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掌編小説【薔薇喪失】

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美貌の公爵こと麗人薔薇柩による美と幻想への耽溺。 最も美しいものを失い、自らの美貌に処刑された貴公子の、優美な日常と殺伐の物語。 掌編小説。耽美小説。幻想文学。幻想小説。
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#創作大賞2024

掌編小説【薔薇喪失】00.『戴冠式』

掌編小説【薔薇喪失】00.『戴冠式』

 黒洞々の闇から、指の長い白い腕が、鎌首を持ち上げた蛇のように伸びていた。闇の前には光があったが、闇と光を隔てるようにして、鋭い棘を生やした荊の格子が立ち塞がっている。白く指の長い手は、棘だらけの細かい格子を通り抜けることができなかった。

 白い手は荊の格子に、蔓薔薇のように指先を巻きつける。柔らかな動き――その刹那。白く美しい手は獰猛な覇気を手の内に宿して、荊棘を掴んだ。棘を握りつぶすような気

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