見出し画像

Netflixのミュージカル映画『The Prom』に号泣した

こんにちは!
今年は1週間に1投稿を目指して頑張っていきたいるぱぱです。

今回の記事ではNetflixで配信中のミュージカル映画『The Prom』について取り上げます。自分としても、とても挑戦した内容になっています。あくまで一個人の考察であること、批判的な意見があるだろうことを踏まえ書きます。マイノリティの課題について考証が至らない点もあるかと思いますが、その際にはご指摘いただき学びの機会とできれば幸いです。

『The Prom』
Netflixで配信されているミュージカル映画。同名のブロードウェイミュージカルが原作。監督ライアン・マーフィー。米国インディアナ州の高校生エマ(ジョー・エレン・ペルマン)がプロムに同性の恋人を連れて行こうとしたことにPTAが反対、プロムの開催を取りやめさせようとする。それを聞きつけた落ちぶれたブロードウェイ女優ディーディー・アレン(メリル・ストリープ)が役者仲間のバリー(ジェームズ・コーデン)、アンジー(ニコール・キッドマン)、トレント(アンドリュー・ラネルズ)らを引き連れて「売名行為」のため学校に乗り込んでいくというストーリー。

*プロムとは... アメリカの高校に存在する卒業ダンスパーティー。恋人や仲の良い親友を誘って参加する場合が多い。

*以下ネタバレ・敬称略含む

ーーーーー

ミセス・グリーンはなぜ

今回の記事で考察していきたいこと。それは、エマの恋人であるアリッサの母親ミセス・グリーンと彼女のバックグラウンドについて。

まず、アリッサとミセス・グリーンって誰?というところから。(映画をすでに見た方はここ飛ばしてください!)

アリッサは、主人公エマと同じ学校に通うエマの恋人。チアリーディング部に所属し、成績はオールAという、スクールカーストの頂点にいるような高校生です。自身がレズビアンであることは周囲に打ち明けておらず、プロムにエマと参加することで母親に打ち明けようと計画中。

ミセス・グリーンはそのアリッサの母親。PTA会長でプロム中止運動の先頭に立っている人物でもあり、物語の中でのザ・悪役。彼女はPTAの仲間らと、とても強硬に、そしてかなり意地の悪い方法でプロムの中止、同性カップルのプロムへの参加禁止のために動きます。では、なぜ彼女はプロムに同性のカップルが参加することに強く反対し続けたのでしょうか。

「完璧」なアリッサ

まずはアリッサについて考察していきたいと思います。アリッサは成績優秀、部活動でも大活躍の優等生。課外活動ではディベート部に参加し、夏には教会のバイブルスクールに参加する。そんな「完璧」な高校生です。

そうなったのはアリッサの意思であるというよりも、母親であるミセス・グリーンから「完璧」であることを求められているからというところが大きいと思います。実際、楽曲"Alyssa Greene"でもそのように歌われています。

(引用元:Netflix Film Club 公式YouTubeより)

"Queer Women of Color"であること

では、なぜミセス・グリーンは娘に「完璧」であることを求め続けたのか。

楽曲"Alyssa Greene"で、アリッサは自分が「完璧」でいれば、いなくなった父親、すなわちミセス・グリーンの夫である人物が帰ってくるとミセス・グリーンが信じていると歌っています。しかし私はそれだけでは無いと思います。

この映画でアリッサとミセス・グリーンにキャスティングされたアリアナ・デボーズとケリー・ワシントンは、2人とも"Black Women"(黒人女性)であることを自身のアイデンティティの一部として語っています。(参考文献1、2)

また、インタビューでアリアナ・デボーズは、監督ライアン・マーフィーがアリアナ自身が"young queer women of color"(若い性的マイノリティの有色人種の女性)であることを意識した上でキャスティングをしたという旨の発言をしています。(参考文献3)これらから、アリッサとミセス・グリーンは、(それぞれが自身のアイデンティティをどのように感じているかはわかりませんが少なくとも)周囲から黒人女性、あるいは有色人種の女性と見られていることを前提として物語が進められていると考えられます。

(Broadway版『The Prom』では、全ての役をプロダクションによって様々なバックグラウンドの俳優・女優が演じていますので、人種やジェンダーに関して一貫したキャスティングの要件はないようです。今回のキャスティングはあくまでNetflix/監督ライアン・マーフィーの演出であると考えられます。)

アメリカ合衆国という国で、(そして残念ながら多くの他の国でも)黒人女性含む有色人種の女性(と社会からそう捉えられている方たち)が生きていくのは容易ではありません。過去の人種差別的な政策や世代間で続く貧困の連鎖、女性・有色人種の高等教育進学率の低さなど様々な要因から、黒人女性の賃金の低さや貧困などはいまだ解決されていない課題です。(参考文献4)
*黒人差別やフェミニズムに関して、以下のサイトやNetflixのドキュメンタリー『13th』(Youtubeで無料公開中)もここに紹介します。

ミセス・グリーンは黒人であり女性であり、そしてシングルマザーでもある。その上で、アリッサを「完璧」に育て上げ、PTA会長になるという一種の社会的成功を収めるまでには、たくさんの努力と苦労があったと思います。

社会におけるマイノリティとして生きていく苦労を経験したからこそ、同じく黒人女性である(と周囲からは捉えられる)、さらには性的マイノリティであるアリッサにはなるべく苦労しない道を歩んでほしかった。(自分の子どものこと、ミセス・グリーンはアリッサのアイデンティティになんとなく気づいていた上で気づかないふりをしていたのでは無いかと私は思います。)

だから、成績や課外活動において優秀で、いい大学に進学し、いい就職ができるような「完璧」な高校生にアリッサになって欲しかったのだと思います。

そして、性的マイノリティであるとアリッサが公言することでアリッサが経験するであろう更なる困難を避けてほしかった。そのためにプロムへの同性カップルの参加を禁止しようと働きかけたとも解釈できるのではないでしょうか。

全てにインクルーシブな『The Prom』

性的マイノリティであること、人種や男女間の格差。様々な理由で、この社会には生きづらさを感じる人がいる。Netflix版『The Prom』はその多層性・多面性の一片を見せてくれたと思います。

そして映画のラストシーン、エマが企画した”誰でも大歓迎”の”インクルーシブなプロム”で、自身のアイデンティティを打ち明けたアリッサにミセス・グリーンはこう話します。

「私たちはたくさん話さなきゃいけないことがあるわ。 でも私がここへ来たのは、私にとって何よりも大事なことが一つだけあるから。あなたは私の娘で、あなたを初めて見つめた、その瞬間からずっとあなたを愛している。それは絶対に変わらない。」

その言葉に、私は号泣しました。

ーーーーー

このnoteを読んで興味を持ってくださった方は、ぜひNetflix版『The Prom』を見ていただきたいなと思います。ストーリーだけでなく、豪華なキャスト陣と素晴らしい音楽で楽しめること間違いなしです!

今年の3~5月には地球ゴージャスプロデュースの日本での舞台公演も予定されています。こちらも楽しみです!

(引用元:Broadway Musical『The PROM』Produced by 地球ゴージャス公式サイトより)


参考文献:
1. Simon Button, "The star of Donna Summer’s musical on speaking up for queer women of colour," Gay Times, accessed January 15, 2021.
2. "Actress Kerry Washington talks racial identity and creating a global conversation with 'American Son' on Netflix," NBC News, November 6, 2019.
3. "The Prom: Kerry Washington and Ariana DeBose on Filming the Huge Finale," Collider Interviews, December 12, 2020, video, 7:40. 
4. Asha DuMonthier, Chandra Childers, and Jessica Milli, "The Status of Black Women in the United States," Institute for Women’s Policy Research, accessed January 15, 2021. 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?