見出し画像

紅茶詩篇『漁火と淡雪』

 淡雪に溺れてこの寒い夜に消え去る
 温かな流れ雨
 心臓の影に蟠る血の塊が溶けてゆく
 何かの悲劇のように毎日同じ日付と時刻で止まったままの日記帳
 時計仕掛けの日々は忙しなくて
 うたた寝をした記憶さえ手のひらは掬わない
 思い出されるのはいつも何かに励んでいるだけの自分自身
 悪に強い花に祈っていたあの夜
 私の世界は時にひびを入れたまま
 私の魂が魔物に攫われそうになった夜の恐怖で
 時空がいつまでも硬直している

 一人寂しくかなしみに沈んでいる
 煉獄につながれた魂のように
 目を覚まさせる機能だけが壊れた目覚まし時計を傍らに
 やさしい夢に焦がれていたんだ
 私の恋の相手は何も嘆くことがない日々だけだった
 折り紙の連鶴が増えてゆく
 口惜しくて怒りに出来ない鬼火が
 指先から燃えてしまう炎に従って紙を折り続けてしまう
 強くなったからと言って弱かったときの自分の痛みを
 大したことはない物事のように扱ってはならないのだ
 あの凄絶な魔の夜の出来事を
 勇気をくれる想い出には選びたくはない
 私の魂が魔物の毒滴る爪牙に掛かってしまった夜のことを
 この想いはいつまでも炎の鉄柵の中で呻き続けている
 心臓から夥しく滴る薔薇を感じながら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?