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「あの頃、文芸坐で」【58】リアルタイムで観ていた松田優作「ヨコハマBJブルース」「蘇る金狼」

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文芸坐.001

1981年9月3日。この日は、「蘇る金狼」と「ヨコハマBJブルース」の二本立てを観にいく。「ヨコハマ〜」がメインで観たかったと思う。「蘇る〜」は2回目。映画の出来はともかくも、角川映画は何度観ても色々と面白いというのは、この当時から思っていた。

この時期の成人映画以外の鑑賞履歴をたどると、8月25日に、テアトル新宿で「殺しのドレス」と「9時から5時まで」の二本立てを観に行っている。この劇場、今は、邦画中心のミニシアターとして名高い感じだが、当時は洋画を流す名画座だった。場所は今と同じ。内装はもっと明るく、椅子は当時のお尻が痛くなるやつだったという点では、随分と雰囲気は違かったという気がする。ロビーでタバコも吸えたしね。映画の方は、「殺しのドレス」はお気に入りだった記憶はあるのだが、当時の資料を見ると、「9時から〜」の方が私の評価が高い。スピード感がある映画だったからかな?でも、「殺しの〜」を観てからブライアン・デ・パルマの映画は注目して見るようになったと思う。まあ、私は正攻法でないものを好きだという事だ。

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コラムから。値上げで文芸地下も450円になる話。その価格でも二本立てだから、今のストリーミングレンタルと同じくらいか、安いかもしれない。私は友の会の会員だったので、この頃はずっと300円でここに出入りしていた。こういう学生のための安いエンタメっていうのがあったのは、本当に幸せだったと思う。今、シネコンで高校生でも1000円ですものね。やはり、もう一度、映画料金の見直しと、映画館でビデオが発売されると同時に映画館で500円程度で観られるような仕組みを作って欲しいものであります。

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プログラムは、文芸坐は西部劇特集の後、「グリース」と「サタデー・ナイト・フィーバー」の二本立て。こんな映画が旬だった時代です。若者たちはなんのために踊っていたのか?私は同じ時代にいて全くわからなかった。そしてウッディ・アレン作品二本立て。「アニー・ホール」でアカデミー賞を獲って以降、彼の作品はコンスタントに上映されるようになった。そんな中で、日本のファンもつかんでいったような気はするが、人を選ぶ映画には変わりなかった。

文芸地下は、「なんとなくクリスタル」と「スローなブギにしてくれ」の二本立て。1980年初頭の青春像を描いたものであるが、この2本、今の若者が観たらどう感じるのでしょうね。すごく興味がある。その後に戦争映画の二本立て、そして自主映画的な二本立てと、このカオス状態が文芸地下の魅力でしたね。オールナイト「日本映画監督大事典」は滝沢英輔、武田一成、千葉泰樹と続く。今の若い人にはなかなか名前が通じない監督たちだが、みんな日本映画史に必要な人たちだ。こういう特集ができた時代が懐かしい。

ル・ピリエでは石黒ケイのコンサートがあったんですね。彼女に興味を持ったのは、この一年後映画「黒い下着の女」の主題歌になった「STORY」を聴いた後だった…。

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そしてこの日は、「ヨコハマBJブルース」が観たくて、スクリーンに向かったはずだ。松田優作を工藤栄一監督がどう撮るのか興味があった。そして、脚本は丸山昇一。元刑事でシンガーの私立探偵の話。歌を歌ってるシーンの方が印象に残っている。あまり内容は覚えていないが、期待したほど面白くなかった印象だ。そして、上の写真にある。裕也さんと一緒に歩きながらポップコーンを食べるシーンは印象深い。キャストを今見ると、内田裕也、蟹江敬三、山田辰夫、安岡力也と鬼籍に入った人が多い。彼らがいなかったらこの映画は成立しなかった。そう考えると、映画って、その時代にどういう役者がいたかで決まる感じである。この日、観るのが二度目の「蘇る金狼」にしても、角川映画に必要な役者たちがいて成立している。

この時代、角川大作と低予算アクションの極端な場所で松田優作は活躍して、最後はハリウッドで死ぬという、今ではありえないだろう役者人生を送った。そして、彼を知らない若者でも、愛好家が多い。昨年亡くなった、萩原健一は、自伝の中で、優作のことを「俺のモノマネ」と表現している。太陽にほえろでマカロニに引き継いでジーパンを演じた時から、そういう部分はないとはいえないが、ショーケンは、歌にしろ映画にしろ、ドラマにしろ、最初からいた場所が違った気がする。そのプライドは大きかっただろう。そう考えると、私もショーケンを支持する中では、松田優作は微妙な存在である。

今後、優作がどう映画史の中で語られ続けるかは知らないが、彼が生きた短い時代の中でリアルで活躍を観ていたことは私にとっては幸せだったと思う。私的には、映画の中の彼はショーケンとは違う光を確実に放っていた。「ヨコハマBJブルース」という映画は、内容よりもテイストだけが私の脳裏に焼き付いている一作だ。


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