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名作映画を見直す【10】駅馬車

1939年作品。ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演。西部劇の代名詞と言える映画である。久しぶりに見た。しかし、襲撃シーンはよく覚えていたが、最後の結末はよく覚えていなかった。

一台の馬車に乗る、様々な人間模様を描きながら、ちゃんとヒーローを描くロードムービーである。この当時にしたら、最高のアクション映画だったのだろう。有名な音楽も含め、映画の構成自体は全く古くない。そして、主演、ジョン・ウェインは一際目立つヒーローとして成立している。

日本の公開は1940年である。この映画を見ても、アメリカと戦争して勝てるとは思えなかったと思うのだが、日本人の論評はどうだったのだろうか?

この駅馬車にジェロニモが襲いかかるシーンは、実に勢いがある構成になっている。最初の方に穴を掘ってカメラを仕込んだと思われる馬の下から煽るシーンがあるが、結構な冒険だったのだろう。一箇所のみなので、多分結構頑張ったのだと思う。ロングのシーンは軽快だし、移動撮影はどう行ったのか興味はある。とはいえ、俳優をアップにするシーンは、ほぼスタジオでの、スクリーンプロセスである。そんな中に、ジョン・ウェインが自ら身体を張った感じのシーンが挿入されている。結構、そういう組み立てが凝っていて、その結果が当時はかなりの評価を受けたのだろうと思う。娯楽作品としてよくできている。

多分、黒澤明などは、この辺の西部劇をヒントに時代劇にしてブローアップしていったのだろう。その結果が「七人の侍」に至る気がする。そういう、アメリカ映画なんかよりも更に大きなものを作りたいという意志が多分戦前からあったはずである。その基本がこのようなものだとして観ると実に興味深い。

ジョン・ウェインが馬車の中の娼婦に恋をする話は、付け足しみたいなものだが、こういう話を入れることで、女性にも愛されるヒーロー像を狙ったということだろうか?途中の出産のシーンもそうであると思う。そう、家族で見ても、様々な話題が話せる映画である。そういう娯楽性をこの当時これだけ詰め込めたのは、ジョン・フォード監督の力量なのだろう。

ラスト、決闘の瞬間を捉えずに、打たれた相手が、店に戻って倒れるというのも、この後よく使われるシーンであるし、こういうのは日本の時代劇でもよく使われている。そういう活劇の基本みたいなものが詰まっているのは、興味深い。

ラスト、主人公を逮捕しようとしていた保安官は、彼と彼が求婚した娼婦を一緒にしてやるべく、馬車に乗せて見送る。「こういう粋なラストだったんですね」と納得しながらエンドマーク。

この時代の映画はシンプルな話が多い。それをどれだけ娯楽として楽しめるようにするかという技があちこちに見える。こういう映画が、今、規制が多い中で、何が撮れるか?というヒントになるのは、言うまでもない。映画自体も、もう一度、原点回帰すべきだと考えた一作であった。


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