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知らない誰かんちに泊まる旅【だから旅は、やめられない。 #25】

匠平(会社員)

2015年11月。妻とヨーロッパ2か月の旅行に出た。

最初の滞在地イタリア・ヴェネツィアでのゲストハウス2泊分しか予約しておらず、他の予定はほとんど白紙。その後の宿泊は Couchsurfing (カウチサーフィン) でのマッチングに頼っていた。

Couchsurfingとは、簡単にいうと無料版の Airbnb。旅人同士がつながる SNS で、部屋が空いてるなら無償で提供しあおうよ、という Give and Take の優しい世界観で成り立っている。

そんな Couchsurfing での思い出深い出会いを挙げてみたいと思う。

気遣うホスト

スペイン・バルセロナで初めてマッチングし泊めてもらえることになった。

私たちより少し年上くらいのとても明るいスペイン女性で、学校の先生をしていた。そういえばプロフィールには彼氏と住んでいると書かれていたが、聞くと数日前に破局したらしい。その元彼は、新居が見つかるまではその家にいるとのことだった。急に気まずい。

そんな話をしていると元彼が挨拶に出てきた。彼がスペイン名物トルティーヤを作ってくれるそうだ。十八番メニューらしく、お店で出てくるような立派なトルティーヤを堪能させてもらった。

あの美味しいトルティーヤは私たちにとって一期一会のものだが、彼女にとっても最後のトルティーヤだったのかもしれないなとか考えてしまった。

その夜は美味しいトルティーヤの余韻と旅の疲れと気まずさを抱えながら眠りについた。

▼卵の風味がたっぷり詰まったトルティーヤ

トルティーヤ


涙の別れ

ポルトガル・ポルトのホストは顔で選んだ。

たまにはそんな選びかたもありかなと思い、きれいな女性にリクエストしたら、滞在予定日と都合が合ったようで数時間後にOKをもらった。顔で選んだことは妻には言ってない。

ホストの彼女はヨガのインストラクターをしており、オーガニック食品を嗜むナチュラル系のスラッとした出立ちの美人だった。その容姿以上に彼女の性格の良さが際立っていて、妻もその人柄に惹かれてすぐに意気投合していた。泊まらせてもらっている間も私たちの身の回りのことに気を遣ってくれてとてもお世話になった。

2泊させてもらった出発の朝、電車に乗り遅れないよう急いでパッキングしていると、彼女から「朝食を準備しようか」と提案してもらった。私は時間がない焦りと遠慮から「大丈夫だよ」と答えた。

その後、身支度を終えて玄関でお礼を言おうと振り向くと、彼女が涙を流していた。妻もそれに応えるように彼女の手を取り感謝の言葉を伝えながら泣いていた。その瞬間、あのとき朝食を提案してもらったのは、私たちとの別れの前の最後の時間を一緒に過ごしたかったのだと悟った。そんな想いにも気付かず無下に断ってしまった自分をとても悔やんだ。

遥か遠い土地でこんなに素晴らしい人との出会いができたことで、私たちはより旅に魅了されていった。

顔で選んだことはもう妻には言えない。

▼夜景を一層美しくするドウロ川の景色

ポルトの夜景

学生寮で雑魚寝

ドイツ・ドレスデンでは、インド人の留学生とマッチングし、彼の住む学生寮に泊まらせてもらった。ちょうどクリスマスを過ぎた12月26日で、ほかの学生たちはホリデーシーズンを家族と過ごすために寮を空けているようだった。

部屋に通してもらうと、彼がルームメイトと使っているおおよそ8畳くらいの一室だった。ここで一緒に川の字になって寝ようということだな、と察した。置いてある物を整理すれば3人で寝れないこともない。一晩泊めてもらうんだし仕方ない、と妻と納得しあった。

その後同じ寮に住むインド人の女の子が晩ごはんの準備を始めると、ヨーロピアン女性2人組の旅人と、ギリシャ人のカップルの旅人も加わって、わいわいと賑やかなディナーを過ごした。

夜も更けてきたころに、そろそろお開きだねと散会したが、ギリシャ人カップルは同じ部屋で就寝の準備をし始めた。「お前らもここで寝るんかい」と心の中でつっこんだ。男のほうは190cmほどの身長に、ギリシャ神話の英雄ばりのガタイの持ち主だ。彼ひとりが寝るだけでスペースの半分は持っていかれてしまう。今さら不満を言える訳もなく、妻と目を合わせ仕方ないと納得しあった。

各々がテトリスのピースになったように部屋のスペースを埋めることで、何とか就寝することができた。

今さらだが、私たちは学生寮に入ってはいけなかったんじゃないだろうか。

▼学生寮のキッチンでインドカレーを作る

学生寮


私たちが旅を通して見てきたものは、そこで誰かが営んでいる日常だ。彼らの日常が私たちにとっての非日常の体験になって、こうして忘れがたい思い出となっている。

同じように私たちが日本で営む日常の体験も、彼らにとっては非日常であり、異国情緒を感じさせるものなのだろう。お互いの日常の体験を共有し、驚いたり共感して感心したり笑ったり、グッと心通う瞬間がある。これがあるから、私たちは旅をやめられない。

まだまだ旅に出れない事態が続きそうだけど、また出会う誰かに伝えるために、この日常をしっかり営んでいこうと思う。


Twitter:https://twitter.com/show60


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