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トラウマ治療について⑰「困ったときに親を見ると安心できる関係性」

EMDRと家族療法についての本

この本は、EMDRを受ける前にどんなものか知りたいと思った時期に購入した。こちらの記事で触れた、EMDRを行う過程が書かれていた同じ著者の「子育てに苦しむ母との心理臨床」と同時に購入したものだ。

購入したはいいもののそのうち他に気になる本がどんどん出てきてしまい、すっかり読みそびれていた。「子育てに苦しむ母との心理臨床」は乳幼児とその母について書かれているが、今回の「子どもの感情コントロールと心理臨床」は、幼児期以降の子どもと親との関係性や問題行動、EMDRに至る過程などが書かれている。


感情制御の発達不全における日本特有の問題について

著者は親子の心理療法、家族療法、EMDRの専門家であり、日本の方である。長年日本の親子の問題に向き合っていく中で気付いた、日本人の子どもへの共感性の高さゆえに生じる問題について書いてある。トラウマ関連の本は、アメリカのものがほとんどだ。家族の問題は文化が違えば差異が出てくるのは当然だ。

この本に書いてある問題は、本当にありふれたことのような感じがする。激しい暴力も虐待も貧困も無く、親は子どもを大事に育てている(つもりである、ということになるのだが)。それなのに感情制御の発達ができないまま成長し、問題行動を起こす子どもがいる。問題行動を起こすまではいかずとも、感情を解離したままの子どももいるだろう。

「感情制御の発達不全」とは「不快な感情を安全に抱える力が育っていないこと」を言うのだそうだ。不安や悲しみや怒りなども大事な自分の感情なのだ、持っていてもいいのだと思い、その中で親に安心感や安全感をもらいながら自分で乗り越えていく力。子どもが自分のネガティブな感情を何らかの理由で「感じてはいけない」と思い、無いことにしてしまうと一次解離が起きる。解離した感情は捌け口を求めるので、爆発して問題行動に繋がったりすることがある。

私は自分の子ども時代に向き合う過程で、自分に対する親の扱いや行動がどんな風に私自身の心の傷になってきたのかが分かってきたが、親が自分を愛していなかったとは思っていない。それなりに大事に育ててもらったのだろうけど、それと「感情制御が発達しないままになる」ことは別だと思っている。

「愛されていたのね」で済む話ではない部分があるということだ。そして、それは時間がかかっても回復できる。


ネガティブな感情を抑え込み続けた子どもはどうなるか

これまでに読んだ本でも学んだが、子どもは感情制御が未発達だ。ネガティブな感情が出てきたら、親にその感情を受け止めてもらい、安心することで安定した大人へ成長する。成長につれてネガティブな感情を自分で抱えていけるようになっていくには、大人の声掛けや関わりがとても大事だ。

でも、ほとんどの大人は子どもにはニコニコ元気でいてほしいと思っている。泣かないで欲しいし、不快な感情を表に出して欲しくないと思っている。ネガティブな感情から泣いたら泣き止ませたいし、転んでも我慢させたり、感情をできるだけ早く収めさせようとする。これは、親が不快な気持ちになりたくないし、不安になりたくないのだ。今思うと、なぜ子どもが自分の嫌な感情を出しているところで親が不安になったり嫌な気持ちになるのだろうと不思議に思うけど、私も同じだった。とにかく不安でたまらなくなるので、私を安心させて欲しいと思っていた。

そもそも日本人はネガティブな感情を表に出すことを良くないことだと考えがちだ。「男の子なら泣かないの」とか「黙って我慢することが美しい」とか。

大人が子どものネガティブな感情に向き合わずに否定していたらどうなるか。子どもは「ネガティブな感情は表に出してはいけないのだ」と学び、ただ抑え込もうとする。情動や身体の感覚で感じていること(ボトムアップ)を、親の声による認知情報(トップダウン)が抑え込む。身体感覚や情動を無いことにして認知情報を優先し、一次解離する。正常解離だが、長期にわたって習慣化すると、いろんな問題が起こってくる。

私は両親が喧嘩をしていた時などに、おそらくこの一次解離を使っていたように思う。不安や怖さを表に出さないでじっと固まっていた。そして何食わぬ顔で日常生活を送れていた。その後溜まっていた感情が爆発して訳も無くぐずったりするようになったが、その時も受け止めてもらえずに「悪い子だ」と言われ、自己否定を積み重ねるようになっていった。

この一次解離は、多くの子どもが経験しているのではないかと思う。親も子ども時代に経験している人の方が多そうな感じがする。

子どもがネガティブな感情を出してきたら「怖かったね」「痛かったね」などと感情や感覚を言語化して受け止め、抱きしめて安心させてやる。その感情はいけないものではないし安全に抱えられるものだと子どもがわかり、親に受け止めてもらえることでネガティブな感情が収まっていく。
これを甘やかすことだと勘違いしている大人も多そうだ。我慢のできない子になってしまうんじゃないかとか思いがちだけど、逆に自分の中で抱えて乗り越えられる大人になるには、こういったことが必要だったのだ。

世の親たちはほぼ感情制御が発達不全で、子どもに安心させてもらいたい人しかいなさそうに見えるのだけど…。もちろん、子どものことをほとんどの親が愛しているだろう。親自身にとっての安全や安心とは何だろうか。


過去から身に着けた解離+現在進行形の問題増幅システム

感情制御の発達不全を抱えた子どもが起こす問題行動と回復への過程については、事例がいくつか載っている。幼い頃に親との関わりの中で感情を一次解離する習慣を身に着けてしまい、学校などでの傷つき体験から問題行動を起こしてしまうのだが、そこで現在進行形の親との関わりや学校などの環境が問題を増幅してしまっている場合が多いらしい。これを「エコシステミックな見立てモデル」という図解にして分かりやすく説明してある。

親が子どもの問題行動に関して、自分の不安から子どもと向き合わずに何とか状況だけを改善しようとしたり、そんな子どもへの怒りが抑えられなかったりすると、子どものネガティブな感情を受け止めてやることができない。そして、問題が増幅されて悪循環に陥ってしまう。

私の場合だと、幼少期に家庭のストレスからチックになったり弟に意地悪していた時、親は私の気持ちを受け止めずに「悪い子」だとして怒りをぶつけてきた。そして私は自己否定に陥り、ますます悪循環になっていったことなどだろうか。私の不安や怒りは「悪いこと」になっていた。

事例には、不安から出先でも腹痛になる子どもに振り回されていると苛立ちを感じて叱っていた親にこう説明したとある。
「不安な気持ちがあっても腹痛にならないためには、自分が抱えている不安な気持ちを認識できるようになることが必要であり、そのためには、まず親がその感情を承認し、言語化してやることが効果的である」
そうすると、子どもは「不安を訴える→安心が得られる」ということを学習して、不安を不安のまま抱えられるようになる。「ああ、自分は不安なんだ」と泣ける方が、「不安なんて思っちゃいけない」と腹痛になるよりもずっといい。

「困ったときに親の顔を見ると安心する」という関係性を回復していかなくてはならない。そうすることで子どもは自分の思いを語れるようになり、これから先に出会う不安に対処できる自信を身に付けていく。子どもの場合はこの親との関係性が回復してから、トラウマがあればそれを治療していくことが可能になるそうだ。


親としてのアイデンティティ

「不安な気持ちを泣きながら訴える」というのは、とても大事なことなのだと実感する。でも、親って子どもが不安になると打ち消したくなる人多いよなあとも思う。それは親自身が自分の不安などのネガティブな感情をそのまま抱えていられないからだ。だから子どもに向き合うのではなく状況のみを何とかしようとして、悪循環に陥る。子どものネガティブな感情を否定してしまう。

「親が本当に親になれるかどうかは、かわいいわが子ゆえに生じる苦悩にぶつかったときに、その苦悩をちゃんと抱えることができるか否かにかかっている」

親として葛藤することを回避してはならないのだ。でも親自身の感情制御が発達不全であったり、トラウマがあったりすると、子どもに向き合うことなどとてもできない。まずは親からになる。

たぶん、今私は「親としてのアイデンティティ」を確立させるために自分を育て直しているところなのだと思う。自分で不安を抱えられることができていないことにも気づいていなかった。周りの大人を見ても、できていると思う人ってなかなかいないけれど。自分の耐性領域の中で留まれるようになり自分のことを調整できるようになって、自分の持っている感情をどれも大事に抱えられるようになること。自分ができるようになると、子どものことにも対応できるようになっていく。


今読むからこそ意味があり、沁みるのかもしれない

この本はもっと若い時に読みたかったと思ったりもするのだけど、きっと結婚前や出産前に読んだとしても(例えトラウマ治療をその時にできていたとしても)、頭に入ることは無かったのかもしれない。実際にやってみるまで分からないことや、実感できないことはたくさんある。今だからこそ、骨身にまで沁みわたるほど理解できたのだと思う。

ちなみに、この本に書いてある「子どものネガティブな感情を受け止めて言語化してあげる」というのは、こちらの記事で書いた本にノウハウが載っていることに気が付いた。

あとは、自分の心のことに向き合えない状態でこの本を頭で読んでも、全然納得がいかなかったかもしれないと思った。何事もタイミングが大事なのだろう。









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