- IPO準備の内部統制 _ Part.03 _猶予期間3年間について-
以前の記事で、IPO準備に「どの程度の内部統制を構築すれば良いか?」で “ (会社の)サイズに合った内部統制 ” を構築することをお勧め/ご紹介しました。
今回は少々ピンポイントの話題となりますが、よくIPO準備時期に聞くことのあります「猶予期間3年間」についてご紹介します。
(*約5分程度でお読みいただけます。)
内部統制監査の “ 猶予期間3年間 ” について
IPO準備時の内部統制体制構築のお話をさせていただくと
「3年間は猶予があるし・・・」とお聞きすることがしばしばあります。
まずは、この、よく聞く「猶予期間3年間」と言われているものですが、正確には「上場直後の内部統制監査の公認会計士監査免除(3年間)」のことを指しますが、本来の意味とは、少々違った内容でIPO準備をされている方々に理解されているように感じます。
これの理解を少し深めていただきたいと思い、今回ピンポイントの話題になりますが説明します。
改めて、この「猶予期間3年間」と言われているものは、本来は「上場直後の内部統制監査の公認会計士監査免除(3年間)」のことで、これは金融商品取引法第193条の2第2項第4号にその定めがあります。これをみると、何の点で「少々違った内容で理解」されているかがわかります。
具体的に言いますと、新規上場会社(条文中では、「上場会社が有価証券報告書の発行者に初めて該当する」とあります)は、上場後最初に到来する事業年度末から内部統制報告書を提出することが求められますが、上場後の3年間は公認会計士・監査法人による “ 内部統制監査 ” の免除を選択することができる、ということです。ここには「何かを猶予している」との記載はありません。
J-SOXでは、公認会計士・監査法人は、会計監査・財務諸表監査を行うのと並行して、会社が行う “ 内部統制評価 ” について正しく実施され、評価が正確なものであるかを監査します。これが、公認会計士・監査法人による内部統制監査です。どのように行うかと言いますと、会計監査・財務諸表監査を行なっている公認会計士・監査法人の、その会社を担当している公認会計士の先生が、内部統制監査についても行うことが多いです。会社内の内部統制評価担当者・責任者も、内部統制評価を行う際に、会計処理・財務諸表についても部分的に監査することがあるかと思います。ただ、まったく同じではありませんが、「会計監査人として内部統制を評価する」立場と、「会社内の内部統制評価者として内部統制を評価する」立場の違いがありつつも、同じ範囲を評価・監査しているということになります。もちろん、証憑は同じものをPickupすることはありません。
このあと、会社の内部統制評価責任者は、内部統制報告書の作成に取り掛かり、作成して公認会計士・監査法人の内部統制監査を受けます。これを代表取締役に提出し、代表取締役は取締役会に上程して承認決議したのち、内閣総理大臣へ提出(具体的にはEDINETから提出)されるという流れになります。
免除されるものと、免除されないもの
さて、ここで「猶予期間3年間」ですが、上の公認会計士・監査法人による “ 内部統制監査 ” についてこれを免除する選択ができる、というものです。ただ、公認会計士・監査法人による “ 内部統制監査 ” を免除する選択ができるだけで、会社の代表取締役の名で内部統制報告書を免除されるわけではなく、提出します。
こう見ると、会社は、代表取締役の名で内部統制報告書を内閣総理大臣に提出するわけですから、この報告を裏付けるために社内において内部統制の評価を実施しなくてはなりません。もちろんIPO準備会社は、このために内部統制体制の構築をしなくてはなりません。
そうです!
何かが「猶予されている」のではなく、公認会計士・監査法人による “ 内部統制監査 ” を3年間免除されることを選択することで、公認会計士・監査法人による内部統制監査は行われないものの、内閣総理大臣への内部統制報告書提出は行いますので、何かをしなくて良い、というものではないのです。
私へのご相談に多いパターンとして、監査法人によるショートレビューの報告書にある「指摘事項」に
このように監査法人から指摘され、慌てて構築に着手しなくてはならなくなった、というものです。
おさらいしますと、
「猶予期間3年間」と言われているものは、公認会計士・監査法人による “ 内部統制監査 ” だけで、会社の内部統制体制の構築とその評価監査は行わなければならないもの、とご理解ください。
また、いま内部統制をご担当されている皆さんはご存知かと思いますが、公認会計士・監査法人による “ 内部統制監査 ” を免除されたとしても、公認会計士・監査法人の先生方は、会社の内部統制の内容を確認します。さらに、ここが会社として一番責任の重いところですが、免除を選択したとしても、内部統制報告書の提出の免除はありませんので、会社は内部統制報告書を内閣総理大臣に提出します。これはEDINETを使って提出し、この内部監査報告書は、有価証券報告書とともにEDINET上で開示されるものですので、責任ある内容でなければなりません。
IPO準備期に、しっかりとした内部統制体制を構築しましょう!
なお「猶予期間3年間」の目的ですが、金融庁総務企画局(平成25年10月15日当時)は、
としています。
軽減されているものは、IPO準備タスクではなく、公認会計士・監査法人への監査報酬等の金銭的な負担のことかと推察します。ただ、内部統制報告書の提出義務がありますので、やるべきことはやりましょう、ということにかわりはありません。
この内部統制報告書を作成するためには、会社の内部統制体制の構築と、内部統制評価監査はしっかりとやらなければなりません。
また、この内部統制体制の構築は、経験されている皆さんはご存知のとおり、一朝一夕に構築できるものではありません。以前掲載しました私の記事に、その内部統制体制の構築について触れているものがありますが、おおよそ次のような必要期間がかかるものと考え、私は次のようにご提案しています。
会社のサイズに合った内部統制体制を見定め(3か月〜)
各プロセスの内容等の整備と整備評価(6か月〜)
各プロセスの運用評価に必要な証憑(1事業年度分)の収集。これと並行して上記整備状況の微調整(1年〜)
しっかりとした内部統制体制を構築するには、少なくとも1年9か月は必要期間(逆算でN-2期から開始)とお考えください。
上の段落に文章に具体的な期間を記載していますが、この理由は、次のとおりです。
その会社のサイズに合った内部統制体制を見定めに3か月かかるのは、会社に対する法務ディーデリジェンスを行ったうえでこれを見定めるためです。内部統制体制の整備に6か月を必要とするのは、整備内容を机上で行うだけでなく現場部門と協同・連携して整備するためです。
また、運用評価と整備状況の微調整に「1年〜」としているのは、運用評価を行うためには1事業年度分のデータが必要であるためです。売上状況等は年間通して繁忙・閑散の波がありますし、これに係る仕入(原価、購買)にも繁忙・閑散の波があります。これは統制項目で重要なポイントとなるところです。この重要ポイントを抜きにし、1事業年度中の一時期だけを抜き出して運用評価したとしても、評価監査の結論としてはほとんど意味のないものとなり、重要なポイントを見逃す恐れもありますので、十分にご注意ください。
統制項目の内容、その深度等内部統制評価をどの程度行うかは、会社の方針に従って策定されるものですので、社内でしっかりとご検討いただきたいと考えております。そして私から念を押して申しあげることは、次のとおりです。
建物を建てる際に、建てやすい柔らかい地面に建てるのは、時間も費用もあまりかからずに建築できますが、しかし、ひとたび嵐がくると、その地面は軟弱なため建物はすぐに倒壊します。
一方、固い地面の上に建物を建てるのは、土台を据えるにも工事が難航するなど、時間も費用もかなり費やしますが、嵐がきても強固な地面に据えられているその土台はしっかりしており、建物が倒壊することはありません。
ぜひ、しっかりとした内部統制体制を構築しましょう!