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監査役の在り方 Part.06 - 取締役会の実効性のキーパーソン -

 2023年04月企業会計審議会(金融庁)において改訂版・内部統制報告制度(J-SOX2023改訂版)が改訂され、これに伴って監査役/監査等委員の役割の重要性が上がっています。
 今回は取締役会から見た監査役/監査等委員の役割について考えてみたいと思います。



取締役会の実効性を評価する

 皆さんの会社では、取締役会の実効性に関する評価がお済みでしょうか。6月に定時株主総会を控えた上場会社では、すでに適時開示情報閲覧サービス(TDNET)や自社コーポレートサイトにてその評価結果を公表しているところも多いです。
 この取締役会の実効性に関する評価は、皆さんもご存知のとおり東京証券取引所が2021年06月に公表している改訂版「コーポレートガバナンス・コード」(以下「CGコード」といいます)の基本原則4のうち原則4-11及び補充原則4-11①〜③に従って実施することとなっています。この実施状況について大変興味深い資料が公表されていますので、ご紹介したいと思います。それは金融庁「記述情報の開示の好事例集2022」(2023年03月24日公表、以下「事例集」といいます)です。この事例集は、金融庁としては「投資家と企業との建設的な対話に資する充実した企業情報の開示を促すため」の資料であるとしていますが、この資料中に取締役会の実効性評価について他社事例を入れて投資家・アナリストが期待する主な開示のポイントを解説しています(参照:事例集155〜170ページ「6. 「コーポレート・ガバナンスの概要(取締役等の活動状況含む)」章)。投資家・アナリストがどのように取締役会の実効性評価に期待しているのか、上場会社側はそのような期待にどのように応えているのか等がとてもわかりやすく解説されていますので、ぜひご覧ください。

 取締役会の実効性評価は、その上場会社のコーポレート・ガバナンスの概要、コーポレート・ガバナンスへの取り組み方等を説明する一つの材料です。投資家・アナリストとしてはその材料からその上場会社の状況を垣間見ることができますが、その材料の内容が形式的なものを期待しているわけではないようです。上場会社としては、投資家・アナリスト等からの期待、もっと広く考えるとステークホルダーや世間全体からの期待にどのように応えるのか。何を根拠に応えるのか。会社の経営方針や将来的な方向性等を踏まえて取締役会を運営し、その実効性を評価する流れになっていることを、事例集から感じました。皆さんもこの事例集をご覧いただき、社内でいろいろ検討する際の資料としてご参照していただけたらと思います。



監査役等への期待値が大きくなりました

 監査役/監査等委員(以下総じて「監査役等」といいます)の皆さんは、事例集の「7.「監査の状況」(171〜189ページ)にも注目してください。監査役等の皆さんへ具体的な形の期待値が説明されています。ポイントは次のとおりです。

  • 監査の状況は、会社のリスク管理の観点から非常に重要な項目と認識

  • 監査役による監査の実効性を確認する観点から、取締役会、監査役会以外の会議への監査役の出席状況の記載は有用

  • 監査役会等の活動状況について、例えば、監査役等がどこにリスクがあると認識し、そのリスクに対してのどのような対応策を検討したのか等、具体的な議論の状況を開示することは、監査役会等の取組みを理解することができるため有用

  • 内部監査の実効性確保のための体制整備として、デュアルレポーティングラインを構築・運用していることの開示は、リスクに対する会社の意識を理解することができるため有用

  • 会計監査人の監査品質は、企業情報の信頼性を確保するための基盤となる。このため、会社による会計監査人に対する評価のプロセスや結果が具体的に開示されることは有用

  • KAMに関して、監査役が監査人とどのような議論を行ったのか、監査人のリスク認識等に対してどのような判断を行ったかについて具体的に開示することは有用

 上記のポイントについて、すべてをつまびらかにすることを求められてはいないと理解しています。ただし、これらの期待値に相当する働きと実効性を監査役等に求められていることを実感しました。その働きは取締役会だけではなく他の会議体へ出席、リスク・コントロールへの認識と監査役会としての取り組み、内部監査との連携強化、会計監査人に対する評価、会計監査人のKAM(会計監査人が監査を行うにあたり特に重要と考えた事項)に関する議論など、具体的な範囲も示されています。ここに具体的な範囲が示されているということは、この情報を開示する/しないは別として具体的に説明することができるくらいの活動をする必要があるということになりますので、これらを事業年度内に実施するためには年間監査計画の内容の拡充と内部監査との連携の実質的な強化が重要になるのではないでしょうか。



監査役等は取締役会の実効性のキーパーソン

 前回の記事「監査役の在り方 Part.05 - 会社の自浄作用を追求する監査役 -」やこれまで監査役の在り方シリーズでご紹介していますが、監査役等に求められている働きは年々重要性が増しています。これは監査役、監査等委員どちらも同じです。日本の監査役制度は海外の会社機関設計のから見れば独特な形をしておりますが、わかりにくいという意見はあるものの高い評価を得ています。つまり、会社の経営方針と将来の方向性を踏まえて監査役会設置会社(又は監査等委員会設置会社)を採用することで、会社のコーポレートガバナンス体制を構築していることを説明することができれば、どの設置会社であっても問題無いことになります。一般社団法人 日本経済団体連合会(経団連)は意見書「我が国におけるコーポレート・ガバナンス制度のあり方について」(2006年06月20日公表、以下「経団連意見書」といいます)の中で、「3.社外取締役の導入義務化、社外役員の独立性強化に対する考え方」に次のように述べています。

(3) 社外監査役・社外取締役の適格性は、形式的な要件ではなく、総合的、実質的に判断すべき
 監査役・取締役には、高度な人格、識見、情報収集力、分析力、業界関連知識等を備え、企業経営の将来に対して責任ある判断ができる能力が求められる。したがって、その選任にあたっては、「社外者であるか」や「独立性があるか」といった属性に関する形式的な要件ではなく、人格、識見、能力等を総合的、実質的に判断すべきである。必要以上の制約は、むしろ有為な人材の選任に支障を来たす。 また、社外者を活用する手法としては、企業が、社外取締役以外にも、社外監査役、弁護士など外部の専門家、アドバイザリー・ボード等、様々な形態があり得る。実際、すでに多くの企業が、経営や執行の効率性や健全性を確保するために、自社の実情に合わせて、「取締役相互による監視、取締役会による監視」のみならず、社内重要会議への監査役の出席や社外監査役の活用等を通じた「監査役によるチェック」や「内部監査等によるチェック」、「社外者によるチェック」等を通じて、経営者をチェックする体制を構築している。とりわけ、各企業の実態を踏まえて、時間をかけて、コスト・パフォーマンスの高い内部統制システムを磨き上げてきた企業も少なくない。公益通報者保護制度も本年4月から施行されており、社内における自浄作用が期待できる。

(中略)

 なお、監査役設置会社においては、法的に取締役会ならびに経営陣から独立性が確保された監査役による二重の監視システムを設けた上で、執行状況の監督の実効性を確保するための様々な取組みを行っている。監査役制度は、我が国独自の制度であり、諸外国には分かり難いとの指摘もあるが、米国証券取引委員会(SEC)からも、企業経営を監視する仕組みとして優れた制度であるとの評価を得ている。今後、監査役の実際の活動について、関係者の理解が深まるよう、透明性が、より一層高まることも期待される

(出典:経団連サイト・経団連意見書より)


 コーポレート・ガバナンスは、「透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」(出典:CGコード1ページ)です。その仕組みが適正かつ公正に行われているかどうかを監視・監査するのが監査役等の役割であり、その会社のコーポレート・ガバナンス体制が適正かつ公正に行われているかどうかをステークホルダー等が確認する相手は、監査役等になるのです。そうなると、今後取締役会の実効性評価の結果で注目されるポイントは、監査役等の回答や意見になるのではないでしょうか。つまり、取締役会の実効性はもとより、その会社の経営状況全般を見るとき、監査役等の職務状況やどのような考え方・意見を持っている人物なのかが問われてくる、言い換えると監査役等がキーパーソンになる時期に入るものと想像します。


 ただし、監査役等の役割が重くなった、やりにくくなった・・・のではありません。見方を変えたら、監査役等の役割と説明責任を果たすことでその会社の企業価値の向上に貢献できる時期に入ったと考えられます。その期待に応えられるよう、一緒に考えていきましょう。



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