竹下隆一郎/ PIVOTチーフ・グローバルエディター
SDGsの和訳は「三方良し」ではない
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SDGsの和訳は「三方良し」ではない

竹下隆一郎/ PIVOTチーフ・グローバルエディター

先日、GOという会社が主催したTHE CREATIVE ACADEMYのオンライン無料体験講座『SDGsとクリエティブ』に登壇した。(トップ写真はGO代表の三浦崇宏氏のTwitterより。当日の様子はハッシュタグで追うこともできる)

GOの勝田彩子さんと砥川直大さんとトークを行った。砥川さんが面白いことをおっしゃった。

「日本語の『三方良し』には足りない視点がある」。

三方よしは、デジタル大辞泉の定義では、こう書いてある。

「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」。売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるということ。近江商人の心得をいったもの。

日本語に昔からある言葉で、大手商社の伊藤忠商事も、経営理念の基盤として引用する言葉である。そのためか「SDGsは日本語で言えば、三方よしと同じだ」ということをよく聞く。その根底には、これまでの強欲な資本主義はアメリカ特有のもので、日本社会は昔から「ビジネスと社会貢献を両立させていた」という自負心のようなものもあるのかもしれない。

しかし砥川さんは「三方良し」の理念の深い意義は認めつつ、未来の視点が足りないのではないかと問題提起された。これまでのCSRの議論でも聞かれる論点で、私も同感だ。

SDGsは2030年の達成をめざしている。菅義偉首相の「カーボンニュートラル宣言」は2050年脱炭素社会をめざしている。まだ生まれていない人を含む未来の世代のことを考えないといけない。「未来良し」が求められている。

「未来良し」だけではない。新型コロナウイルスや2008年のリーマンショックによって、私たちは、自分たちの社会システムが世界中と複雑に絡まっており、一地域の出来事が瞬く間にグローバルに影響することを知った。

自分たち日本社会の内なる世間だけではなく、「世界」が「良し」でなくてはならない。つながり過多とも言われる時代、考えるべき「良し」は無限にある。

それに、近江商人がおそらく想定していなかった、異常気象をめぐる金融リスク、資本主義への疑義を唱える緊張感のある議論、ジェンダー平等などの論点もSDGsでは重大だ。

SDGsやらサステナビリティやら。ESGやPRIまで。こうした横文字を知ると、アジア圏の私たちはちょっとわかりにくいと感じ、日本語に置き換えようとする。それは日本語の文化を守るという意味でも素晴らしいことだ。

しかし翻訳には「こぼれ落ち」がつきまとう。要するにこういうことでしょ、と翻訳した瞬間にその言葉が持っている新規性が失われ、自分の知識に引きつけてしまうーーバイアスが生まれる。

三方良しを否定しているわけではない。SDGs、SDGs、と流行のビジネス用語のように口にするだけの人より、昔から地道に取り組んでいる企業のほうが、社会にインパクトを与えている。しかし、同じように見える言葉の「和訳のしづらさ」を知ることで、より本質的な理解を深められることもある。

このクリエティブアカデミーは、クリエティブディレクターの養成教育プログラムだという。最初呼ばれたときは「なぜSDGsの話を?」と思ったが、SDGsは、環境問題と同時に「コミュニケーションのあり方」が問われていることだと改めて勝田さんや砥川さんから教えられた。

このnoteは、私が『SDGsがひらくビジネス新時代』(ちくま新書)を出したことを機に生まれた交流をもとに、様々な気づきをメモ代わりにつづっていきます。



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竹下隆一郎/ PIVOTチーフ・グローバルエディター
2002年朝日新聞社記者、2016年退社。2014年〜2015年スタンフォード大学客員研究員。 2016年5月〜2021年6月ハフポスト編集長。2021年7月末にハフポスト退任。PIVOT創業メンバーに。新しい経済コンテンツサービスを2021年3月にローンチしました。