るーとら

書いたものの整理場所。それが出来なくなる前に。

るーとら

書いたものの整理場所。それが出来なくなる前に。

マガジン

  • お絵描き帖

    いわゆるひとつの渦のようなもの。

  • ひとびと

    出会った人々

  • 夜明け前雑記

    夜明け前、稼ぎ仕事に行く前の日々の雑記。

  • 作庭集

    庭を作ってきました。

  • 地元紙連載随筆

    2021年2月~4月、地元夕刊紙に連載した随筆。

最近の記事

煙を吐くひと

    • 片足の土工

       震災後、あちこちの修復に全国から作業員が集まり工事していた。  こちらも土砂崩れで通行止めになったルートを迂回しながら、毎日の現場に向かっていた。  いつもの商店街の交差点付近で、今日も道路工事をしている。  信号待ちをしてふと見ると、片足の土工が松葉杖を突きながら、踊るように、跳ねるように作業していた。片手に松葉杖、片手に角スコップ持って、重機の散らしたアスファルト片を掃除していた。関西訛りで仲間に何かしゃべりながら笑っている。  信号が変わり、クルマを発進させながら

      • 草刈する男

         空き地で草刈しているどこかのオジさんが、うおうお声を出している。  エンジン音に紛らせて、自分の世界に入っているのか、地声を震わせ、能の謡のようだ。  ときおりエンジンを止めては、水を飲み、クルマの陰で小便をしている。  空き地は一反歩ほどある。  外周から右回りに周って、しだいに内周を攻めている。  何かの道行のようだ。  刈り取って薙ぎ倒された草の上を、ふとキジが横切った。  とっと、とっととキジは走り抜ける。  オジさんは気付かない。  うおうお声を出しながら、ずっ

        •  雨が降ると安心する  雨が降れば  もう関わらなくていい  雨が降れば戦いを止める  もう戦争に意味はない  雨が降っている  雨が降ったんだから  現場はしまおう  もうどうしようもないし、ちゃらになった  雨が降ればちゃらになる  濡れることはない  傷むこともない  昨日の痛みも  明日の恐れも  雨はすべて覆ってくれる  この世の底は抜けているから  この世に底なんてないから  雨が降る  

        マガジン

        • お絵描き帖
          20本
        • ひとびと
          2本
        • 夜明け前雑記
          19本
        • 作庭集
          5本
        • 地元紙連載随筆
          13本
        • 日のすきま
          5本

        記事

          孵化するように、羽化するように、世界の終りを脱いでゆく

          孵化するように、羽化するように、世界の終りを脱いでゆく どん詰まりなのは、世界でもお前でもなく、その形式 こんなかたちではないカタチがある なぜならまだ魂は疼いているから 真っ暗闇でも微かに風が導いているから 自分をコントロールしている自分に疲れたら そんな主人公はもう止めて、 孵化するように、羽化するように、世界の終りを脱いでゆく

          孵化するように、羽化するように、世界の終りを脱いでゆく

          黄金期

          年金を全部パチンコに使ってしまう83歳の母は、 家事一切をやっている88歳の父に、金をせびり、 父が諌めると、「オレなんか死んでしまえばいいんだ」とふてくされる。 山(飯舘村)育ちの母は自分を「オレ」という。 母は震災後すぐ睡眠薬で自殺未遂している。 枕元に下手くそな遺書があった。 何の感慨もわかないありきたりな遺書。 胃洗浄した市民病院で、今晩またやるかもしれないからと看護婦に言われ、 隣の簡易ベットで一晩過ごした。 外は津波にやられた集落が手付かずだった。 原発が爆

          ありふれたこと

           それは世界にありふれたことなので  私は何も考えない  海が陽に光ろうが  水平線が嘘のように真っすぐだろうが  誰のこころが哀しかろうが  それは世界にありふれたことなので  私は何も思わない  出来事ばかりが降り積もり、痛んでいる  もはや感じることも出来ずに  笑っている風景よ  それは世界にありふれたことなので  私は信じない  日々、毎日を繰り返す  詩(ウタ)があればいいのに  季節ばかりが過ぎてゆく  衰えてゆく手足よ  それは世界にありふれたことなので  黙

          ありふれたこと

           一日の稼ぎを終え、夕陽を浴びる。  波は渚を裳裾のように動いている。  ゆらぎゆらいで空を映している。  山は静かに海に傾斜し湾を抱きかかえる。  陽が山の端を落ちる。  しだいに闇が濃くなる。  波の音も濃くなる。  微細なものたちよ。  私は無明だ。    この笛が、もっといい音を出せたら、  もっと奥深く全体につながれたら、  いま戦場で殺される人々に届くだろうか。  生きてきたことに何か意味があったと思えるだろうか。

          「無明」

              超弦理論など数学で描かれた物理の世界に圧倒される。  原初宇宙の始めには数学があったのか。  それですべて完結し、人間は、それを発見してなぞるだけなのか。  半ば閉塞、半ば諦観のような気持になる。  万物が数理で描かれるなら、いつか宇宙はAIで置き換えられるだろう。  実際そのように進んでいるように見える。  けれどそんなものは「無明」というものだ。  例えば自己創出する生命の世界はどうか。  これを数理で描けるのか。  生命は物理化学の世界を内包しているが、そ

          +14

          2009年作庭 I 邸

          2009年作庭 I 邸

          +15
          +19

          2008年作庭 T邸

          2008年作庭 T邸

          +21
          +11

          2008年作庭 N邸

          2008年作庭 N邸

          +10

          走る野鹿

           8時半就寝、3時過ぎ起床のルーチン。  身は疲れ、脳は誤作動し、やる気は起きない。  やれやれ、やれやれと、身心引きずる。  身支度終わって、机に向かうのに約1時間。  you tube のショパンかけて David Bohm を読む。  そのあいだあちこちのゴミや乱れが気になり、掃除したりする。  何度か排便し、水を飲み、スクワットし、珈琲を飲む。  少しずつ、ほんの少しずつ体幹が立ち上がってくる。  軟体動物から脊椎が生えてくるように、一日の柱が建ってくる。  猫が起き

          +15

          2007年作庭 s邸

          2007年作庭 s邸

          +13

          水の思考

           水の思考。  秋の斜めに差す光も水。  光に照らされ透けるモミジ葉も水。  その全体を観ているつもりの私も水。  水のつくる渦。  出来事は、  流れ淀んで消えてゆく。  水の思考。  分かれながらつながり、  繋がりながら溶けてゆく。  私が渓流であるならば、  山女魚が走り  翡翠が降下する。    

          11/20

           下部構造が見える人と見えない人がいる。  下部構造に棲んでそこでしか息が出来ない人がいる。  下部構造だから上部構造はぜんぶ見える。  ぜんぶ見えるから重い。  けれどそれも横ざまに見れば、  おかしな野原。  兎のように跳ねて寝ころべば、  青空にまた雲。  雲がゆく。