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「愛情」や「憎しみ」などは取るに足りないもの

 タイトルは、柳広司氏の小説「ジョーカー・ゲーム」の作中で主要な登場人物である結城中佐の口から語られた言葉です。

 結城中佐は作中で部下のスパイたちに、次の決まり事を遵守させます。

・死ぬな
・殺すな
・とらわれるな

 これらについて、なぜ重要なのかについても、結城中佐は作中にて語っています。

「殺人、及び自決は、スパイにとって最悪の選択肢だ」
「スパイの目的は、敵国の秘密情報を本国にもたらし、国際政治を有利に進めることだ」
「一方で死というやつは、個人にとっても、また社会にとっても、最大の不可逆的な変化だ。平時に人が死ねば、必ずその国の警察が動き出す。警察は、その組織の性格上、秘密をとことん暴かなければ気が済まない。場合によっては、それまでのスパイ活動の成果がすべて無駄になってしまうだろう……。考えるまでもなく、スパイが敵を殺し、あるいは自決するなどは、およそ周囲の詮索を招くだけの、無意味で、馬鹿げた行為でしかあるまい」
「金、名誉、国家への忠誠心、あるいは人の死さえも、すべては虚構だ」
「諸君の未来に待ち受けている真っ黒な孤独。その中で諸君を支えてくれるのは、外から与えられた虚構などではありえない。諸君が任務を遂行するために唯一必要なものは、常に変化し続ける多様な状況の中でとっさに判断を下す能力――即ち、その場その場で自分の頭で考えることだけだ」
(柳広司著『ジョーカー・ゲーム』「ジョーカー・ゲーム」より抜粋)

 結城中佐の言葉から、スパイに求められるものの素質や能力が伺えます。そしてタイトルの言葉についても、次のように語られます。

「貴様は、D機関への採用がなぜ男だけだと思う?」
「女は、必要もないのに殺すからだ。"愛情"や"憎しみ"などといった、取るに足りないもののためにな」
(柳広司著『ジョーカー・ゲーム』「XX(ダブル・クロス)」より抜粋)

 愛情も憎しみも、取るに足りないものだと言い切っています。
 スパイとして「とらわれるな」という教えを守るためには、愛や憎しみも切り捨てないといけないのです。

 実は僕も、ここ最近になって愛や憎しみを「取るに足らない」と考えて切り捨てるようにして来ました。

 もちろん、ただの冷血漢になれというわけではありません。そんなものは問題外です。

自分を律するために切り捨てる

 生きていく中で「愛を理由にして自分の気持ちを通そうとする」ことや「怒りや憎しみで相手を動かそうとする」ことを経験した人は多いと思います。

 こうした「相手を自分の思うように動かそうとする"愛"や"憎しみ"」について「取るに足らない」として切り捨てる。
 こうやって、必要のない愛や憎しみに別れを告げるようにしてきました。

「愛しているから、お前のためにやるんだ」

 このような「愛」を理由にして相手を支配しようとすることは、無価値なことだと思います。まさに取るに足らないものです。

 愛もそうですが、憎しみや怒りも「相手を動かそう」として使うのは、何の意味もありません。
 ドリカムの「何度でも」という僕が好きな楽曲の歌詞にも、次のようにあります。

 誰かや何かに怒っても 出口はないなら
 (DREAMS COME TRUE「何度でも」より)

 誰かや何かに怒りの感情や憎しみをぶつける。
 それは何の解決にもならないことです。

 相手からの一方的な怒りや憎しみには立ち向かうべきだと思います。そんな気持ちに毅然と対応しないのなら、相手は味を占めて好き勝手に何度もやってきます。蹂躙されるだけでしょう。

 一方的な愛と、一方的な憎しみ。
 自然と自らの中に沸き上がってきますが、そんな愛や憎しみに耳を傾ける必要などありません。取るに足りない存在です。

 自分で自分を律してコントロールするためには、切り捨てたほうがいいのです。

手に入らないものは、自分のものではない

 ブッダの教えに「手に入らないものを無理して手に入れようとしてはならない。それは執着であり、そもそも元から自分のものではないからだ」というものがあります。

 欲しいと思っても手に入らないものには、手に入らない理由がある。
 それを無視して手に入れようとしても、いいことはない。
 それなら最初から切り捨ててしまうべきだろう。
 そうすることで、執着を捨てて心穏やかになれる。

 僕の場合は、女性からの愛や好意がこれに当たります。
 手に入れようとしても、自分のものではないから手に入らない。
 無理して手に入れようとしたら、愛を理由にして相手を支配しようとしたり、一方的な憎しみを抱くこともあるかもしれません。それは「とらわれている」ことになります。そのまま突っ走ったら、殺しや自殺といった結城中佐が語るタブーに触れるかもしれません。
 そんなことなら、最初から愛も憎しみも取るに足らないとして、切り捨ててしまったほうがいいでしょう。

 世の中には「不必要な愛」「不必要な憎しみ」といった「不必要な気持ち」があります。
 そうしたものを「取るに足らない」として切り捨てていくことができれば、もっといい世の中になると信じています。

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