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「長崎の郵便配達」ヨーロッパの軍人の視点から考える長崎の被曝の現実。静かに、重厚に…。

この映画のモチーフになった小説「POSTMAN OF NAGASAKI」の著者はピーター・タウンゼンド氏。戦時中、英空軍のパイロットとして英雄となり、退官後はイギリス王室に仕え、マーガレット王女と恋に落ちるも周囲の猛反対で破局。この話は、映画『ローマの休日』のモチーフになったともいわれる。そう、聞いただけで、すごく興味が湧いて見にいったわけだ。

映画は、その娘が、父がたどった長崎の道を、残念ながら亡くなってしまった、被爆者で郵便局員だった、谷口スミテルさんとの交流の地を訪問し、長崎で確かに起こった一瞬の出来事について考えるドキュメントである

今年で、広島、長崎に原爆が落とされ、日本が敗戦してから77年になる。奇しくもこれを書いている今日は長崎に原爆が落とされた日。私は昨日、この映画を観た。そして、考えたこと。日本において、原爆の日の思いが年々風化している事実は確実にある。それはそうだ、私が子供の頃は、戦争に対し証言する人々が多くいた。それでも、その不遇の過去に対して語らないものも多かったことは確かだ。私も、短時間だが戦場に駆り出された父に、直接的に何も聞くことはできなかった。そう、日本という国は明らかに1945年8
月15日を境に多くの過去を捨ててきたのだ。そして、さまざまな精神性を失いながら、それでいて、さまざまな反省もちゃんと行わないままにここにいる。日常でも、他人に対するいじめ、パワハラなどをちゃんと謝れないようになったのは、この戦争の罪に対する曖昧性があるからともいえるのかもしれない。

だから、若い子たちにも、戦争の悲劇、原爆の悲劇はちゃんと伝えられていないのが現実だ。だいたい、ここにきて、戦争がちゃんとできる国にして、国民主権も、基本的人権の尊重も奪うような憲法改悪を進める集団がなぜ存在するのか?私には全く理解できない。

そんな、基本的な私の戦争感の中でこの映画を観させていただいた。そして、ある意味、戦闘機乗りの英雄、いわゆる「トップガンマーヴェリック」の主人公のような人が、長崎の地、原爆の地、被爆者に興味を持ったのはなぜなのだろうか?という命題に映画を見ながらずーっと考えていた。多分、その無差別殺人を起こした戦争に加担していた自分への反省。そして、もしかしたら原爆の加害者になっていたという痛みなのかもしれない。そう、そこにあまり偽善的なものは見えてこない。そうであれば、自分はインタビューしたものを残したり、小説にしたりはしないだろう。作者の彼は、多分自分の仕事、過去というものを考えながら、反戦という事象を探っていたのだろう。世界が平和になるための必要性、その意味合いなどを

そんな、父がたどった長崎の道程をその娘と家族がたどるドキュメント。それは、とても、静かに長崎であったことを客観的な衝撃として描いている。過去のインタビューのテープがなければ、さまざまに落ち抜けたピースが多いのだが、残されたテープ、フィルムの衝撃はしっかり伝わる。そう、ここでの、もう一人の主人公、谷口氏自身を撮ったフィルムはそれだけでかなりの衝撃を受ける。それを見る家族たちの表情だけで、歴史の辛さというか、現実を77年後の今に持ってくる衝撃はすごい。

過去の父の感じたものを、娘がそこにシンクロして受け継ごうとする。本当は、これは、日本人の多くの人が自ら行わなくてはいけない行為だ。本当の太平洋戦争の悲惨さを明確に伝えなければ、また戦争は始まると思う。今だって、ロシアはなぜに人を殺めなくてはいけないのか?という疑問がある。私は、昔から人が何故戦争をしたがるのかわからない。何故に戦闘機を買って、軍事力を保たねばいけないのかわからない。そう、77年間、戦争を自国に持ち込まなかった憲法を改正する意味もわからない。推進派に言わせれば、私は愚鈍な馬鹿かもしれない。だが、馬鹿が増えないとまた戦争が起こるのだ。

ここにきて、ヨーロッパの人の姿に、反戦の大きな意味を考えさせられるとは思わなかった。もちろん、監督の川瀬美香さんがいて、この映画はできたのだろうし、監督が求めるものがヨーロッパにあったという奇跡がこの映画になったのだろう。

この主人公の娘さんは、演出家で母国でこの原爆の話を舞台にしている。そのシーンを見て、昔の日本の子供たちもこういう演劇や話を通じて戦争について語っていたよなと思い出したりもした。

映画でなくなる前の谷口さんが「NO MORE HIROSHIMA」「NO MORE NAGASAKI」「NO MORE HIBAKUSHA」「NO MORE WAR」と叫ぶ!この声を聞くためだけのために、この映画は意味をもつ。

77年前の今日も、暑い日だったのだろう。そこで光った閃光は、歴史を変え、日常の楽しい日々を消し去った。そのことを忘れてはならない。

地味な映画だが、多くの人に見ていただき、いろいろ考えていただきたい作品だった。そして、日本は、この題材に関しては映画を作り続けなくてはいけないと思う。作ることが、皆の関心の風化を止めることになるのは確かだ。

映画を見終わった後に、大きな鎮魂の思いを感じさせられた。そう、人間は皆、幸せになるために生まれてくると私は思う。その自由を人の手で奪うことは、絶対にやってはならないことである。


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