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「あの頃、文芸坐で」【64】1982年という時代の中で見た「幸福論」?「幸福」「典子は、今」

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文芸坐.001

ロマンポルノの連作の中で、この年の最初の映画三昧は書いた。そして、7日には、ニッショーホールで「パラダイスアーミー」を試写会で観ている。そして次の日の8日に、この年初めての文芸地下。「幸福」と「典子は、今」の二本立てを観た。まず、1982年という年がどういう年だったかを確認すると、東北上越新幹線が、大宮始発での暫定開業になる。大宮より南の土地の買収問題がなかなか進まなかったことに由来するのだが、それでも、新幹線は北に伸びた。そして、中森明菜がデビューした年。そう、花の82年組と言われる小泉今日子、松本伊代(厳密には前年10月デビュー)、早見優、堀ちえみ、石川秀美などのデビューがあった年だ。その年に、ソニーがCDプレイヤーを発売。音楽がデジタル時代に突入したわけである。ここから全てがデジタルになるには結構な時間がかかる。リニアモーターカーの有人浮上走行実験に成功したのもこの年。技術的には、色々前向きであり、工学部にいた私には不安などないと思えた時代だ。野球は西武の黄金時代。「笑っていいとも」の放送開始がこの年。映画は年末に、「E.T」が公開された年であった。とにかくも、振り返っても、今よりは色々時代に不安がなかったことが思い出される。

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本題。まず、コラムから。新年料金の話。これを読んでも興行側が名画座を潰したのは確実である。この時期、まだバブル前。映画興行の未来は誰も明るいとは思っていなかった頃のお話。そして、喫茶店ができた話。前にも書いたと思うが、ここの喫茶店は、なかなか食事もおいしかった。味の記憶というのは、映画の記憶よりちゃんと残っていますよね。

そして、プログラム。文芸坐は、正月興行2週間のあとは、「9時から5時まで」「普通の人々」、そして「そして誰もいなくなった」「針の眼」という正統的な名画座番組。そして文芸地下は「野菊の墓」「ねらわれた学園」の聖子&ひろ子、続いて「赤ちょうちん」「の・ようなもの」の秋吉久美子特集。その後は神代辰巳監督二本立て。まあ、それなりに違うファン層を取り込む正月だった感じですね。

オールナイトは、正月一発目から、勢いある中島貞夫監督特集と思いきや、その後が、成瀬巳喜男特集。成瀬の夜中の5本立てはなかなかしっかりと映画を観るには大変だと思いますね。一本一本観るのが重すぎる感じ。この番組だと、「浮雲」でどっと疲れた後に、私なら「山の音」は絶対寝てしまいそうなのですが…。

そして、ル・ピリエも正月は映画だけですね。正月に芝居の興行をする予定が入らなかったのでしょうか?

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そして、この日観た二本について

「幸福」(市川崑監督)

この映画に関しては、前年に封切りで観ている。もう一度見たいと思ってここにいたと思う。一連の金田一耕助シリーズに一段落つけた後、百恵ちゃんの引退作品「古都」を撮って、そのあと違う推理劇を撮った作品。何よりもこの作品は「銀落とし」という技法を使った独特のテイストで作り上げられた作品。今なら、カラーグレーディングでそこそこ似たようなものが作れるが、この当時は、それをやるのも大変だった。そしてそれが映画の面白さであり、ビデオで撮られたテレビドラマとは全く違った世界があったのだ。主演は水谷豊だが、「青春の殺人者」の頃から当時の彼の芝居が私は一番好きかもしれない。こう、書いていると、また観たくなる作品だ。

「典子は、今」(松山善三監督)

松山善三監督の傑作である「名もなく貧しく美しく」の延長上にある、障害者を描いた一本。サリドマイドの被害者である、辻典子さん、本人が主演で、その生い立ちから、現在の生活に至るまでを、セミドキュメントにした作品である。作品的には、彼女が苦労してきたものはよくわかるが、観る人によっては押し付けがましいと感じる部分も多い。そして、手が不自由な彼女が足でその代わりをさせて生活するのだが、どうもその辺が、少し見せ物的になっているのが凄い気になった作品。結果的には「名もなく〜」のような完全なフィクションとしてまとめた方が良かったのではないかと当時は思った。時代の薬害に翻弄された記録としては価値はあると思うのですが、なかなか扱いが難しいテーマですよね。ただ、松山善三作詞、森岡賢一郎作曲で三上寛が映画の中で歌う主題歌「愛のテーマ」は名曲であり、凄い印象に残った。松山善三監督は、ここに書かれた詩の内容を映像として撮りたかったのだと思う。下記のリンクで歌詞がご覧になれます。

http://bunbun.boo.jp/okera/nano/noriko_ima.htm

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ということで、ここから1982年の文芸坐での映画三昧が始まります。まだまだ、長い連作になりますがよろしく。

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