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庭園の緑とモダンの午後。東京都庭園美術館

モダンの庭園を歩きにゆく。

JR目黒駅の東口を出て、目黒通りをまっすぐ歩く。道路沿いに展覧会の旗がはためく。賑わう駅回りを通り過ぎれば、東京都・白金台の瀟洒な街並み。横断歩道を渡ればすぐ、柵越しに自慢の庭園が見えてくる。

エントランスに開催している展覧会の看板が見える。

東京都庭園美術館の緑豊かな正門をくぐり抜けて、ミュージアムへの道を辿る。夏場は入り口に「毛虫注意」なんて書かれていてヒヤヒヤしたっけ。

1933(昭和8)年に宮家の一つ、朝香宮の自邸として建てられたアール・デコの美しい建物は、50年後に美術館となった。今では国の重要文化財だ。

美術館本館の入り口

交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー

展示室

館の内装はルネ・ラリックアンリ・ラパンが手がけた。近代西洋への憧れが詰まったこの場所には、ヨーロピアンな美的センスの優れた逸品や、耽美的な美術品がよく似合う。

まるで公爵家か伯爵家か、ともかくそうした貴族の豪邸に招かれたみたい。はじめこそ荘厳さに萎縮するような心持ちだったけれど、今となっては気心知れた友人の邸宅へ遊びに来たような居心地の良さを覚える。きっとそうだ、ここは通えば通うほど寛げる場所になっていく。

本館はいわゆる美術館の建物としてはちょっと特殊だ。それもそのはず、もともとお家だったのだから。それはそれは色々な部屋があって、しかも展示構成によって使う部屋が変わる。通れる通路、通れない通路もその都度違う。そういう意味でもこの美術館は、何度も足を運ぶ楽しさがある。

順路はそこそこに複雑で、初めて来た人は少しウロウロしてしまうかもしれない。けれども大丈夫、係の人はあちこちに立っていて、警備さんも困っているときは道を教えてくれる。

展示室の他にお洒落なベランダもある。

私が気に入っているのは、妃殿下寝室大食堂

妃殿下寝室は、天井から吊り下がっている照明がお洒落。可愛いフリルの装飾はまさにプリンセス。心なしか、この部屋は一際愛らしい展示品が毎回多い。
広々とした大食堂もこれまた食器の展示が多くて、やはり意識しているのだろうか。キュレーターの遊び心に頬が緩む。

元の空間がどういう場所か定まっていると、展示の難易度は高まるのだろうか。学芸員さんに会えたら聞いてみたい。

本館を抜けた先にある新館は、一面が白い壁にフローリングのいわゆる現代的な美術館だ。こちらは多様な空間構成ができるからこそ、没入感のある展示が魅力的だ。


ミュージアムショップ

新館にあるミュージアムショップ「リュミエール(Lumière)」はフランス語で「光」を意味する。

その名の通り、ガラス張りの屋外から光の差し込むショップで、美術館のオリジナルアイテムや、展覧会に関する書籍・グッズが買える。
一部アイテムはオンラインショップでも購入が可能だ。

アール・デコの雰囲気たっぷりのアイテムが勢揃い。

ミュージアムカフェ

東京都庭園美術館に訪れたなら、お食事はぜひ正門横のレストラン「comodo(コモド)」で。リニューアル前は「デュ パルク(Du Park)」という名前で、南青山のフランス料理の老舗「メゾン ド ミュゼ」の姉妹店だった。

レストランの入り口

緑に囲まれていただく彩り豊かなフレンチは格別だろう。ランチはコース料理なので特別感も味わえる。リッチな目黒・白金台の街で、少し優雅にランチ食事を楽しみたい日にはうってつけだ。

外のテラスも天気の良い日は心地よい。

新館にある「カフェ庭園」はお庭に面した美しいカフェ。
全面ガラス張りの窓からは美しい自然の景色がよく見える。テラス席もあるから、暖かく天気の良い日は外でお茶をするのもおすすめだ。サンドイッチやタルティーヌ、まさに庭園で優雅なピクニックをしているみたい。

オープンサンドイッチ “タルティーヌ”
ボイルハム「ジャンボンブラン」と カマンベールチーズ

飲み物のラインナップも、さすが西洋と日本の雅を備えるこの美術館ならでは。コーヒーや紅茶の他に日本茶や抹茶も選べるから、洋風の可愛らしいケーキに渋い日本茶を合わせることだってできる。これが素晴らしい。

透明な緑茶の器はコロンと丸みがあって、軽くすっぽり手に収まる。不思議な気分だ。まるで湯呑みでお茶を飲んでいるみたいにしっくりくる。

好きなケーキと飲み物を組み合わせれば愉しみが広がる。

年間パスポート

展示や庭園をより楽しみたいなら、年間パスポート庭園パスポートがぴったりだ。

館の名前でもあるように、ここは何と言っても庭園が素敵。しかも広い。主なエリアは芝生広場・日本庭園・西洋庭園と3つある。

彫刻のある芝庭、まるでフランス絵画の世界をそのまま現実にしたような西洋庭園。静謐で鬱蒼と木々が茂る日本庭園には茶室「光華(こうか)」もある。秋はここから眺める紅葉が本当に美しい。イベントで呈茶をすることもあり、薄茶とお菓子を味わえるのだとか。

彫刻がある芝庭の風景
茶室「光華」で行われていた茶道具の展示
「光華」は紅葉狩りの穴場スポットとしても知られる。

おわりに

美術を観て、庭園でお茶を。煎茶を啜る私は貴族でも何でもないけれど、ちょっとだけ紳士淑女の気持ちを想像してみる。

夜間開館の折、或いは日が短い秋冬の夕暮れ時は、夜の美術館もぜひ見てほしい。とても美しいから。

夜の旧朝香宮邸

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東京都庭園美術館
〒108-0071 東京都港区白金台5丁目21−9
TEL:03-3443-0201
公式ホームページ

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