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窓口業務のDXは、営業力アップと業務効率化への鍵。データ活用による次世代営業施策も視野に入れた、東急バスの挑戦とは

2022年夏より、スマホ定期券(通学・特殊タイプ)および企画乗車券『夏休みファミリーワンデーパス』(現在は発売終了)デジタルチケットの発売を始めた東急バス。
新型コロナウイルス感染拡大の影響でバス定期券の委託販売先である駅の有人窓口が縮小されたことがきっかけで、サービス低下を補うための新たな販売経路を確保するためにRYDE PASSアプリの導入検討をはじめられましたが、実際に発売してみるとマーケティングデータの取得や業務効率化など、様々なメリットに気付いたそうです。

これまで、通学定期券や特殊定期券発売の際に必要となる学生証のチェックや、障害者手帳と身分証明書の同時確認といった審査業務のためデジタル化が難しかった割引定期券の販売ですが、これらのハードルをクリアできたのが「RYDE PASS」のシステムであり、大きな決め手となりました。
これまで抱えていた課題やデジタル化までの道のりを、ご担当者様にうかがいました。

東急バス株式会社運輸事業部 計画部運輸営業グループ石 洋一 氏


通勤通学輸送メインの運営が特徴

生活路線の東急バス
弊社はバス車両約1000両を有する東急グループのバス会社で、渋谷を起点とする東京都の城南エリア、また神奈川県川崎市、横浜市北部の主に東急線沿線エリアで一般路線バスをメインに運行しています。営業所は12ヵ所あり、生活路線となる一般路線バスのほか空港連絡バスや地方都市を結ぶ高速バス、そして観光バス事業も行なっています。
おもに東急線沿線の住宅地をカバーしていることから、利用者はバスと鉄道を併用する通勤や通学のお客様が多いのが特長です。おのずと駅を軸とした動線になるため、定期券類は東急線の駅発売窓口でも販売しています。

私自身は入社25年になりますが、現場から運輸部門や整備部門、そしてベトナムにおけるバス事業開発など、多様な業務に携わってきました。そして今年春からは運輸営業に関する立案、実施に関わる部門の担当となり、「RYDE PASS」の導入を手がけることになったのです。

減り続ける有人窓口、その解決をDXに求める

デジタル化が進む東急電鉄
定期券などの乗車券類はバスの営業所や駅で発販売しています。しかし、バスの営業所というのはバス車庫としての都合で立地しているためアクセスがあまり良くない場所にあることが多いことから、販売数全体の8割は、アクセスの良い駅の窓口、すなわちグループ会社である東急電鉄への委託販売でまかなわれているのです。
逆に言えば、自社窓口があるにも関わらず、2割しか買いにいらっしゃらないということ。東急電鉄への委託販売に大きく委ねている点は、根本的な課題でした。

また、アクセスの良い所に自社の出先窓口を設置するにしても、業務の繁忙期は新年度や新学期の前後などかなり限定的なため、通年営業するには運営コストがかかりすぎます。実際、過去に多くの出先窓口を構えておりましたが、コストに見合わず大半が閉鎖となりました。
さらに最近は鉄道会社もコロナ禍においてはコスト面の問題から、定期券の有人販売窓口を縮小するところが増えています。東急電鉄でいえば、武蔵小杉駅や二子玉川駅といったターミナル駅でさえ窓口を閉めているほどです。つまり弊社としても委託先が減ってしまい、販売チャネルを確保するのが急務となったわけです。

販売チャネルの模索で出会ったデジタルチケット
そんな中、RYDEをはじめスマホによる電子チケット形式で定期券や企画券を発売するのはどうかという話が持ち上がりました。
鉄道の定期券は無人販売(駅券売機での販売)にシフトしており、バス定期券もそれに対応しているものの、通学定期など割引定期券への対応が難しいという側面がありました。通学や特殊(障害者用)定期券を発売する際は、学生証や障害者手帳といった資格証明書の目視チェックがなため、どうしても有人発売窓口が必要だったわけです。
また、路線限定の定期券も販売しているのですが、それは該当する営業所でなければ販売できません。例えば青葉台(神奈川県横浜市)の一部エリアでしか使えない定期券を、淡島営業所(東京都世田谷区)で買うことはできません。これらの課題を解決できるのが電子チケットのシステムだったのです。

RYDE PASSを導入した理由

特殊定期券のデジタル販売は難しい
こうして昨夏ごろから乗車券・定期券のデジタル販売施策検討が始まったのですが、そもそもこれらにスマホアプリを活用している会社が業界内にあまりなかったため、前例のない中で模索しなければなりませんでした。
前任者がたまたま知り合ったご縁で、昨年12月から他社システムで発売時の承認を必要としない通勤用定期券の販売はスタートできましたが、承認が必要な割引定期券について複数の書類確認など当社の求める基準に沿えるシステムではなかったため見送りとなりました。そんな中でも、駅有人販売窓口の縮小は続くばかり。正直、担当者一同焦っていました(笑)。

両面や複数の証明書チェックが可能な「RYDE PASS」
アプリで定期券の発売をする際も、「審査の方法や条件に有人窓口との差をつけられない」というハードルを乗り越えるのが、とにかく大変でした。
アプリで発売した方が我々もお客さまも簡単手軽であったとしても、その審査が緩くなるのはまずい。そのため、証明書(学生証・障害者手帳など)の写真アップロードが1つしかできないシステムを導入するわけにはいかなかったのです。写真1点ですと、例えば表裏両面や身分証明書を合わせてチェックすることができませんからね。

あれこれ探している中で、RYDEさんを知り、弊社の求める基準に沿った審査、発売が可能であることがわかりました。「RYDE PASS」の導入を検討しはじめたのが2022年6月頃でしたが、話はトントン拍子に進み、2022年8月から割引定期券(通学定期券・特殊定期券)のデジタル販売がスタートしました。

RYDE PASS導入後のメリット

実は割引定期券デジタル化の前に、7月下旬から企画乗車券を「RYDE PASS」で販売開始しました。
「夏休みファミリーワンデーパス」という商品なのですが、実はそもそも今年はやめようという話も出ていたんです。それまで乗車券としては常識であった紙の乗車券をバスの乗務員が車内販売するのはハードルが高いですし、かといってアクセス不便な営業所にわざわざ買いにいらっしゃる方も少ないだろう。
また、紙券は印刷コストもかかります。さあどうしようというところで、企画券が得意なRYDEさんと出会い、ビシッとハマったんです。
デジタル企画券を利用したのは、これが初めてでした。すでに普通定期券をデジタル発行していたにも関わらず、自分たちでは思いつかなかったんです(笑)。「夏休みファミリーワンデーパス」発売直前まで、デジタルチケットを使う発想がなかったタイミングでRYDEさんと出会えて、本当に助かりました。

スムーズな導入で現場の不満もなし
RYDEさんはバスに対する事業理解が深く、導入までも非常に短期間で済みました。我々が持っている課題感もすんなり理解いただけましたし、同じ方向を見て開発できたのではないかと思っています。
デジタル企画券の発売は初めてでしたが、「意外と売れたな」というのが率直な感想です。この成果を踏まえ、今後はどのように売っていくか検討していきたいですね。こちらとしては不安であったアプリの使い方についてお客さまからお問い合わせいただくこともほとんどありませんでしたし、導入後の現場の混乱がなかったことも良かったです。さらに、管理画面で売上が瞬時に出来る点はやはり大きいです。従来だと営業終了後にいったん締めて、売上数量をシステム入力するといった手間がかかっていましたから、業務効率化にもつながっていると思います。
「RYDE PASS」の口コミ機能は今の時代のニーズを反映していると思いますし、直接お客さまの声が拾える点はありがたいですね。利用者からの評価点数が高いのは、素直に嬉しいですし、現場のモチベーションアップにもつながりますね。
割引定期券の販売に関してはまだスタートしたばかりですが、現場などからこれからどんな反応が出てくるか、ある意味楽しみです。

RYDE PASSをマーケティングに活用

定量データが取れたことで、多くの気付きが
デジタルチケットによって窓口業務を減らせることはコスト削減につながるため、今後もどんどん押し出していきたいです。
「RYDE PASS」を導入して感じた一番のメリットは、データが取れることです。ユーザー属性はこれまで販売担当者や乗務員の感覚値でしか語られず、データに基づくユーザー属性は蓄積できませんでした。
デジタルチケットであれば、それらのデータが手軽に把握できます。実際、「RYDE PASS」の導入についてバス車内や東急電車内で広く告知したところ、どの営業所路線でも満遍なく利用されていたのは面白かったですね。
お客さまの利用曜日や期間もみごとに散っていました。アナログな乗車券では、こういったデータは知りようがありませんでしたし、非常に可能性を感じました。
バスの抱えている見えない流動とニーズを掴み、物販や行動把握まで実施することで、グループ会社全体のカスタマーサクセスの底上げにもつながりそうです。

定期券にもデータ活用が急務
また、定期券においてもデータ活用の必要性を実感しています。使用目的や使用頻度、購入層が定量化できていませんでしたが、これらのデータを検証できることで定期券制度そのものをどうするか、使用頻度などの使われ方に合わせた設定に調整しようかといった検討材料にもなると思います。
そのためにも、鉄道とバスで連携した施策を考える必要があるでしょうね。データ連係でエリア分析ができれば、営業方法がさらに広がるかもしれません。データ活用によってあるべきマーケティングを実施し、バスのサービス向上とバス利用者全体を増やしていきたいです。

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