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The Making of Rurouni Kenshin―るろうに剣心のすべて 第五章:装飾 渡辺大智さん

“前作を超える”という強い信念の元、映画『るろうに剣心』シリーズを進化させ続けた日本を代表するプロフェッショナルたち。映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』の撮影舞台裏に迫る、限界知らずのチーム「るろうに剣心」スタッフの皆さんのインタビュー連載企画!

第五章は、『るろうに剣心』シリーズ全作品で、「美術」と共に映画のセットなど背景や空間そのものを創造する「装飾」を手掛けた渡辺大智さんにお話を伺いました。

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『#るろうに剣心』シリーズ最大の全国12都道府県、43ヵ所以上で撮影!皆さんの近くにも剣心たちが…?
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■「普通の時代劇にしないでくれ」

美術の橋本創さんが、まず、映画の世界観を創ります。僕ら装飾のスタッフは、その美術に対して味付けをします。たとえば、「そこ」に住んでいる人たちの営みのようなものを付け加える。
『るろうに剣心』シリーズの舞台は明治時代。当時、機関車に乗るときはみんな大荷物ですし、駅のシステムもいまとは全然違い、ポーターがいたりもします。そうした下調べをして、ある空間を「ちゃんと人がいる場所」にする。これが装飾の仕事です。
人が生活の中で必要とする道具、それを絶妙に配置していくのも仕事です。店先ののれんや看板もそう。当時は電気がない。水も蛇口をひねったら出てくるわけではない。もちろんケータイもない。それなら、人と人とはどうやってコミュニケーションをとっていたのか。そういうところから、物語の人物がどういう生き方をしているのかも想像します。敵のキャラクターには、どのような過去があったのか。大友啓史監督は「そこ」にこだわります。なので、自分なりに想像して、装飾を創ります。監督にも喜んでもらえるように(微笑)。
装飾とは何か、と言われたら、<営みを創ること>ですね。

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大友監督には、最初の『るろうに剣心』のとき、「好きにやってくれ」と言われたことが印象的ですね。もちろん、とんでもないオーダーもあるのですが(笑)。でも、それは「普通の時代劇にしないでくれ」という抜本的なことなんですよ。
たとえば、江戸時代はモノクロームの世界ではない。実はものすごくたくさんの色がある。洋風のものが入ってきて、入り乱れたらカラフルにもなる。
あと、「悪いことしているヤツが明るいところにいるんだよ」という監督の言葉も大きなヒントになりましたね。
そして、大友監督作品の特徴でもある「汚し」。汚しと言っても、ただ黒くするわけじゃないですよ。人が動いて、生活していたら、物は汚れるわけです。昔の人はひとつの樽を20年、30年使うのが当たり前。なら、その樽はどうなっているか。綺麗なはずはないですよね。行燈だって煤がついています。

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この10年で装飾、小道具のスタッフはチームとして成長したと思います。チームの全員が分担関係なく、できることを探して、できる限り以上にやる。その繰り返しで、作品が成熟したと思います。
この映画でやりたいこと、やるべきことは、みんな見えている。頭の中には想像していることがある。でも、それ以上のことをやろうと常に考え、行動し、実践しています。
スタッフは丸10年、このシリーズにかかりきりなわけではありません。その間に、他の作品を手がけている。でも、他の映画をやってるときに、いろいろなアイデアが浮かぶんです。『るろうに剣心』で、こういうことができるなと。そういう時間を含めて総合的に出来ているものなんですよ。10年って長い時間です。
特に今回は、これまでの3作で出来た『るろうに剣心』のイメージを大切にしながらぶっ壊す、ということをやっていたと思います。

■この10年間を肯定するために

縁(えにし)との最後のアクションが、いままでとは違うものになればいいなと思いました。
戦いの場が、外ではなく、室内空間であるということは大きい。1作目の森、2作目の船の倉庫と、これまでは広い空間でやってきています。今回は決して広くない室内で、最後の敵と対峙する。これは鮮やかな対比になります。
谷垣アクション監督とはざっくばらんに話していました。室内の限られたスペースを、谷垣さんのしたいことができるような空間とすべく、様々な工夫を施しました。
今回、お互いにかなり意識していたことは、室内なので、刀を振ったら何かに当たるということ。しかもかなり長めの時間、延々と戦う。それなら、いろいろなことを提案すべきです。電飾があって、刀が当たったら電飾が切れて、そこから火が出てもいいわけです。そこは躊躇せず、自分なりにどんどん提案していきました。
もちろん、安全も確保しなければいけません。ガラスに見えるもの、木に見えるもの。そういったものを活用して、狭い空間のアクションを一緒に練り上げていきました。
面白かったし、楽しかった。そういう意味では大変ではなかったですね。それだけ、『るろうに剣心』というチームは分厚くなっていたのだと思います。

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特に、剣心と縁のラストバトルは、美術、装飾、アクション、撮影、照明の総合力が結集しています。アクションの営みも、そこで何が起きているか、ひとつひとつその理由を考え、みんなでアイデアをふくらませました。見たことのないものを創り上げたかったんです。

縁の屋敷には中国だけでなく、中東のもの、たとえばトルコの物を置いています。当時、そのような流通があったのは事実。中東を導入したことで、世界観は広がりましたね。いわゆる、お馴染みの中国っぽさを打破することができました。
建物も、西洋人が東南アジアで建てている建物をイメージしています。つまり、文化がクロスしている。
縁の「武器商人」という仕事は言ってみれば総合商社ですからね。いろいろなものが混在していていいんです。中国流の生花なども入れることで、活性化させています。
縁はきっと退屈している人間だと思うんですよ。なので刺激が必要なんだろうなとも考えました。
そして彼の心の拠りどころは、巴の肖像画が飾られている部屋。あそこは、子供にとってのドールハウス。精神的に参ったときは、あの部屋に行く。そんなイメージです。

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どのスタッフも、ギリギリのところで作業していたと思います。各部署とも、よくやり切ったなと。
もし今回何か失敗したら、自分たちの10年を否定することになりますからね。3作で成功したことも全部、否定することになる。否定しないためにも、いろいろなことを考え、闘っていく必要がありました。

僕は1作目で意識を変えてもらったんですよ。30歳になりたてで、このシリーズの装飾を任せていただいた。そんなことは普通ありえないですよ。これは恥をかけないなと。とにかくやり切ろう。そして、終わった後に確かな手応えがあった。とんでもなくデカいハードルが、自分の中に出来たんです。

30代という成長する過程で、このシリーズに関われたこと。これは本当に大きいです。
やり切りました!
10年間、ありがとうございました!
それしかないです。

                          聞き手:相田冬二