蟲師『露を吸う群』

一日中喋ることもなくぼうっとしてすごし、日が暮れると急激に老いて夜には呼吸も止まり、翌朝になると元の姿に戻るという蟲(寄生虫のようなもの)にかかった少女の話。主人公の力で一度は普通の人間に回復するが、「毎日本当に満たされた気持ちで眠りについていたのに、今は眠っても昨日と同じ現実が続くことに耐えられない」と、自ら元に戻ってしまう。(原因は別にもあるが)

昔手に入らなかったものを手に入れ、満たされなかった分の人生を取り返すといったエネルギーも消えた今、この話をもう一度観たくなった。「果てしなく続く膨大な時間の前に足がすくむ」あこやの気持ちもわかる。膨大な残り時間にいまの私が抱くのは恐怖ではない、恐怖を抱く段階のもう一歩先だが。やるべきことなど、看取りと相続くらいだ。それも自分で選んだものではなく、本当に無理になったら、責任を感じる必要もないと思っている。

あこやは父親に支配され、彼女を救おうとする人物も幼なじみの男友達と男性の主人公であり、最後は彼女が自らの意思で元に戻るという展開も、いま観るととてもいいと思う。まだまだ現実は男性主体の社会の中で、女性が主体性を持つ物語は、いつだっていいものだ。