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棺に入れる副葬品について

 昨日のことですが、次の記事を読みました。

 火葬場で棺に入れられた副葬品を、火葬前に火葬場職員が無断で取り出していた、という内容の記事です。
 棺に入れられた副葬品を無断で取り出すことは、礼を欠いた行為であることはいうまでもありません。それに対する葬祭業者の怒りもごもっともです。

 僕も元葬儀社社員として、最初は「ひどいなぁ」と思っていました。
 しかし、冷静になってみると、記事だけでは分からないことも浮かんできました。

 上記の記事では分かりませんでしたが、次のようなことが考えられます。

・入れてはいけない副葬品を遺族に伝えていなかった場合
  →火葬場と葬祭業者が周知を徹底させていなかった
  →火葬場、葬祭業者が悪い
・葬祭業者が遺族に入れてはいけないものを伝えていなかった場合
  →火葬場から言われていたのに葬祭業者が伝えていなかった
  →葬祭業者が悪い
・葬祭業者が遺族に伝えたのに遺族が勝手に入れた
  →葬祭業者の話を聞かずに入れてはいけないものを入れた
  →遺族が悪い

 多くの火葬場では、火葬に対してガイドラインが定められています。その中に「棺に入れてはいけない副葬品」も定められています。火葬で燃えずに残ってしまったり、遺骨に副葬品から色移りが起きてしまったり、火葬炉にダメージを与えて火葬炉の寿命に影響が出てしまうことがあったりするためです。
 例えば、次のようなものは入れてはいけないことになっています。

・金属製の杖やメガネ:燃えないで残ってしまうから
・ビンや缶入りの飲食物:燃えないで残ってしまうから
・スプレー缶や電池:爆発の恐れがあるから
・PCやスマートフォン等電子機器:爆発の恐れがあるから
・大量の衣服:火葬に時間が掛かってしまうから
・ドライアイス:火葬の妨げになるから(ドライアイスは二酸化炭素)
・厚い布団や大量のぬいぐるみ:火葬に時間が掛かってしまうから
・大量の本や紙:火葬に時間が掛かってしまうから
・ガラス製品:燃えないで残ってしまうから

 もちろん、これからを全て厳守することはできません。
 金属製の杖やメガネはもちろん入れられませんが、衣服や本などは多少ガイドラインを破って多めに入れることもあります。故人様や遺族の方の想いもありますし、そこはある程度は火葬場も黙認してくれることがあります。

 しかし、遺族の方は火葬場のガイドラインなんて知りません。
 自治体によっては、火葬許可証の手続きをした時に渡される書類に「棺に入れてはいけないもの」などの名称で記載されていることもありますが、ほとんどの方は目を通すことはないでしょう。

 なので、棺に入れていいものか否かは、基本的に葬祭業者が遺族に伝えることになっています。

 上記の記事で、火葬場が本当に無断で取り出していたり「この業者はガイドラインをいつも無視してくるから、勝手にやっちゃえ」という認識で行ったのだとしたら、火葬場が悪いことになります。
 しかし、葬祭業者が遺族にちゃんと説明をしていなかったのだとしたら、葬祭業者が仕事を怠ったことになりますので、葬祭業者がこのような結果を招いたとも考えられます。
 また、葬祭業者がちゃんと棺に入れてはいけないものを伝えていたのにも関わらず、遺族の方が「最後だから」と黙って入れてしまった場合は、遺族が問題を起こしたとなります。

 いずれのケースなのかは分かりませんが、こうしたことが起きてしまったのは、葬祭業者と火葬場と遺族の間で、ちゃんと報連相ができていなかったために起きたと思われます。

 どんな事情があったのかは分かりませんが、決して起きてほしく無いことが起こってしまったという事実は変わりません。

僕が実際にやっていた説明と提案

 僕も葬儀社社員として働いていた時に、副葬品についての説明はきちんと行っていました。

 僕は納棺についての説明の時に、副葬品について必ず次のことをお伝えしていました。

・棺に入れてはいけないものがあること(金属製の杖やメガネ等
・棺に入れてはいけない理由(燃えない、遺骨を損傷する可能性等
・入れても大丈夫なもの(好きだった食べ物や手紙等

 必ずまず「入れてはいけないもの」についてお話してから、入れてはいけない理由を説明しました。
「これは入れてはいけない決まりになっていますので、入れちゃダメです」
 これだけでは、喪主さんも遺族さんも納得していただけません。
「燃えないものや、お骨に影響が出てしまいます。なので申し訳ございませんが、お棺に入れないよう火葬場からお願いされています」
 このように、ちゃんとした理由を説明しますと「そういうことなら仕方ないね」と納得していただけました。

 しかし、中には「長いこと使っていたものだから、なんとかできないか」と言われてしまうこともあります。
 そうした場合は、次のような提案をしていました。

「現物は入れられませんが、紙に絵を描いてそれを代わりとして入れていただくことはできます。もしご遺族様の中に、お子様やお孫様がいらっしゃる場合、絵を描いてもらえるようお願いしてみてはいかがでしょうか?」

 このように提案をしますと、特に小さい子供がいる場合は効果的でした。子供も喜んで絵を描いてくれましたし、最後にできる限りのことをしてあげられたということで、遺族の方も和やかな雰囲気になりました。
 このほかに、手先が器用な方の場合は折り紙で鞄などを作り、それを現物の代わりとして入れることもありました。

 そして「もしお棺に入れてあげたいもので、入れていいのかどうか迷ったときは、私にご相談ください。入れてもいいかどうか、一緒に考えます」と一言添えることもしていました。

 分からないことは、ひとりで抱え込まないでください。
 最後の機会なので、少しでも良いものにしていきたいです。

 僕はそんな気持ちで、棺に入れる副葬品に対して向き合っていました。

 もしもの時に、副葬品について分からないことや困ったことがありましたら、必ず葬儀社の人に相談するようにしてください。
 入れてもいいものなのかどうか、一緒になって考えてくれるはずです。
 そのことだけは、覚えていてほしいと思います。

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