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ストリートミュージアム2021 鑑賞レポ

街【MIDTOWN】×ストリート【STREET】×アート【ART】。

例えば、六本木にお勤めのビジネスパーソンとか
散歩がてら買い物に来た近所の人とか
気品ある街の澄んだ空気を吸いに来た誰かとか

そんな人が通りすがりにふと目にする景色 - メガロポリス・グレーの石畳、乾いた靴音、頭上の案内板、その中にアート。

ストリートミュージアム 2021 
2021年3月19日(金)〜2021年5月30日(日)

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才能あるデザイナーやアーティストとの出会い、応援、その先のコラボレーションを目指して東京ミッドタウンが毎年実施しているデザインとアートのコンペティション
TOKYO MIDTOWN AWARD。

森美術館、国立新美術館、サントリー美術館と3つのミュージアムに21_21 DESIGN GALLERYなどアートギャラリーも数多く点在する街、六本木。
そのアイコンである東京ミッドタウンらしい取り組みと言える。

2020年に開催されたコンペティション、つまりコロナ禍というタイミングに制作・発表された作品というのは興味深い。
未曾有の危機にさらされた個人の感情・感覚がアート作品として都市に溶け込む。

受賞6作品は、どれもそういったリアリティのある感性で表現されていると感じた。
一つ一つ、思うままにレビューしてみる。

『西へ 行くこと / 戻ること』 - 山本千愛

1995年生まれの作家。遥か昔にこの地から長州へ歩いた人々に倣い、12フィートの木材を持って山口県内を320km歩いた記録を作品で残した。流れ続けるドキュメンタリーを覆うように囲った外面には道中の日記のようなメモが所狭しと貼られている。床に置かれた靴とリュックサックからは、この創作のような話が現実であることをありありと感じさせた。

『strip of memory』 - 船越菫

記憶という、誰もが持っているものについて。実体のないそれは時に曖昧で、記憶を持っている本人さえも「正確さ」を失っていることは重ねた年月が長ければ長いほど起こりうる。そんな普遍的な感覚を、独自の柔らかな筆致で描き構成した。ゆらめく光の奥には古い写真のような、作者の遠い記憶が思い起こされているよう。そこに自分自身の記憶を重ねてみる。あの日あの頃のぼんやりとした輪郭で、記憶の帯は現在まで至る。

『seek』 - 和田裕美子

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ヘアエクステを編んで文様を作るという、斬新な発想と緻密な技巧。光に群がる虫という表現も秀逸だ。理想の何かに憧れて、今の自分とは違う何かになりたくて。光明に引き寄せられるのは、どうやら昆虫だけではないらしい。

『一方で外から』 - 川田知志

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トタン屋根に描かれた絵図からは、例えるなら家の窓から覗き見る生活 / 壁に阻まれて見ることのできない秘匿、その両方を感じさせた。「stay home」が叫ばれるようになり、今までは知ることのなかった誰かの家の中が筒抜けになったり。何気ない報道やSNSで思いがけず「家の中の姿」を知ってしまう、世界と視線の変遷を思わずにはいられなかった。

『Still Life?』 - 佐野魁

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未知の病が伝染する恐ろしさに怯える世界。今まで暮らしてきた「家」のような、安泰でありふれた日常は変わり果ててしまった。当たり前とはこんなに脆いものだったのか。もっと踏み込んで言及するなら、家庭内感染という脅威はもはや家族が集う居間さえも安全地帯ではない、そんな不穏さが感じられる。人で賑わうリビング・ルームが"静物画(Still Life)"になってしまうのか。それでも私たちは生きているし、生きていたいと願う、そういった切実さも読み取れる。

『strings』 - 坂本洋一

2本の紐が絶えず上下に揺れ動く。ありふれた地下街にはないはずの光景が横目に映る奇妙さ。人の手で制御可能な電気モーターと、コントロールできない不安定で無規則な紐の動き。不思議とそこには、水面のような自然景。人力が及ばない自然界の脅威が、繊細な感覚によって顕現していた。

おわりに

ストリートを通過する道すがら。現代の、特に比較的若いアーティストの作品をじっくり見ることができたのはおもしろかった。

東京ミッドタウンでは、今年も同企画を開催する。デザインコンペのテーマは『THE NEXT WELLBEING』。これからの時代をどう生きていくか、どう生きていこうか。瑞々しい感性で構築した力作が待たれる。

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▼デザインコンペ
応募期間:2021年6月18日(金)〜7月19日(月)
▼アートコンペ
応募期間:2021年5月10日(月)〜5月31日(月)
※詳細は公式ホームページをご参照ください。

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