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対話するリーダーシップ#10 エキスパートはそこに

あるグローバル企業のアジア太平洋地域のリーダーシッププログラムを担当することにあたって学んでいることをお伝えしてみたいと思います。プログラムでは、深く考え、対話を通じて参加者の個人、組織の変容を促す中で、各地域の伝統的な内省的な考え方にも触れていきます。私自身、人としてのあり方を探るような対話のプラットフォームを作っていくことに興味があり、セキュラーな仏教を通じて学んできたマインドフルネス、瞑想的なあり方という観点からも関わっていくことになりました。学んだこと、問いをここで共有することでビジネスパーソンの方々のご参考になったらと思っています。

今回のテーマは「エキスパートはそこに」です。

今回取り上げるのは、先週に引き続き、Nancy Klineさんの「考える環境」(Thinking Environment©︎ )で、その背景となる考え方についてです。

Nancyさんは、リーダーシップ育成のコンサルタント、著述家、パブリック・スピーカーです。1984年から「考える環境」を教え始められています。Nancyさんの考え方です。

先週、考える環境を創ることが、リーダーシップのまず最初の責任であるというNancyさんの考え方を紹介しました。

考える環境を創るということは、リーダーシップの最初の責任である。
Creating a Thinking Environment therefore, is the first responsibility of leadership.
Nancy Kline (渡部訳)


考えることが、その先の行動の質を決めるということに繋がるということに、Nancyさんの考え方は展開していきます。つい見落としがちな環境づくり、この考え方の背景を探ってみたいと思います。

リーダーが環境を用意するというと、何らかの業務で、その方の役割を定義し、関係部署も含めてコミュニケーションする、予算をつける、一緒に仕事をするメンバーをつける・・・といったようなことがイメージとして湧いてきます。Nancyさんが考える環境を創ると言われた背景は、何があるのでしょうか。

Nancyさんは、人間は性善説であるというポジティブな考え方を選択しており、さらに、個人それぞれが自分の業務を最もよく知っているエキスパートであり、何らかの問題がある時に、その状況を最もよく理解した対応策を生み出せるのはその人にかかっていると考えています。つまり、その担当者が解決策を考えるための環境さえ整えば、最も良い解決策、あるいは改善策が生まれるという考え方に基づいているのです。

このシリーズでも紹介したオットー・シャーマーさんのU理論も、組織に課題があるときに、外部の人が状況を聞いて考えた解決策ではなく、内部に存在して感じること(Presencing)から初めて有効な解決策が生まれると考えられています。これはNancyさんの考え方とも通じると思います。誰か外からエキスパートを連れてくるというのではなく、実際の担当者、内部の人が考えることを促していくということです。つまり、上長と担当者というの関係であれば、上司は担当者を信じ、担当者が考えることを促し、伴走するとも言い換えられるのだと思います。そして何より、上司という立場であっても、担当者をエキスパートのように尊重する、考える上ではパートナーとなることを自覚することが、大切なのだと思います。

任せるというと、エンパワーメントという言葉もあります。任せると言いつつ、つい口を出してしまう・・・特に自分に似た経験がある場ではつい指示を出してしまいそうになる、リーダーにとっては永遠のテーマのようにも感じます。ただ任せるだけではない、考える環境を創るという考え方を持ち込むことで、本当に信じて任せることができるようになる、一つのアプローチだと思いました。

考える環境に必要な10の要素です。

注意を傾ける Attention
公平に Equality
焦らずに   Ease
感謝を伝える Appreciation
励ましを伝える Encouragement
多様性/違いの受容 Diversity/Difference
適切な情報 Information
掘り下げる質問 Incisive question
場の安心感 Place
感情への配慮 Feelings
Nancy Kline,  “Thinking Environment©︎”
本日の問い
ご自身の職場で・・・
担当者にただ任せる、様子を見るだけになっていないでしょうか。
もし、問題がありそうな時に、担当者が考える環境を創り出せているでしょうか。

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