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監査役の在り方 Part.05 - 会社の自浄作用を追求する監査役 -

 2023年04月企業会計審議会(金融庁)において改訂版・内部統制報告制度(J-SOX2023改訂版)が改訂され、これに伴って監査役/監査等委員の役割の重要性が上がっています。
 今回は監査役/監査等委員の役割について、違った面から考えてみましょう。



取締役・役員による不正行為に監査役は・・・

 適時開示情報閲覧サービス(TDNET)を閲覧していて、四半期・通期決算報告の延期を発表する会社がいつくかありました。その理由として、取締役・役員(当該上場会社、子会社を含む)による不正行為が発覚したことを挙げています。このような不正行為が発覚した場合、当該会社では調査委員会等を設立してその不正行為の状態、原因究明、再発防止策等を行いますが、その委員・メンバーに監査役/監査等委員(総じて「監査役等」といいます)が加わることがほとんどです。このとき監査役等は、その調査委員会等で割り当てられた役割を果たすことになるのですが・・・そもそも監査役等は取締役会に出席し、その取締役会で会社の月次報告(決算・事業)を受けますし、常勤の監査役等であれば社内にいる時間がありますので、ある程度社内状況、取締役・従業員の業務状況等に関する情報を入手しているハズなのですが、隠れたところで行われている不正行為の一端に触れることが難しいでしょう。

 不正行為が発覚した後に監査役等がその調査に当たることはもちろんなのですが、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(企業会計審議会・金融庁)の実施基準58ページで示されているとおり「監査役等は、その役割・責務を実効的に果たすために、内部監査人や監査人等と連携し、能動的に情報を入手することが重要である」のですから、監査の方法だけに頼るのではなく、日頃の情報収集やモニタリング等を行なって不正行為等を未然に防ぐことが必要ですし、むしろ未然防止をすることこそが監査役等の本来の役割であると考えます。


 不正行為にはいろいろありますが、自然発生的なものはありません。人為的で計画的なものです。

 Pマーク(個人情報の保護体制に対する第三者認証制度)やISMSと同じく内部統制でも記録を残すことが重要です。監査役監査・内部監査の監査でも内部統制の評価でも、まずはこの記録(証憑)を収集することからはじまりますが、不正行為が人為的で計画的であれば、この記録が不正に改ざんされるか、またはその記録の所在が不明となるかのどちらかとなることが多いです。そのため、記録の不正な改ざんまたは記録の所在不明を見つけたら、これをきっかけに不正行為の検出、不正行為に起因する会社の被害の拡大防止が可能です。先日TDNETにリリースされていた不正行為事案は、取締役・役員がその不正行為によって個人的に金銭を授受していたもので、このような事案はその行為を隠せたとしても、記録はウソをつきません。


 また監査役等は、取締役会、経営会議等において内部統制に関する周知・注意喚起を行ない、会社の風土・社風、習慣に内部統制を根付かせる働きをしていくことで、不正行為の未然防止、ひいては不正行為を行おうとする考えを根絶する働きを行うことをお勧めします。ときには、TDNET等にある他社の不正行為事案を例にして、社内に注意喚起することも良いでしょう。このような働きを行うことができるのは、会社の機関、組織をみても監査役等が最適任といえます。



監査役等はコーディネーター

 以前の記事「監査役の在り方 Part.04 - 監査役と監査等委員の未来像 -」でご紹介しましたように、監査役/監査等委員会の職務は会社法に定められていますが、その職務には監査以外にも次のような職務が定められています。


  1. 当該会社、子会社の事業報告の請求および業務及び財産の状況の調査(会社法第381条第2, 3項)

  2. 取締役/取締役会への報告義務(同第382条)

  3. 取締役会への出席義務等(同第383条)

  4. 株主総会に対する報告義務(同第384条)

  5. 監査役による取締役の行為の差止め(同第385条)   など

 *上に挙げたものは監査役のもので、監査等委員会と多少異なる部分がありますので、ぜひ会社法をご参照ください(監査等委員会に関する定めは第399条の2〜14)。


 監査役等は取締役会等の報告事項で「月次報告」を受けますが、これは取締役会等の事務局が作成した報告内容で受動的なものです。常勤ならともかく、非常勤の監査役等は普段から事業状況、社内状況に接しているわけではありませんので、どの程度詳細かつ明確な報告内容なのかわかりません。もし詳細かつ明確な報告を受けたいときは、J-SOXにあるとおり「能動的に情報を入手する」ための方法・手段を行うのがよいでしょう。例えば、事業状況の報告を取締役会等において受動的に受けるだけではなく、直接部門長に事業状況をヒアリングしたり、必要と考える資料を求めたりすることです。会社法に定められている職務を遂行するためには、実はその職務を遂行するための事前準備や付随する作業・行動がある程度必要です。受動的な報告だけでなく、能動的に行動して情報入手にあたりましょう。


 また、前項でご紹介しましたとおり、監査役等は、取締役会、経営会議等において内部統制に関する周知・注意喚起を行ない、会社の風土・社風、習慣に内部統制を根付かせる働きをしていくことで、不正行為の未然防止、ひいては不正行為を行おうとする考えを根絶する働きを行うことができる立場です。内部統制はその理論も大切ですが、その理論を会社の風土・社風、習慣に根付かせて行動を伴うようにすることが大切です。これによって、その行動が伴わないような会社の風土・社風、習慣を改めてもらう。つまり社内に " 自浄作用 " が行われるような環境に整備する必要があるのです。監査役等の皆さんはそれぞれ専門分野の経験豊富な方々なので、その経験を踏まえて取締役、部門長等にアドバイスを行いつつ経営者の立場から俯瞰的な視点で調整し、社内の環境を整備することができる。つまり監査役等は、内部統制のコーディネーター(coordinator)の役割を担うことができるのです。監査役等がこのようなコーディネーターの役割を担うためにも、「能動的に情報を入手すること」は重要だと考えます。



「会社の自浄作用」が会社を救います

 これまで監査役等の役割についていろいろご紹介しておりますが、想像してみるといろいろなことができる/求められていることに気づきます。(*以前の記事「J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと Part.04 - 監査役の重要性 -」ほか)特にJ-SOXでは、書かれている内容を読むだけではわかりずらいのですが、その書かれている内容を具体的に監査役等の業務に当てはめてみると、とても広く、多くの役割を求められていることがわかります。ただ監査をするだけではないようです。

 また、内部統制の意味も、内部統制報告制度制定当初からだいぶ変化しているように思います。例えば内部統制の目的のひとつ「(財務)報告の信頼性」は、ただ信頼性を目的とするのではなく、財務報告の信頼性を保つことによって、企業価値の向上ひいては日本の株式市場への信頼性確保へとつながるようなものに変化しています。そのように考えると、報告の信頼性は、単に皆さんの会社だけの問題はないということになるのです。その目的を達成するために、監査役等が存在すると言っても言い過ぎではないでしょう。


 「会社に不正行為を起こさない」ことよりも「会社に不正行為を起こさせない」文化を育てることができるのは、監査役等です。皆さんの会社の中で、自社の力で自社の浄化作用を促すために、監査役等が具体的にどのようなことができるのかをいろいろ考えてみたいと思います。



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