他人事とは思えない冤罪物語「リチャード・ジュエル」。マスコミと警察の信じられない軽さの話

現在89歳のクリント・イーストウッド監督作品。本当に年齢を全く感じさせないこの演出力はなんなのだろうか?内容は、実話を基にした冤罪話。それぞれに配置された役者たちが皆、ちゃんと息をしている感じでとても良い。日本人が見ても、他人ごとではない、警察とマスコミの思い上がりというものがうまく表現されていると思う。

主演のポール・ウォルター・ハウザーは、国に忠誠を誓うものも、体格や言動から、敵も多く作るというタイプの人格を見事に演じている。悪気がないが嫌われる人はよくいる。ここには出てこないが、頭脳明晰が仇になるケースもある。スタンダードな人間などいないのに、人は欠点をデフォルメして下にみることにより優越感を得る動物である。「こういう人はいるよね」と思われる演技はそれだけでこの映画を成功に導いていると思う。

彼に対する冤罪をばらまく新聞記者役オリビア・ワイルドも、その仕事の軽さを見事に演じている。こういう人がいるから世の中がイカレるという一言である。取材で日本の芸能マスコミによく会うが、みんな、こんな感じだものね。そして、冤罪を訴える母の声を聴いて泣く姿もしらじらしくて良い。結果的には、彼女が謝るシーンないのは、何度やってもこういう人種は懲りないという監督の意思?と思っていいのかな?

そんな、世の中の歪んだ事件を、たまたま彼を知っていたことで弁護士を演じるサム・ロックウェルは、この映画の中の正義の味方を見事に演じ切っている。最初は主人公をなだめながら、敵の罠にはまらないよに用心深く、そして反撃開始となったら一気にギアを上げていく感じの芝居の抑揚は見事である。そして、自ずと格好よくうつるのがいい。観終わった後、主人公と彼が絡むファーストシーンがこの映画で最も重要であるということを気づかされるのである。人間とは、ちゃんと自分に対応してくれた他人は印象深く忘れないのだ。

ということで、この映画、話は実話で、テロを未然に知らせ一度は英雄となったものが、過去に文句を言われた仕事場の悪評からテロリストに仕立てられる話である。そこに加担する、マスコミや、絶対有罪と信じるFBIの罠に立ち向かう、ある意味シンプルな話である。そのわかりやすい話を見事に映画として成立させているのは、この役者たちあってのことだと思う。そして、その結果が出せるのはクリント・イーストウッドあってのことだろう。しかし、彼はもはや引退する気はないのだろうね。これだけ撮れるんだものね。とにかく凄いよ。

この映画のテロの舞台はアトランタオリンピックの開催中のイベント会場だ。日本も、今年はこういう恐怖がつきまとうわけである。年末にカルロス・ゴーンが簡単に抜け出してしまった穴だらけの国(いや平和ボケ?)でテロが実際に起こる確率は高いと思う。世界的に景気が悪く、金で動く人間はいくらでもいるだろうからである。日本人のボランティアとして登録した人の中にテロリストがいないとも限らないのだ。オリンピックの恥ずかしいユニフォームを着ているからこそ疑われないというのもある。本当に大丈夫なのだろうか?ただでさえ、緩みっぱなしの日本、嘘をついても許される日本で、オリンピックでテロで大惨事とならないためには、ここに出てくるリチャード・ジュエルみたいに皆を守りたいと思う心が先ずは必要だ。治安が良い国と言いながら、他人の不幸に飛び込みたがらない、観て見ぬふりをすることが普通の日本人に対し、テロリストが色々と仕掛けるのは難しいことではない。とにかく、オリンピックでは様々に日本人は試されると思うわけだなと、この映画を見終わって考えたわけであります。

本当に、簡単に人を疑っちゃいけないし、容疑者を推定有罪としか考えない文化や、マスコミが叩くと袋叩きにする文化は、そろそろ日本人自身で変えていかねばいけないと思わせられた次第です。本当にこんなこという時代になるとは思っていなかったんですよね。


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