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The Making of Rurouni Kenshin―るろうに剣心のすべて 第四章:美術 橋本創さん

“前作を超える”という強い信念の元、映画『るろうに剣心』シリーズを進化させ続けた日本を代表するプロフェッショナルたち。映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』の撮影舞台裏に迫る、限界知らずのチーム「るろうに剣心」スタッフの皆さんのインタビュー連載企画!

第四章は、セットのデザインアートの投稿でご紹介した、『るろうに剣心』シリーズ全作品で美術を手掛けた橋本創さんにお話を伺いました。

セットのデザインアートを場面写真とともにご紹介した記事はコチラ👇

■戦いの場には、高低差が必要

『The Final』は、縁が中心となる物語。そこで、美術としては、縁の設定をどうするかをまず考えました。
暗殺者の許で育てられ、上海に渡り、マフィアとなった。これが縁のバックボーンです。青年期はほぼ中国で過ごしている。人格形成にも、趣味性にも、中国の影響は大きいはず。
そこで、縁の屋敷は、オリエンタルな意匠をほどこした洋館にしました。上海の要素もあれば、イギリスの要素もある。あえて言うなら、ヌーヴェル・シノワ的なものを目指したつもりです。
1作目で既に、明治時代ならではの洋館は登場しています。また、2作目、3作目にも、スタンダードなイギリス式の洋館は出てきている。それらと一緒では、映画として面白くなりません。中国の文化を取り入れ、中華的な雰囲気も加味した洋館を4作目のメインステージとしました。

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縁は、いわばラスボス。なので、屋敷に入ってから縁のところまでなかなか辿り着けない構造にしています。アクションのステージングを意識してのことです。門を入ると最初に見えてくるのが、レンガ倉庫。この表の倉庫には武器や密輸品が置いてある。そんなイメージです。とにかく、ステージの段階を踏んで到達できる、そのようなコンセプトで屋敷は設計しています。

谷垣健治アクション監督もレンガ倉庫のセットを”カッコええな…!!”とツイート。

これは『るろうに剣心』シリーズ全編に言えることですが、リアルな建物に当てはめてしまうと、なかなか戦いのステージには成り得ない。キャラクターのポテンシャルを、戦いの場にどう組み込んでいくか。美術の設計において、いつも考えていることですね。
たとえば、アクションの場には高低差があった方がいい。平地でずっと戦っていると、映像的にも面白くならないんです。人物を追うにしても、カメラアングルが限られていて、単調になる。そもそも剣心は超人的な身体能力の持ち主。平地では敵なし。であれば、どのようシチュエーションだったら、彼に負荷がかかるかを考えたほうがいいですし、その逆境もうまく使い、乗り越えていくのが剣心だとも思うんです。

宗次郎が登場するシーンは、エントランスに階段があり、回廊があり、吹き抜けになっている空間。まさに高低差を意識した戦いのステージングです。普通なら、洋風のシャンデリアを吊り下げるところですが、やはりオリエンタルな要素を入れたくて、中華風の灯籠にしました。装飾の渡辺大智さんが作ってくれた祭壇も、ここでは効果的だと思います。

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谷垣アクション監督と橋本創さんによる、美術xアクションのここでしか聞けない制作裏話を語り合うPodcastも絶賛配信中です!

■ひとつの時代の終わりを映す

2作目と3作目は地続きの話なので、ある意味、4時間強の映画を作っていると思えばよかったのですが、今回の『The Final』と『The Beginning』は、明治時代と幕末と、世界観がかなり違います。
武士の文化がどのように終わり、どのように革命が起き、新しい時代になっていったか、ということが『るろうに剣心』の背景にはあります。4作目の『The Final』までは、抜刀斎時代の回想シーンはあるにせよ、基本的には、新しい時代が対象。5作目の『The Beginning』は、江戸時代の終わりをダイレクトに描いた、シリーズの中では異色の作品です。
飽和した社会が、新しい考え方や力によって、ひとつの時代が終わります。
アメリカから黒船が来て、これまででの常識では通用しなくなる。それに気づいた人、既得権益を守ろうとした人。どの時代でもあることですが、長期の権力は腐敗します。
鬱屈とした世界を変えようとする若者たち。そのあたりを世界観としても出せたら、と思いました。 

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『The Beginning』に登場する津島藩邸。剣心が冒頭で暗殺に行く場所ですが、いわゆる幕府の体制側、役人の屋敷です。長く戦争もなく、刀は持っているが、人を殺したことのない武士がそこにはいる。文化が何百年も続いたことによって、ルーティーンの仕事しかしなくなった腐敗した権力を表現するために、全体にカビのエイジングを施しています。立派なお屋敷が手入れも緩慢になって、さびれていく。そのことで権力の腐敗、時代の終わりの一断面を表現しています。

ラストの廃寺は、五感を失われた剣心の心情を、山を白い雪で覆い尽くすことで表現しています。最後は巴まで失ってしまう。全てを失って白い空間に剣心一人。これは、悲しい恋愛映画でもある。だからこそ、心情を世界観としても表現したかった。

『The Beginning』は『るろうに剣心』シリーズの中では毛色の違う作品ですが、僕はいちばん好きですね。僕自身、本来は内側へ内側へと向かっていく世界が好きな作り手。ずっとやりたかったタイプの時代劇をやり切れた。いまはそんな気持ちです。

江戸時代を実際に知っている人はもういません。100人いれば、100通りの生き方があり、100通りの暮らしがあったはず。史実と向き合いながら、ありえる人間の多様性を追求するのが美術。
そのあたりも、ぜひ感じてほしいですね。

                          聞き手:相田冬二