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『他人の家』

【他人の家】ソン・ウォンピョン 著  吉原育子 訳
※Instagramに投稿した内容をそのまま投稿しています。

 僕が好きな作家の1人である、ソン・ウォンピョンさんが初めての短編集を出されたということで気になって手に取りました。

 本書はミステリー、近未来SFから、日本でも人気の心震える『アーモンド』の番外編まで、著者の新たな魅力全開の8編を収録した短編小説です。

 僕が本書を読む前にまず思ったのが、『アーモンド』『三十の反撃』『プリズム』の翻訳を担当された矢島暁子さんが本書の翻訳担当ではなかったことが少し残念だという気持ちです。

 しかし、本書は読みやすい文体で翻訳されており、読んでいく中で翻訳者が変わったことによる不安な気持ちは薄れていきました。実際に最後まで楽しい気持ちで読み終えることができました。

 訳者あとがきでは、本書の翻訳を担当された吉原育子さんの熱い思いや力強い言葉が綴られており、この人で本当によかったというのが正直な気持ちです。

 また、本書には『アーモンド』の番外編が収録されていると冒頭でお伝えしましたが、それが「箱の中の男」というタイトルで収録されています。
 『アーモンド』の主人公ユンジェと違う人物の目線で物語は進行しますが、本編の裏ではこんなことが起きていたのかとワクワクしながら読みました。
 ちなみに主人公ユンジェもしっかり登場します。どう登場するかは、ぜひ本書をお手に取ってご確認ください。

 「箱の中の男」の他に、僕は「開いていない本屋」というタイトルの物語も好きです。
 タイトルのように、雨が降る中1人のお客さんがまだ開いていない本屋に訪れるところから物語が始まるのですが、本に囲まれながら人との会話が始まる物語が個人的に好きで、『アーモンド』の時もユンジェが経営する古書店で友人ゴニと会話しながら、仲を深めていったり、自分は何者なのかを考えている描写が印象的でした。

 本書は僕のようにソン・ウォンピョンさんが描く物語が好きな方はもちろん、彼女の作品を読んだことがないと言う方にも短編集で彼女の作品の魅力を知ってもらうきっかけとしてぜひ一度読んでもらいたい一冊です。

Ryuki

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