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「チケット・トゥ・パラダイス」こういう小気味良いアメリカンコメディがもっとあっていい。

なかなか、ラストの着地点で、タイトルの意味がシンクロして洒落た映画だった。このような、軽いタッチのハリウッドのコメディというのは昔はもっと公開されていた気はする。最近、洋画全般が大作の配給が多く、なかなかこういう作品に手が回らないというところかもしれない。そして、円安も手伝って興行的によほど自信がないと買い付けできないという流れもあるのかもしれない。

だいたい、これを観た11月11日は「すずめの戸締り」の初日ということで、シネコンのスクリーンの半分はその映画に提供しているわけで、先週封切りの作品が、一気に日に一回上映になったりしてるわけで、本当に映画ファンなど新海誠ファンに比べたら屁みたいなものということがよくわかる。そんな中で洋画の小品が相手にされないのは仕方ないことなのかもしれない。

さて映画の方は、別れて今は仲がすこぶる悪い元夫婦のジュリア・ロバーツとジョージ・クルーニーが娘のケイトリン・デヴァーの大学の卒業式に出席するところから話は始まる。そして、その娘がバリ島に卒業旅行に行く空港で2人はまた出会う。ここで、メインタイトル。ここまでの映画の滑るような勢いが最後まで続くので、娯楽映画としてはお手本のように気持ち良い。そして、娘がバリで出会った現地の青年と結婚するという知らせを聞き、バリに、向かう2人。とにかくも、喧嘩するほど仲が良いという感じのわかりやすい映画である。

それほど捻りのない話なのだが、主役2人の華やかさと、仲は悪い役ではあるが息のあった演技で、なんかずーっとニコニコ観ていられる映画なのは何かとても癒しになった104分だった。そしてバリ島の楽園の映像が私たちを重ねて癒す。このパンデミックの時を越えてきている私たちだからこそ、この映画のこんな日常の痴話喧嘩みたいな話が沁みたりもする。少し、世の中の人生に疲れているあなた、観た方がいいですよ。

とはいえ、娘の結婚を邪魔する計画が、結婚の儀式で使う指輪を盗むことだけというのは、少し脚本にひねりがない気はした。2人で3回くらい結婚を邪魔して、それでも2人の愛には勝てないという感じに展開してほしかったですね。とはいえ、最後の結婚式で、その独特のやり方を羨む親二人の空気感はよかったですけど。

しかし、この映画バリ島に住む人々を憧れのように好意的に描いていますね。「俺はアメリカ人だ」的なものが全く観られない。半世紀前にアジアの観光地を描いたものと比べるとかなりニュアンスが変わったのがわかる。まさに、世界は家族という感じの現代の映画である。

そんなバリ島が舞台だからこそ、タイトルは「チケット・トゥ・パラダイス」なのである。そう、作り手もここが楽園だということを認めてのラストシーンなのだ。それは、作り上げたアメリカよりも、こういう人類の原風景みたいな生活に戻りたいということなのでしょうね、多分。

こういう軽いアメリカのコメディーがもっとたくさん観たくなる今日この頃の私でありました。


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