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「アナウンサーたちの戦争」いまだに放送は悪魔の拡声器になったままなのではないか?

まずは、今年もNHKは終戦の日を迎える中で、戦争関連のドラマを作ってくれたこと、感謝いたします。今日は、その終戦の日。昔に比べたら、戦争を扱う番組が少なくなったことは確かだ。その事実を体現した者たちが年々減っていく中で、残された我々がどこまでその歴史の愚かさを語り継げるか?というところだとは思うが、今の政府が何も意見をきかずに平気で軍備増強などと称えるのを見ると、時代は確かに昨年タモリ氏が言っていたように新しい戦前になっているのかもしれない。そんな中だからこそこういうドラマは作る意味がある。そして、多くの人に見ていただき、戦争について語り尽くしてほしい。

脚本は倉光泰子。「PICU」のような社会派ドラマはうまい脚本家さんであり、ここでも戦時中のNHKの空気をなかなかうまくまとめていた。脚本の中に戦争の中での人間のいろんな葛藤が感じられたことはとても意味がある。そして、ラスト、戦後になったばかりの東京で、主人公の森田剛の前で、少年が「大本営発表」とつぶやいて暗転。その言葉を印象的に投げかける。そう、「大本営発表」といえば、それが国としてのデフォルトな報道だったということだが、その意識は今の報道も同じである。国は報道に口を出して、放送で国民を操作する愚行を今もやっている。戦後、「そんなことはもうやめよう」と皆が思った愚行が今も行われている。このドラマも、そこの部分にまで踏み込んでほしかったことが本音だが、まあ、それはお許しが出ないということでもあるだろう。「今の報道は正しい」という論理の中でしかこの素材を語れないのは、力弱くは感じる。

キャストの役名は、戦時中にNHKに在籍したアナウンサーたちの実名になっている。少ないだろう資料をうまく繋いでいるし、彼ら一人一人の個性をしっかり表現し描いていることでドラマはかなり有機的にできていた。そして、開戦、終戦に立ち会ったアナウンサー和田信賢を演じるのは森田剛。昨今はこういう少し薄汚い風体の役が多いが、それが彼の演技を際立たせてる感じもする。役に入り切る演技というやつだろうが、それは、視聴者をその時代にタイムスリップさせる雰囲気を持って演じられていることは好感が持てる。他の役者たちも、このドラマの意味合いがわかってるのだろう。皆、この素材のために色々考えて演じてるのがわかる。

しかし、この主人公、東京オリンピックの実況ができずに、開戦の実況に立ち会い、学徒出陣の実況も担当するが、体調を壊し後輩に譲る。そして、終戦の玉音放送を担当するという、なんと数奇な運命のアナウンサーであったことか。そして、当時はニュースは来た原稿を読むだけで仕事は良かったものの、日頃から街で実況の練習をし、自分の言葉を鍛えていたということ。今もこういうアナウンサー研修は行われているのだろうが、昨今の実況を聞くと歴史に残るようなものはもうない。それは、さまざまなコンテンツが薄っぺらくなっているのと同じである。そんな彼のアナウンサーという仕事に向けられた情熱はよく描かれていた。

愛宕山に各国の放送を傍受し戦争のための情報を集めた基地があったというのは知らなかった。このくらいの人が戦争の実態を知っていたなら、そこから日本の戦況は少なからず漏れていたとは思える。そして、他の日本人でも通信機器に強いものは、外国の放送から日本の実態がわかっていたのだろう。

だが、その実態からはかけ離れた放送が行われていたわけである。特にミッドウェイ海戦以降はもはや、日本の報道はほぼ嘘になっていったということだ。そんな中で、「アッツ島玉砕」というニュースは何故に流されたのか?この辺の周辺を知りたくなったりもした。

学徒出陣の部分は、なかなか印象的に差し込まれていた。早稲田の野球部の出陣という話は、今の若者にもわかりやすいだろう。だが、何故に彼らが特攻せねばならなかったのかは、わからないが・・。私もいまだに理解不能だし、それを美化して語るものたちの気がしれない。そういう意味では、特に思いを入れることのない、なかなかうまい挿入の仕方だったと言っていい。

海外に多くのアナウンサーが派遣され謀略放送を行った部分も、あまり資料が残っていないのではないか。この周辺をドラマにしたのもほぼ初めてと感じる。ただ、NHKの話だけに縛ったせいだろう。東京ローズの話などは出てこなかった。その辺りも含め、日本がどのように電波戦を行い、海外も日本に対しどんな放送をしたのかというようなところを膨らませてドラマか映画にして見せてほしい気もする。東京ローズ役を田中みな実とかでどうだろうか?

全体的にまとまりの良いドラマで、役者たちの演技も的確だったと思う。東京大空襲で亡くなった藤原さくらのモデルは、「本日も晴天なり」でやはり同じように散った水島美奈子のやった役と同じなのだろうか?そう、あのドラマでも戦時中の放送局が描かれていたが、戦争経験者の小山内美江子が書いたものは「朝ドラ」のせいでもあっただろうが、意外に柔らかい印象の描き方だった。だが、今回のシナリオはその実態を知らなかった人が書いただけに緊張感があるものになったとも言えるのだろう。そう、戦争を経験した人は語らないまま死んだ人も多い。そのくらい戦争は醜いものだということなのだ。だからこそ、経験していない私たちが、その鬼畜な現場を想像し、思いをもっと膨らませて反戦の祈りを込めてこういうドラマを作り続けることが大切なのだろうと思った次第である。

あと、記録映像がカラー化して使われる場面があったが、これをやった方がリアルさを感じる。というか、記録に残るモノクロ映像では、やはり過去のことという印象が強いからだ。今後はこういう感じに映像が使われていくことで、戦争の受け止め方も変わっていくかもしれない。技術の発展は人の心根も変えられるのだ。

これを書いている、今日は8月15日、世界のすべてから戦争がなくなることを祈念いたします。



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