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「カセットテープ・ダイアリーズ」80年代の青春映画そのもの。現代に爽快感を与える実話映画

ブルース・スプリングスティーンの曲が使われているという以外は、ほとんど情報を入れずに見た。だから、これが実話だったということも、クレジットタイトルの前に本人の写真が出てきて知る。この脚本も本人が書いているということは、まとまりもいいはずである。時は1987年、日本ではちょうどバブル景気の頃の話である。中で、大きな携帯電話が出てくるのは、とても時代を表している感じ。監督も私と同じ年齢の女性。まあ、80年代の雰囲気を出せるのは知っている人だよね!という感じの爽快な映画である。

イギリスの人種差別状況はよくわからないが、パキスタンの移民となるとかなり異質だろうし、ここで出てくるようなヘイトは多分今もなお続く感じなのだろう。そんな、アウェイの中で、同じ移民の友から、ブルース・スプリングスティーンのカセットを借りた主人公は、その歌に、ビビビと感じてしまう。詩を書く彼は、彼の曲の詞に魅せられ、徐々に自分の意思を正直に発言するようになる。そのサポートをする担当教師やガールフレンドになるクラスメイトの描き方もなかなかイカしている。

そう、イカしていると感じる80年代の若者の疾走感というか明るさみたいなものがあふれているのだ。ミュージカルのように踊るシーンや、主人公が走るシーンが、当時の青春の表現方法なのだと思う。久しぶりにこういうカッティングを観た感じがしたのだ。ただただ懐かしい。

そんな、考えたら恥ずかしいような青春シーンに、スプリングスティーンの楽曲がうまくはまり込んで、こちらも観ながらロックできるような感じになっているのはやはり嬉しい限り。

スプリングスティーンが理解できない隣に住む友人と仲違いをするようなシーンもあるし、最後は、ずーっと理解し会えなかった親子が理解しあうシーンでまとめるのも、現代だと恥ずかしいが、舞台が1987年ならありだろうと感じる。そう、日本のこの頃のアイドル映画やCMシーンにも似たようなものが多くあった気はする。

しかし、「カセットテープ・ダイアリー」という邦題はいかがなものか?原題は「Blinded By The Light」スプリングスティーンの曲の題名から取っている。これでいいとは思うが、日本人にわかりにくいということで、この題名になったのだろう。

確かに主人公が持っているWALKMANは印象的だし、カセットテープが青春の1ページを作った時代だ。1979年に登場したこのポータブルステレオは、1987年には、若者の必須アイテムと言ってもいい状況だった。アナログレコードからカセットに録音、同じアルバムをカセットで何回も聞き返した時代だ。だから、この主人公が一人のアーティストにハマるように、皆が俺はこの歌手のこの音楽性が好きだ!という言い合いも多かった時代なのだ。本当に、ストリーミングで何万曲の中から選んで聴いたり、シャッフルして聴いたりできる時代から考えれば、音楽はとても大切に扱われた。そう、まさにこの映画はカセットの時代を描いている。

そして、彼が日記を書いているということから、作家になる道を進むストーリーなので「カセットテープ・ダイアリー」とつけたのだろう。まあ、映画の題名としては、センスなさすぎる感じがする。カセットテープの話ではあるが、そんな野暮ったい映画ではないからだ。

主演のヴィヴェイク・カルラは好演。鬱屈した青年が、殻を破っていく様をなかなか素敵に演じている。そして、恋人役のネル・ウィリアムズもすごくイギリスっぽい女の子なのがいい。あと、彼の才能を延ばして、方向性をつけてあげる教師役のヘイリー・アトウェルも格好いい先生というイメージがとても良かった。

特に、新しい青春ドラマというわけではない。ただ、私たち世代にはとても懐かしい雰囲気を脳裏に蘇らせるような感じは心地よかった。世界各地でヘイト運動が盛んな今、この映画を観て勇気づけられる人も多いだろう。とにかく、2020年、本当に先が読めない状況だが、こういう映画を観て、立ち止まって自分の方向性を決めてもいいのでは?多くの若者に観ていただきたい一本です。



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