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このスケッチブックの中には、魚がいる。

こっちを見ている。
ような気がする。

私は絵を描くのはあまり得意ではないが、20才頃に魚の絵をよく描いていたことがある。
魚自体に詳しいわけでもなく、私の中の魚をただただ描いていた。

細い魚。
太い魚。
口の形。
目の大きさ。
ひれの形、位置、大きさ。
いろんなバリエーションで描いていた。

釣りをするわけでもなく、魚をことさらよく食べるわけでもなく、何がどうしたということもない。
魚の絵が描きやすかったのだろうか。

大阪の大きな水族館に、何度か行ったことがある。
動物園もいいけれど、水族館も楽しい。
アザラシがヒュンヒュン水中を泳いでいるのを見るのは、飽きない。
大きな魚が悠々と泳ぐ様子を見るのもいい。

苦手なのは、群れで泳いでいる魚たち。
たくさん、同じ方向に、びっちり泳いでいる。
意味があって、群れているのだろう。
けれど、しんどい。
たまに逆走していたり、はぐれている魚がいると、シンパシーを感じてしまう。

で、このスケッチブックの中の魚は、やはり私を見ている。
何か、挑発されているような気がする。

『ぼくは気持ちよく泳いでいるよ
 そっちはどうだい?』