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わたしの旅は、誰かの生活でもあると気づいたとき。【旅が僕らに教えてくれたこと #5】

Atsuko (会社員/旅行業界)

「旅にかかるコストはなるべくセーブしたい」
「タクシーや土産物屋でぼったくられるのなんて勘弁…」



海外を旅する人の多くは、こんなふうに思うのではないだろうか。
一方で、程度の差はあれ、タクシーの運転手や土産物屋にふっかけられたことがない人のほうが少ないはずだ。



大人になって初めての海外旅行で、ガイドブックで注意されている通りの高額ぼったくりタクシーに乗ってしまい、友達と勇気を振り絞って信号待ちの間に車を降りたという苦い思い出があるわたし。以降の旅では、「適正価格以上は絶対払わないぞ!」という強い気持ちを持って、ぼったくられないで移動・買い物をするべく、時に若干ピリピリしながら旅をしていた。

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<トリニダ@キューバ。市場の買い物は値段交渉が難しくて苦手。この時は、わたしが持っていた自撮り棒と自分の売り物どれでもいいからを交換してくれと言われたのが思い出…>


東南アジアのタクシー事情は一時期に比べてだいぶ改善されていると感じるけれど、フィリピン(マニラ)のタクシーだけは厄介だ。
「メーターで!」と確認して乗っても、「この時間はトラフィック(渋滞)だから〇〇ペソかかる」と平気で相場の倍以上の値段を言ってくる。メーターを回していても、途中で「トラフィック…」といって追加料金を要求される。

出張とプライベートで何度も訪れるうちに相場がわかってくるので、だいたい強気に値段交渉をするけれど、彼らはトラフィック、トラフィックの繰り返しで、結局、いつもこちらが折れることになる。

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<マニラ中心部。いつ行っても車・車・車。本当に何の変哲もない道の写真をなぜか撮ってしまう>

2017年のとある日も、マニラでむかつく運転手に出会った。


歩いても行ける距離と場所だったのだけれど、暑いしタクシーに乗ろうと思って、大通りでタクシーを捕まえた。メーターOKというので乗ったところ、案の定トラフィックと言い出して、市街から空港まで行けそうな値段を要求してきた。


私「(まあこれくらいかな、という金額にちょっと上乗せして…我ながらやさしいなとおもいながら)〇〇ペソならいいよ。」


運「いやいや、△△ペソだね。」


私「ノー!わたしフィリピンよく来るから値段わかるからね。高すぎる!」


運「これ以下は無理。嫌なら降りて他探して。外暑いけどね。」


私「(キー!むかつく)。私の金額で十分でしょ!それ以上払わないからね。」


ここで車内が若干険悪なムードになった。ここは降りるのが正解だろうか。
そう思っていたところで若い運転手がしんみりした感じでこう言った。

運「…あのさ、日本人にしたらこんなの全然大した金額じゃないでしょ。でも僕はこの差額でご飯が食べられるの。家族を養わないといけないから、毎日ランチも食べずに儲からないドライバーの仕事してるの。日本人、お金持ってるんだからこれくらい払ってくれてもいいでしょ?」


彼の発言は、ずいぶん日本人(外国人)はカモにされてるなと憤ってもよいものだけど、なぜかその時のわたしは、それもそうだなとストンと納得してしまった。
ずいぶん物分かりのよい客だと今になって思うが、コーヒー1杯にもならない金額で二人きりの車内でいやなムードになるよりは、気持ちよく払って、彼にも気持ちよく仕事してもらおう。大変だもんね…子供いるとお金かかるし…と、まぁそんな気分だったように思う。


私「うーん…オーケー。じゃあその値段で行くわ。」


運「(急に元気になって)サンキュー!」


運「ところで、家族いる?え、独身?なんで結婚しないの?日本人働きすぎ。仕事ばっかりしてないで、早く結婚しなよ~(ニコニコ)」


今日のランチ代を稼げた彼はご機嫌に何事もなかったかのように世間話をはじめ、短い旅路の間、おそらく10歳以上年下の彼に、早く彼氏を作って家庭を持って親孝行しろと上から目線で言われ続けたのだった…。

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<若者よごめん、わたしは相変わらず、シュールな本を読みながら旅をしています。。。>

そんなわけで以降の旅では、日本より経済状況がよくない場所、という前提ではあるが、交渉で値段を決める買い物や移動をする際に、少し高いなと、盛られてるかなと思っても、そのまま支払うようになった。
もちろん悪質なものには対抗するけれど、そうでなければ、値段交渉でムキーっとならなくてすむので、心の平静も保つことができてWin-Winではないかと思っている。

「いや、結局運転手の思うつぼで結局余計なお金を払わされただけじゃん」と言う人もいると思うし、まあ実際そうなのかもしれない。

けれど、“余計なお金は絶対払いたくない”という凝り固まった頭を、“少しのお金で現地の人の財布が潤って、自分の心の平静も得られるのなら、別によくない?”へと少し柔らかくしてくれた、あの時の口のうまい若者との出会いは、わたしにとっては大きく、旅先の小さなアクシデントも悪いことばかりではないのかなと(半ば強引に)思う次第だ。

サンミゲルデアジェンデ

<サンミゲル・デ・アジェンデ@メキシコの風船売りおじさん。この時は、こんなの誰が買うんだろうと思いながら写真を撮ったけど、今なら思い出に買ってもいい…かな!?>

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