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The Making of Rurouni Kenshin―るろうに剣心のすべて 第二章:谷垣健治アクション監督

“前作を超える”という強い信念の元、映画『るろうに剣心』シリーズを進化させ続けた日本を代表するプロフェッショナルたち。映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』の撮影舞台裏に迫る、限界知らずのチーム「るろうに剣心」スタッフの皆さんのインタビュー連載企画!

第ニ回目は、アクション監督の谷垣健治さんです。観る者の心をつかんで離さない『最終章』のアクションシーンがどのようにして生まれたのか、そしてキャスト&スタッフが『るろうに剣心』シリーズのアクションにかけてきた想いを語っていただきました。

■前作とお客さんの期待を超える『最終章』の「るろ剣アクション」

『京都大火編』『伝説の最期編』のキャッチコピーは、「さらば、剣心。」。そのコピーの通り、アクションもこれまでの3作品でやれることはやり尽くしたような気分がありました。
そんな中、『最終章』では、お客さんが期待している『るろうに剣心』、そしていわゆる「るろ剣アクション」の可能性をどう発展させていくかに注力しました。剣心の戦い方としてはすでに確立されている部分があるので、それをいかにあの手この手で緊張感を持続させて展開させるか。
『The Final』ではキャラクターもたくさん集結しますからね。縁(えにし)という強力な存在がいるにしても、どこか『アベンジャーズ』のような「全員エンタテイメント感」を意識しました。観る人をわくわくさせて、ちょっとだけアトラクション的でもある。ふっと気持ちが上がるような部分を作っています。最終盤は特に、人物が入り乱れるので緩急がつくようにしました。

どのキャストも、それぞれ優れた役者さんですから、自分の演じるキャラクターの見せ方がよくわかっています。彼らにしか表現できないオリジナリティです。僕らが要求したことを、言った通り忠実に体現するのではなく、お互いいろんな意見を交わしますし、本番では僕らの想像を超えるものを見せてくれる。特に、佐藤健は剣心であり、剣心は佐藤健である、と感じさせられることが多かったです。
佐藤健さんとはシリーズを共に戦っていく中で「剣心とは」という部分で共有できているものがあります。その中から、どの剣心を出したら、お客さんが「お!」と思うか、熱くなれるか。この点は、前3作以上に綿密に、お互いに確認作業をしました。
「こんな剣心を見せたら、お客さんは喜ぶんじゃないか」といった感じでまるで、一緒に誕生日プレゼントを選んでいるようでした。お客さんへ何百日後に贈るプレゼント。それはアクションだけではなく、各部署のスタッフがそういう気持ちでいたはずです。
1作目(『るろうに剣心』)の時に、僕らが当時イケてると思ったものを打ち出したら、幸福なことにお客さんにも受け入れられ、喜んでいただけた。物作りをする中でこういうゾーンに入ることはそうそうあることではないですから。そうすると今度は、どんなことをしたら喜んでくれるかな?ビックリするかな?というね、ちょっとしたサービス業みたいな気分にもなっていましたね(笑)。
佐藤健さんは彼自身、剣心でありながら剣心の一番の理解者でもありますから、主観だけでなく、客観的な視点が常にあるんです。何が必要で、何が必要ではないか。そこをクールに見定めているし、僕らも一緒に取捨選択していきました。

■剣心と縁のアクション

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『The Final』の冒頭の縁のアクションは、新田真剣佑さんのフィジカルを存分に見せつけることで、お客さんの中にあるであろう「(真剣佑が)どれだけできるんだ?」という疑念を取り払えればという思いがありました。
1作目の時に、『るろうに剣心』という題材が実写化されることに対して否定的な意見も多くある中、冒頭の鳥羽・伏見の戦いで佐藤健さんは剣心としての強烈な印象をお客さんに植え付けました。上映前の否定的な見方との落差があったからこそ、振り子理論で、「スゲエ!」となったと思うんです。そうなればお客さんは後の2時間余りの映画の展開になんの疑問も持たずに受け入れてくれる。それだけにオープニングというのは大事なんです。
今回は縁がその役割です。縁が「動き出したくてしょうがねえぜ!」とばかりに、密室空間から外に出て縦横無尽に駅舎を駆け抜け、その圧倒的なフィジカルで観る人を唖然とさせれたらいいなと考えました。
僕らのアクションの特徴にセットの中をアクションで一周して見せる、ということがあります。この冒頭のシーンもそうですね。列車から外に出て、上に行ったり、下に行ったりしながら、また列車に戻ってくる。既に、肉体の暴力性やエネルギーは見せているので、それが再び列車内に戻ってきたとき、「さあ、今度はどうなるんだ?」と思ったら、まさかのけん玉。
これは、監督の「縁は、相手を手玉にとって軽妙に暴れまくる」というキーワードから連想してのこと。武器がけん玉なのでこのシーンでは、警官たちは一人も死なないけれど(重傷ではあると思いますが笑)、こんなおもちゃでもこれだけ強い男が、いざ刀を抜いたらとんでもないことになる!そんな風にお客さんの想像が膨らむといいなと。

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そして剣心。佐藤健さんは、アクションでも受けの芝居がものすごく上手い。クライマックスの戦いも、縁の力をよけたり、受けとめるという表現に、ものすごく説得力がある。だから、剣心のアクションは面白いんです。1対1の対決における、よけ方や受け方の具合で、敵である相手の「格」を表す。つまり、相手がどれだけ強い存在なのかということを、剣心のリアクションを通してお客さんは感じることができる。だから、同じような立ち回りにはならないし、どちらが優勢かもよくわかる立ち回りになるんです。

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このクライマックスのアクションでは、剣心が一晩かけて、戦いを通して縁を「説得」していく。夜から朝までの長い時間を費やして。
志々雄のときは国を背負っての戦い。だから、戦い方のベクトルが、外向きだったんですが、今回は義理の弟との戦い。できれば戦いたくない、うちに籠る戦いです。
戦いの最後に、縁が剣心に対して手に取るものは最初は、縁自身の刀を想定していました。彼には刀のコレクションがたくさんありますから。しかし、撮影を進めていくうちに、それとは違う「あるもの」を手に取らせれば大きな意味が生まれるんじゃないかという話が自然と出てきて、今のような感じになりました。
そこに気づくお客さんと、気づかないお客さんがいると思いますが、どちらでもいいんです。ただ、その「あるもの」がいろいろな人の手をわたって、最終的に剣心に再び辿り着いたとしたら、そこに大きな運命を感じることができる。
これも、大友監督がアクションをじっと見守ってくれているから生まれたアイデア。これは、かなり『るろ剣』らしいことだと思います。最初から想定していたわけではない。でも、図らずして、ふと決定的なことが起きる。スタッフも役者もずっと「よりベストな何か」を考えているからこそ、そういうことが生まれる場になる。それが僕が感じる大友組の面白さであり、ダイナミズムだと思っています。

■『The Beginning』の剣心

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『The Final』では、これまでの集大成といわんばかりに「こんな剣心が見たかった!」と感じてもらうことを意識していましたが、『The Beginning』では逆に、「こんな剣心は見たことがない・・・」と、これまでとは全く違う剣心を見せることをとにかく考えました。

これまでの剣心は、逆刃刀を使いますから、「連撃」を用いたヒッティング、つまり自然と手数の多い戦いになるわけです。
しかし、『The Beginning』では剣心は人斬り抜刀斎であり、真剣を使うので、斬れば血も出るし、当然斬られた相手は死にます。逆刃刀の「ヒッティング」に対してこちらは「スライス」。この違いと、冒頭で見せる凶暴性。そして、瞬殺の殺陣の先にあるものを体感してほしいと思います。
そして『The Beginning』の最後のアクションはドラマ性が強く出ます。そこをどう見せていくか。現場でもギリギリまで話し合いました。
どうか楽しみに待っていてください。

                          聞き手:相田冬二