見出し画像

朝のコーヒータイム


#日々の大切な習慣

「コーヒーできたよー」

夫の声で目が覚める。二階からキッチンへ降りる途中から、すでに香ばしいコーヒーの香りが漂ってくる。
おはよう、と声をかけて、たわいもない話をしながら、ふたりで静かにコーヒーを飲む。

十年以上続いたそんな朝のコーヒータイムは、ある日突然、終わってしまった。
一年前のよく晴れた日曜日、いつものようにふたりでコーヒーを飲んだあと、夫はいなくなってしまった。大動脈瘤破裂で、あっという間の出来事だった。

その日から私はコーヒーを飲むのをやめてしまった。
あの香り、あの味を想像すると、夫を思い出して涙がこぼれて止まらなくなってしまうから。

どれくらいコーヒーを飲まない朝が続いただろう。

ある時、ふと、コーヒーが飲みたくなって、夫の真似をして自分でいれてみた。あの人が好きだったブラックコーヒーを二人分いれて、写真の前に置いてみた。

「コーヒー、久しぶりだね。」

写真に話しかけながら、ふたりで静かにコーヒーを飲んだ。

そうだった。朝はこんな風に始まるんだった。
コーヒーの香りを嗅いでリラックスして、夫と二言三言ことばを交わし、寝ぼけた頭を起こしながら今日することを考える。飲み終わったらそれぞれ朝の準備に取りかかる。
一日がはじまる前のコーヒータイム。
この時間があるから、前の日に嫌なことがあっても、気持ちを切り替えることができていたのかもしれない。

そして私は毎朝、自分でコーヒーをいれるようになった。夫と二人分、毎朝欠かさず。コーヒを飲み終わったら、今日も一日がんばろうと前を向けるような気がして。

コーヒーカップを手にしながら、私にこんな朝の習慣を残してくれた夫に「ありがとう」と声をかける。

そしてまた、新しい一日が始まる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?