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監査役/監査等委員の在り方 Part.01 - 観点・知識と実務経験 -

 2023年04月企業会計審議会(金融庁)において改訂版・内部統制報告制度(J-SOX2023改訂版)が15年ぶりの改訂されました。ここでは大きな変更点は内部統制の目的、内容、これにもうひとつ、登場人物たちの守備範囲と役割です。
 今回は監査役/監査等委員の守備範囲と役割に求められる観点、知識と経験をご紹介します。



監査役/監査等委員の役割と責任が大きく変わりました

 今回の2023改訂版「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(企業会計審議会・金融庁)(*以下「J-SOX2023改訂版」といいます)については、「J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと」の記事で各登場人物のやるべきことをご紹介しました。監査役/監査等委員(以下、総じて「監査役等」といいます)についても「J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと Part.04 - 監査役の重要性 -」の記事でご紹介しましたが、役割と守備範囲が大きく変わりました。これはJ-SOXのレベルが上がったのではありません。J-SOX2023年改訂版の冒頭「経緯」で次のように示しています。

 一方で、経営者による内部統制の評価範囲の外で開示すべき重要な不備が明らかになる事例や内部統制の有効性の評価が訂正される際に十分な理由の開示がない事例が一定程度見受けられており、経営者が内部統制の評価範囲の検討に当たって財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性を適切に考慮していないのではないか等の内部統制報告制度の実効性に関する懸念が指摘されている。

出典:J-SOX2023年改訂版1ページ/経緯より

 かなり手厳しい記述です。経営者に対するこの懸念は「財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性を適切に考慮していないのではないか等の内部統制報告制度の実効性に関する懸念が指摘されている」としており、日本の内部統制報告制度への信頼を大きく揺るがすような内容になっております。そこで「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」(以下「監査基準」といいます)の「内部統制の基本的枠組み」章「内部統制に関係を有する者の役割と責任」項で、「取締役会」と「監査役等」の役割に関する記述を次のように改訂しています。

(2)取締役会
(*前段省略)
 取締役会は、組織の業務執行に関する意思決定機関であり、内部統制の基本方針を決定する。また、取締役会は、経営者の職務執行に関する監督機関であり、経営者を選定及び解職する権限を有する(会社法第362 条、第399 条の13、第416 条、第420 条)。したがって、取締役会は経営者による内部統制の整備及び運用に対しても監督責任を有している。  取締役会は、内部統制の整備及び運用に関して、経営者が不当な目的のために内部統制を無視又は無効ならしめる場合があることに留意する必要がある。

(3)監査役等
(*前段省略)
 監査役等は取締役等の職務の執行を監査する(会社法第381 条第1項、第399 条の2第3項第1号及び第404 条第2項第1号)。また、監査役等は、会計監査を含む、業務監査を行う。監査役等は、内部統制の整備及び運用に関して、経営者が不当な目的のために内部統制を無視又は無効ならしめる場合があることに留意する必要がある。監査役等は、その役割・責務を実効的に果たすために、内部監査人や監査人等と連携し、能動的に情報を入手することが重要である。

出典:実施基準57ページ/「内部統制に関係を有する者の役割と責任」項

 J-SOXでは、経営者に対しての責任等を重くするのではなく、経営者に対するチェック機能である取締役会と監査役等の役割と責任を強化することで、財務報告/報告の信頼性を強化しています。

 それでは監査役等についていろいろみてみましょう。


 監査役監査には、会計監査、業務監査があります。監査役等の皆さんは、この会計監査、業務監査をどのように実施しているでしょうか。例えば会計監査は、四半期次、年次に会計監査人が行う財務諸表監査等会計監査と並行して行うとか、業務監査は稟議書に関する監査、内部監査と合同または並行して個別業務への監査を行うなど、さまざまあるかと思います。以下でご紹介する内容は、私の監査役経験を踏まえたものですが、監査役監査を実施するうえで次のような観点、知識と経験等の要素を持ったうえで監査を行う必要があると考えています。



監査役等の【観点】

 観点とは「物事を見たり考えたりする立場。見地。」(出典:デジタル大辞泉)です。まずは「物事を見たり考えたりする立場」をどのように据えるのかが大きなポイントです。

 監査役等は会社の業務・実務に直接関わりませんので、社内の役員、全部門の従業員等との間に上下関係(上司・部下)はありません。また監査役等は、業務・実務に対する責任はありませんので、その点で言えば客観的な立場で監査を行うことができます。しかし、先のとおり観点は「物事を見たり考えたりする立場」です。単純に客観的な立場で業務・実務を俯瞰することはできますが、しかしこの客観的な立場とは決して「第三者」ではないのです。監査役監査を実施するとき、対象となる業務・実務の内容を把握し理解することはもちろんですが、その実態をも含めて把握し理解する必要がありますし、実感する必要もあります。なぜ「実感」する必要があるかと言いますと、監査役等が不適合/不備を検出しようとしたときまたは指摘事項を挙げるときに「実感」が無ければ、その原因は何なのか、その原因の根幹は何なのか。これらが見えてこないのです。原因とその根幹が明らかでないまま不適合/不備、指摘事項を挙げても、それは単なる間違い探しのレベルであり、J-SOXが求めている「内部統制上の問題(不備)が、適時・適切に報告されるための体制の整備」(出典:J-SOX2023年改訂版61ページ「6.財務報告に係る内部統制の構築」項・(1)財務報告に係る内部統制構築の要点」)の要件を満たしていないことになるのです。
 内部統制も監査役監査も、決して間違い探しをするために行うものではありません。内部統制と監査の大目的は、間違い(不適合/不備)があった場合は適時・適切に報告し、その間違いを改善して「報告の信頼性」を取り戻すことです。これを推進するのが監査役の役割と言うことができるのです。


 このように見ますと、監査役等としてはどのような観点で会社を見て業務・実務を監視・監査し、部門や役員・従業員等との距離感はどの程度必要なのかを考えたうえで、会計監査・業務監査に臨むのがよいと考えます。そのためにも柔軟な考え方を持ち、業務・実務に携わる役員・従業員等を理解しこれに寄り添うかたちで監視・監査を行うことが求められると言えるのです。



監査役等の【知識と実務経験等】

 皆さんはご存知のとおり、上場会社の監査役等の員数は3名以上必要です。これは監査役会/監査等委員会の設置要件として会社法に定められています(監査役会設置会社は第335条2項/監査等委員会設置会社は第331条6項)。一般的に奇数人数が良いと言われていますが、これは会内で採決する際に過半数を明確にしやすいことが理由かもしれません。私もハッキリとしたところは分かりません。(*もちろん偶数人数の上場会社もあります。)

 監査役等を選任する際に、一般的には次のような専門領域のメンバー構成を考えます。この構成メンバーの観点からみますと、さきほどの員数3名以上必要というのは合理性があると言えます。

  1. 法律領域

  2. 会計領域

  3. 経営全般領域

 上場会社の経営方針等によって、上記の領域に対して員数の多少はありますが、監査役等はそれぞれの領域の専門的な知識と経験等を踏まえて、会社を監視し監査します。
 監査役等は「自らの職務の執行の状況を監査役会(監査等委員会)に定期的かつ随時に報告するとともに、監査役会(監査等委員会)の求めがあるときはいつでも報告しなければならない」(出典:監査役会規則(ひな型):日本監査役協会・電子図書館より)という義務がありますので、各監査役等は上記の3つの領域をそれぞれの専門的な知識と経験等でカバーし、それぞれの領域の観点から会社を監視し、監査して報告することが責務となっているのです。

 ところがこの責務ですが、実際のところそれぞれの専門的な知識と経験のみでこの責務を果たすのは難しいと思います。理由は、それぞれの領域の目線からだけでは実際の発生事実(不正行為等)や内部統制上の不備は単純には検出しにくいからです。このことは、最近の不正行為等をご覧いただいたら明らかでしょう(私の記事「" 発生事実(不祥事) " が発生しない上場会社の内部監査」をご参照ください)。

 またUS-SOX, J-SOX いずれにおいてもITに関する領域が重要視されています。これはさきほどの3つの領域だけでは少々足りないということです。IT技術や情報セキュリティに関する技術は日々高度化していますし、これに伴って諸問題も発生しています。それぞれの領域にこのIT等に関する要素を取り入れないと監視・監査が不十分になる可能性があるのです。
 もうひとつ、そもそもこれら3つの領域の対象は「会社」なので、その会社の事業と業務について熟知し、これに関する幅広い知識と十分な実務経験等を持ったうえで必要な監視、監査を行うことが望まれるのですが、逆に言えばこれらが無ければ難しいでしょう。

 監査役等の責務の観点からみると、やはり専門的な領域に限らず幅広い知識と実務経験等を持っている監査役等がいると安心でしょう。

 そこで注目は「経営全般領域」の監査役等です。この領域の監査役等は、具体的には業務・実務に明るく、実務経験が幅広くて豊富な「オールラウンダー」出身の方です。理由は、社内の業務・実務にはどのような法令等が関係し、どのように遵守すべきかを知っています。経営全般領域の監査役等は、実務面の法律領域にも明るいということです。また、その会社の業務・実務は経理/会計処理に直結します。例えば経営管理/経営企画の業務において、会計の知識と実務経験が必要であることを考えたらお分かりになるでしょう。それに会社の業務・実務の実態を把握し、理解していることも重要です。経営全般領域の監査役等は、実務面の経理/会計領域にも明るいということです。

 つまり会社全体の業務を把握していることと幅広く豊富な実務経験を持っている「オールラウンダー」の要素を持つ経営全般領域の監査役等は、会社を監視・監査する際に客観的でありつつも部門・現場をよく理解し寄り添うかたちで全社横断的な監視・監査を実施することができます。また部門・現場をよく理解し寄り添うことで、監査役等の役割・責務を実効的に果たすための情報を能動的に入手することができるのです。
 こうしてみると、「オールラウンダー」の要素を持つ経営全般領域の監査役等の存在は、とても重要であると言えるのです。



「オールラウンダー」出身の監査役等が活躍します

 上の2つの項目で共通している点は、監査役等に必要なのは、観点、知識と実務経験等を踏まえた応用力と実践力です。監査役等は客観的(第三者ではない)な観点で応用力を活かしつつ監視・監査を実施します。そして不適合/不備を検出したときは、実践力を活かした現実的かつ効果的な改善に導く役割が求められています。もし応用力無しに監視・監査を実施し、併せて実践力無しに指摘事項を挙げたとしても、それは役員・従業員の皆さんの心に響かず、むしろ心よく受け止めないかもしれません(悪質な不正行為は別ですが)。それに、その指摘事項が企業価値の向上に資するような効果的なものであれば尚更です。
 また、専門領域のみに特化した監査役監査を実施したとき、その関連する業務や社内の状況および業界・社会の状況を踏まえず、実態を深く理解していないままの監査を実施したら、おそらく実態に沿わない監査結果及び指摘事項になるでしょう。

 こうしてみると、客観的な観点と幅広い領域において専門的な知識と実務経験を持ち、そのうえ社内の業務や状況、実態を深く理解した人物、例えば管理系部門各業務に精通した、いわゆる「オールラウンダー」として活躍し経験のある人物は監査役等に最適です。そのような方が監査役等のメンバー3名以上のうち1名居たら、監査役会/監査等委員会なかでそれぞれの抜け漏れの無い、申し分の無い監査報告ができるのではないでしょうか。


 昨今の発生事実を見ると、監査役等、内部監査ではなく監査法人、社内外からの通報などから不正行為等が検出・発覚するケースが数多くあります。この点はJ-SOXでも問題視していることです。ぜひとも監査役等または内部監査のラインで精度高い監査を実施し、業務の有効性と報告の信頼性の向上を図り、ひいては企業価値の向上を全社一丸となって推し進められるような会社となるよう、私も微力ですが監査役等業務レクチャーやこのような記事等をご紹介するなどお手伝いします。

 皆さんの会社で今後監査役等のメンバー構成を検討されるタイミングありましたら、今回の記事を参考にしてください。



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