひょんなことから2泊3日、ノルウェーに行くことになった。空港から市内へ行く駅のホームで電車を待っていたら、父親がサンタクロースのようなルックスの親子に声をかけられた。
「この電車は中央駅に行きますか?」
私は少し不安な顔で、「多分……」と答える。すると、
「えぇ!多分なの!?」
と言われてしまった。すかさず「もっと地元っぽい人に聞いてください」と言ったのだけど、腑に落ちないリアクションをされてしまう。
(ノルウェー近隣の国から来た親子なのだろうか?わたしが一番ボケッと立っているから話しかけやすかったのだと思うが、他にも詳しそうな人はわたしの周りにたくさんいるのに……)
そんなことを考えながら、「どこの国から来たんですか」と聞いてみる。すると、
「ノルウェーの北の方だ」とドヤ顔で返答される。
(正真正銘、サンタクロースじゃん……)
わたしの顔は、無になった。
そんな突っ込みどころが満載のサンタクロース親子だったが、身の上話が弾み、「わたし、実は日本の会社でうまく行ってなくて、色々あって旅行してます」と、つい本音もこぼれる。すると、
「だったら、ノルウェーで働けばいいじゃん。きっとみんな英語で話してくれると思うし」
と希望観測的なことを発言する、サンタクロース。
(うん、絶対使い物にならないじゃん、わたし)
だけど、仕事で自信を失っていたわたしには、そのサンタクロースの言葉が純粋に嬉しかった。
〈散歩の途中で思わず撮影、穏やかな表情のストーントロールさんカップル〉
Airbnbのホストファミリー
そんな出会いから幕を開けた、ノルウェーの旅。
「せっかくだから、友達おすすめのAirbnbも試してみよう」
ムンク美術館に近いところで、お手頃な価格の部屋を見つけた。
ホストファミリーは学生カップル。乗り継ぎを重ね、合計24時間のフライト後&電車でヘトヘトになりながら、見つけたホストファミリーの家。家に近づくと、ホストのヘンリックが窓から身を乗り出して手を振って歓迎してくれていた。その時、心身が一気に癒されたのを、今でも鮮明に覚えている。
見ず知らずの旅人を全力で歓迎してくれるホストカップル。リビングにある無数の食用ハーブの試食を勧められ、全ての葉っぱをちぎって食レポするのは大変だったけど。
また、日本の音楽について聞かれ、きゃりーぱみゅぱみゅを紹介したら、謎にハイテンションになって喜んでくれたホストカップル。旅の疲れか、そのハイテンションについていくのは、少し大変だったけど。
そんな何気ないホストファミリーとの時間は、対人関係に疲れ切っていた自分に、喜びと新鮮な空気を与えてくれた。
ノルウェーではムンクの叫びや王宮、オペラハウスなど、オスロの主要な観光地は見て回ったけど、わたしにとってのノルウェーは、サンタクロース親子とホストファミリーとの出会いが全てである。
その出会いが、わたしの旅を特別にしてくれた。
〈観光のお供にホストファミリーがくれたムーミンたち、散策途中の公園にて〉
旅での一期一会は宝物
旅はわたしたちを日常から切り離し、特別な思い出を作ってくれる最適な材料だと思う。
旅での一期一会は宝物。それが旅が教えてくれたこと。
そしてまた、旅に出られるようになったらもっと大胆に旅にでよう。
最高の一期一会を求めて。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?