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何故、クトゥルフ神話TRPGの〈回避〉は複雑化したのか?

結論

CoC7版、新クトゥルフ神話TRPGで遊べ!

以上

はじめに

 クトゥルフ神話TRPGにおいて戦闘ラウンド中で、〈回避〉は一体どの様に機能するのか?その答えをルールブックに問いて見ると、「戦闘ルールの項目には1戦闘ラウンドで行える行動は(受け流しを除き)1回だけ!」と書かれているのと同時に回避の項目には「銃弾は1回だけ回避できるよ!」と書かれている。前者の記述を信じるのであれば、攻撃をしない戦闘ラウンドは相手の攻撃を銃弾だろうが近接だろうが1回しか回避できない。後者の記述を信じるのであれば、銃撃は1回のみだが近接攻撃に限れば1戦闘ラウンドで無限に回避を試みれると言う反対解釈が成り立つ。と、一見矛盾したルールになる。そこに回避のオプションルールである技能値を下げれば3回までなら1戦闘ラウンドで回避出来るルールを加えると果たして銃撃にはどの様に機能するのか不明となる。
 今回はその複雑極まる6版における〈回避〉ルールが何故ここまで複雑になったのかその経緯から考え、どう処理するのが正しいのか考えてみる。

いや、素直に7版で遊べよ

4版までの〈回避〉

 〈回避〉に関してこのルールが複雑したのは5版以降のルールからである。つまり、4版以前は1戦闘ラウンドにおいて1回の行動しか出来ないので考えることはない、攻撃か〈回避〉かを選択すれば良かったのだ(受け流しはBRP基幹通り武器ごとに独立した技能になっていた)。
 実にシンプル。このままのルールであれば良かったのだ……

5版での〈回避〉

 はじめに、以前の記事でも述べたようにルールが複雑化したのは4版の終盤、とりわけ5版時代である。こと〈回避〉においては5版の5.5版と5.6版(20周年版)でルールに変更が入っている
 20周年版ルールブック?そう、2001年当時のGenConで配布された実質的に5.7版とされたルールブックである。
 さて、まさかの記念版でルール変更を行うと言った暴挙に出た訳だが、そのことについて述べる前に5.5版における〈回避〉のルールを述べる。勿論、ここでのルールは日本語訳された5.1版のものと同様である。

Dodge may not be used against any firearm attack.

A character may dodge each attack once per round. A character attempting to dodge in a combat round may also parry, but not attack. A character may parry only once per round. In general, a character has three options per round - dodge, parry, and attack, and our system allows a character to attempt two of these options per round.

 ルールの記述自体は変更はないが当時のケイオシアムへのQ&Aにて上記の様に回答がなされている。1回回避と1回受け流し、よく知られているルールだ。そして驚くべきことに、当初の想定では銃弾は回避できないとされていた。まあ、現実に当てはめるなら狙って回避出来ることは稀で何のおかしな回答でもないだろう。
 だが、忘れないで頂きたいのはこれはルールブックの記述ではなく、あくまでケイオシアムの回答である。

そんな中、20周年記念ルールブックでは以下のような記述になった

Dodge (DEX x2 %)

Allows an investigator to evade blows, thrown missles, attacks from ambush, and so forth. A character attempting Dodge in a combat round may also parry, but not attack. Dodge can increase through experience, like other skills. If an attack can be seen a character can try and dodge it. Against guns, a defender can try to dodge only the first bullet fired at him in the first round.

 今現在、日本語訳されている6版でも確認可能な最初の弾丸のみ回避可能の記述だ。これによりルールブック環境下では近接攻撃は無限に回避可能となってしまった。また、オプションルールとして3回まで回避可能なルールが登場したのもこの版である。

 しかしだ、何故この記述が加わったのだろうか?何故、オプションルールが登場したのだろうか?その答えは発売された年にある。
 本来の5.6版が発売したのは1999年、20周年版が出たのは2001年、この2年間の間にとあるサプリメントが発売された。

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 The Keeper's Companion, Vol. 1である。そう、日本公式が改定新版と称して内容を大幅カット、300ページ以上の超大作を100ページにまとめる暴挙、あとがきで2010とカルト・ナウに載せてない部分は載せると書いて結局そこでも一部抜粋+参考シナリオと解釈不一致なオリジナル要素を加筆されたあのキーパーコンパニオンのvol.1である。
 回答はこの日本公式が訳さなかったルールにある。因みに、当時のサプリ事情を言うと1920's Investigator's Companionなどはプレイヤー用のルールブックとして扱われていたし、日本でも一部がプレイヤー資料として翻訳されていた。
 さて、その翻訳されていないルールとは“Skills Revisited”と言う項目である。このルール簡単に言ってしまえば、一定の技能値以上であれば一部の技能が1戦闘ラウンドで複数回振れると言ったルールである。RoFが採用された「クトゥルフを撃て!」を思い出す人もいると思うが、これは技能値によるものでありDEXではなく、また技能全般におけるものであってInvestigator's Companionにおける銃火器の技能値による複数回攻撃よりも広い範囲のものとなっている。
 そう、このルールによって〈回避〉を1戦闘ラウンドにおいて2回使える探索者が生まれたのだ。そして、先程のルール回答はあくまでルールブックの回答ではなく個別Q&Aの回答である。故に銃弾を連続で回避する探索者が爆誕してしまう。
 なので、銃弾は最初の1回と言う記述を追加したと考えるのが自然であろう。
 参考にしたQ&Aではオプションの3回回避により、銃弾も3回までと解釈されていたが、純粋に回避回数が増えるオプションと考えれば、技能定義である1回のみの記述はそのままに近接が3回に増えるというのが正しいと私は解釈する。

日本公式における回避

 では日本公式の解釈はどうであったのか?勿論、6版から急に銃弾1回制限の文言が追加され、銃弾の打ち分け記述の翻訳漏らしや中山氏特有の以上と超え、以下と未満を全て逆に訳すと言う誤訳を残しておりながら、何故かこの回避の記述は翻訳されていた
 であれば、日本公式もケイオシアムの回答を考慮して、この銃弾の1回についてQ&Aで回答……

Q,1ラウウンドに行える技能ロールの制限は?
(略)
戦闘ラウンドに行える技能ロールは〈回避〉を除いて1回だけにし……
Q,〈回避〉技能は1ラウンドに複数回行えますか?
(略)
「回避のオプション」(選択ルール)を使用するのであれば、1ラウンドに行うことができる〈回避〉は3回になります。

回答になってない!!!

 まあ、このQ&Aを作成するにあたってケイオシアムへ連絡を取ったが一部を除いて好きにしろと回答が来たためになんとか解釈して書かれたから仕方ないと思いつつもこのQ&Aが掲載されたRole&Roll vol.44は2008年の発売である。に対して、先ほどのQ&Aが公開されたのは2004年であるし、この議論スレは今でも確認できる。まあ、いつもどおりのやらかしだ。

なんで複雑になったのか?

 4版でサンディーがケイオシアムを去った話はしたが、では5版以降誰がデザイナーを担当したかというと、リン・ウィルスとキース・ハーバーである。とりわけ、キース・ハーバーは上記の1920's Investigator's Companion、The Keeper's Companionのメインの作者である。
 元々彼が〈鍵開け〉のルールからデビューを果たしたり、クトゥルフ・ナウにて6版以前の戦闘ルールを整えたり、ラブクラフトカントリーシリーズの発起人だったりとCoCのルール整備に注力していた。事実、彼はクビになるまでの間、当時のCoC関連の編集長と言う立場であり、さんざん複雑な銃火器による戦闘ルールや弓矢を近接攻撃扱いしたのでワープバグが発生することになったことや今回の原因となった技能に関する再考も彼の作ったルールである。
 彼の背景としては元々がライターと言う訳ではなく、彼は新聞記者として活躍してAD&Dに嵌った流れで、自身の好きなクトゥルフ作品にRPGが出るとして、即座に大規模キャンペーンを持ち込んでそこから頭角を現したライターである。
 この様に言えば情熱のある素晴らしい人物であるが、先に書いた様にルールの複雑化を招いたり、何よりシナリオの質はクトゥルフ・ナウの「悪魔のロックバンド」より前のものはとてもではないが評価できるものではない。
 具体的にどの様な理由でどんなことがあったかは想像の域を出ないが(この周辺の時期に他企業の仕事をケイオシアム所属のままやってたからその辺が怪しい)

YSDC: Why did you decide to leave?

Doc: Because they told me to, so staying seemed pointless, and probably illegal. Some years after they began telling people I quit, but that's untrue. I was fired, and my attempts to book free lance projects were rebuffed.

上記のようにインタビューで答えており、徹底的な嫌われ具合が伺われる。
 しかしながら、「悪魔のロックバンド」以降のシナリオは評価は高く、嫌われていながらも彼が発起人となり、ラブクラフトカントリーシリーズとクトゥルフ神話TRPG最高傑作の内一つのサプリシリーズを製作しているし、2008年の年末には彼が社長となりその下にトム・リンチ、ケビン・ロス、オスカー・リオスと言った現在でもクトゥルフ神話TRPGを最前線で引っぱているライターを集めた会社を設立している。上記のように答えてはいても彼が如何に実力のあったライターであったかは想像に難くない。

まとめ

 回避ルールは1人のライターによりここまで複雑になった。当たり前だがここまで複雑だともはやルールを1から作り直した方が良い。

7版を遊べ!!!!!!!!!!!!!!!!!!


参考文献

How do you handle Dodge?
Keith Herber Interview
Role&Roll vol.44
The Keeper's Companion, Vol. 1
キーパーコンパニオン改定新版

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