ガチ文系が読む「MMT入門 現代貨幣理論」超訳

 このところ政治の話題が尽きませんね。
 昨今、人々の政策関心事として真っ先に挙げられるのは経済政策だそうですよ。

 積極財政の話が出ると、必ず反対に出される財政規律という言説。「財源はどうする」「国の借金」のアレです。
 ここまではいつもどおりですが、最近は財政規律にさらに反論が出るようになりました。

「日本は通貨発行者だから借金という表現は適さない」「日本の財政は破綻しない」「税金は財源じゃない」といった文言です。

 まったく正反対の立場から反対のことを言い合って、互いに「話にならない」という顔で呆れあっている。

 詳しい人には結構でしょうが、しかし私のような経済オンチには結局どちらがどういう考えで言っているのかよく分からない。こちとら数学赤点の文系だぞオラァン?
 そもそもお金って、経済ってなんなんだ。

 そんな私にうってつけの本でした。MMT入門。
https://str.toyokeizai.net/books/9784492654880/

 知識のない私は序盤から苦戦しましたが、何とか読み切ってみたところの印象をまとめます。

MMTのコンセプト――経済を会計学で考える


 MMTの考え方の骨子は、経済を会計学で考えるというシンプルなもの。
 入と出で考える。そりゃ確かに、経済ってお金のやり取りなんですから会計で考えられて当然かもしれません。歳入と歳出で予算は考えられていますからね。

 ではお金とはなんなのか。
 お金がいっさい無い状態からの「入と出」とは?
 お金がなければ支払えない……というのは家計の話。会計の世界ではどうやらそうでもないみたいです。

 それすなわち、債務。
 会計帳簿にマイナスを記録することで、現実に扱えるお金を準備する。会計ではよくあることのようです。

 例えるなら数学の「0=0」の式が分かりやすいかと思います。左辺にマイナスの数を足したので、右辺はプラスになりました。
 右辺が支出、プラスの額だけ自由にお金を使えます。

 通貨を発行する、とはまさにこの「マイナスを記録する」ことだといいます。
 私たちは「政府の債務」を通貨として利用しているのだと。私たちが手にしている貨幣は「政府の債務証書」なのだというのです。

 貨幣が『政府の債務』である場合、政府に納税したときに起こるのは債務の償還。私たちの税という政府の黒字で、政府が持つ「債務赤字」を減殺していることになります。
 つまり、1円も政府の資産に加えられていません。
 財源もなにもありませんね。政府は存在そのものがゲロ赤字です。

 なんかちょっと既に小難しいのですが、政府が赤字って大丈夫なの?
 仮に政府が赤字を相殺しきった場合、日本から日本円はほぼ消滅します。

 なぜなら日本円は政府の赤字だから。
 ……?

 整理しましょう。
 我々が貯金と称して日本円をストックできているのは、誰かがゼロよりマイナスの状態に陥っているからのはずですね。完全に等しい取引をしていたらお金は増えないはずですから。

 支払う人がいなければお金は受け取れない。支払った人はお金を失っている。支払った人は、お金を木から採ったり神から与えられたりしているわけではない。
 最初にお金を支払う人は、左辺をゼロからマイナスに書き換えることで支払いを可能にしている。

 これが通貨発行、これが債務証書。これこそ現代貨幣だと言うわけです。

 つまり国家予算は「集めた税金の使い道を決めている」のではなく、「今年はいくら民間に出そっか?」を決めているだけです!(スペンディング・ファースト:支出した後に、徴税・国債発行で回収する)

 え、えぇー? それって、つまり政府の赤字は一生消えない……それどころか、政府の赤字が増えるほど私たちのお金が増える……ってコト?!
 ざっくり言うとそういうことです。
(厳密にはもちろん違います。金利とか貿易とか外国通貨建ての借金とか。。。)

国には借金していてもらいたい?

 私たちが握っている一万円札は政府の一万円ぶんの負債。政府は一生赤字。

 これはやはりカジノとディーラーがイメージに近いと思います。ゲーム(経済)の参加者を増やすためには、ディーラーは参加チップ(お金)を配らなければなりません。
 しかし、ディーラーとはいえ無料で自由にチップを配られては困ります。チップを持っていることの価値が下がりますから。

 なのでディーラーは担保を受け取ってチップで支払います。受け取った資産に釣り合うチップを払う。このときチップの価値を決めているのは、受け取った資産の価値です。

 この「受け取った資産」はディーラーの赤字になりす。なぜ赤字になるのか?
 お金の価値を考えない場合(つまりお金それ自体に価値がないとする場合=管理通貨の場合)、「お金」とは「価値ある資産を受け取って、釣り合う資産を差し出す代わりに渡した代替物」だからです。つまり、債務証書ですね。

 ゲーム(経済)に参加したいなら、もっと赤字を増やしてチップを多く発行してもらう必要があります。
 参加者がいなくなるか、カジノ場が閉鎖されるまでディーラーには赤字であり続けてもらわなければなりません。

 この構図で「ディーラーが黒字になる」状況を考えるには、まずはチップ=債務証書をすべて回収するところから始まります。カジノ場内にあるチップの総額とディーラーの赤字額面は同じです。

 実際の経済も同じ構造だと考えられます。
 通貨発行者には赤字でいてもらう必要があるのです。

租税が貨幣を動かす

 しかし世に借金や債務は多くありますが、それらと違って『政府発行の債務』だけが通貨として流通しているのはなぜなのでしょう?

 政府債務にだけはひとつ、特別な特徴があります。
 税金です。
 政府は「我々が発行した貨幣でのみ納税を受け入れる」と言うことができる。この税金こそが、『政府の債務』を通貨の地位に押し上げる立役者となるわけです。

 国民は税金を支払うために『政府の債務』=貨幣を求め、貨幣を貯蔵したり交換したりすることで貨幣の価値が安定します。価値が安定しているから貨幣は通貨として人々の間で利用されるようになります。
 こうしてお金が経済を作っていくのです。


 これがMMT、モダンマネタリーセオリー現代貨幣理論の主張です。


 えっ? と思った人もいるかもしれません。
 実はMMTが「自国発行通貨を持つ国は財政破綻しない」という主張だ、と紹介されたことがありました。
 確かにそのような主張も含まれています。ですがそれは、上述の前提を認めると自動的に導き出せる内容だからです。
(「『政府の債務証書』を政府が借りる」とはおよそ成立しそうにありません。国債の満期が来たらその債権者へとお金を振り込むだけです――赤字を計上して!)

 MMTの主張はあくまで「貨幣=政府の債務」にあります。

「財源」は勘違い?!

 政府(+中央銀行)は、赤字を計上することで経済に貨幣を供給する。
 だとすると「財源」論はおかしいことになります。いくら財政黒字を達成して税を集めても政府の資産は増えません。そもそもゲロ赤字です。赤字が減るだけで黒字になり得ません、構造的に。
 仮に「財源」が必要なのだとしたら、それは「より多く赤字を計上する」という行動に他ならないはずです。だって貨幣は政府の債務でできていますから。

 では「財源」とは何なのでしょう?
 MMT派の主張はまさにそこで、つまり「貨幣観が間違っているから、彼らは誤った答えを導き出している」と主流経済学を批判しているようです。

(個人的には、その辺りまでいくと経済学者同士のマウント合戦に入って理解を妨げると思っています。MMTを理解するうえで最初に気にすることではないかなと思います。
 主流派経済学の誤りには歴史的な流れもあるようです。
 簡単に言うと「考えを進めるためにとりあえず立てた仮説」が延々と継承されて更新されていないまま、実用学問としての権威化が加速したせい。)

 でも、ちょっと気持ちはわかる気がしますね……。帳簿の片方にずぅーーーーっと赤字があって、歳入があるのに歳出が多すぎて赤字がぜんぜん減ってない。
 えっ、これ大丈夫なの? ってソワソワするのは市民感覚として普通な気がします。

 まぁ、勘違いなんですけど。

無限に貨幣発行できるのか?

 この話でどうしても狐につままれる感覚が拭えないのは、「じゃあいくら貨幣発行しても困らないってことかい? そんな話があるか??」という疑問ですね。
 MMTでは割と早い段階で「んなわきゃない」と回答されているようです。

 お金が増えてもモノの量には限りがあります。供給不足で競争が激化すれば物価が高騰するのは自然な話。ハイパーインフレになるのは自明です。
 インフレ傾向が強くなれば適切に引き締めればいい、とそのようなスタンスのようです。

 結局、MMTは唱えれば無限にお金を発行できる魔法の呪文ではなく、
 ただ単に「財政支出を減らす理由は『財政規律』であってはならない」程度の話のようです。

まとめ

 国における「支出と収入」は、家計とは意味がまるで違います。

 支出は市中に「政府の債務」=貨幣を供給する(または政策に必要なものを買う)ためのもの。
 税金は市中の貨幣流通量――つまりはインフレ率をコントロールするためのもの。

 それぞれ別の役割を持った別の機能です。
 どちらかを理由に他方を制限する意味はなく、互いに必要なだけ必要なことをするべき。
 ……と、MMTは概ねこのようなコンセプトを持っているのだと私は解釈しました。


 これはなんの根拠もないまったくの感想なんですが。
 MMTの根幹には何というか、「経済は人間が作ったものなのだから、もっとコントロールできるはずだ」「コントロール可能なもので、困る人間が出るのは間違っている」とでも言うべき素朴な信条を感じました。(文系人間ですゆえ!)
 そんな経済哲学みたいな意味でも、MMTを理解する意義はあるのかなと思います。

 以前はMMTは理論先行で実証性に乏しいとして、あまり信用されていませんでした。
 ですが昨今の情勢を見るに、世界的には積極財政の政策が広まりつつあるようです。中国は不動産バブル崩壊が、アメリカはインフレ傾向がそれぞれ確認されて対応を迫られており、この先の動きには注目です。

 日本もコロナによる経済のダメージから立て直すために、財政支援は欠かせない論点となります。
 私たちも様々な意見を見比べて、より確からしい経済知識を得ておきましょう!

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