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「あの頃、文芸坐で」【7】松田優作、火野正平。アウトロー映画の時代

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この前のプログラムのすぐ後、「日本特撮映画大全」の「俺の血は他人の血」「狼の紋章」「ハウス」の三本立てをここで観ている。三本立ての日替わりメニューなど、今だと考えられないですわな。

最初のコラムでは、文芸坐創業30周年のお話。当時、20歳前の私には、30年という時間は、すごく長く感じたが、生き続けてみると、瞬間ですな。ただ、事業を30年続けるというのは大変だというのは、今回の問題でもよくわかる次第。そう、この時スペシャルだったのは、「風と共に去りぬ」を名画座で上映したこと。特別料金とはいえ、まだ、ロードショー館でリバイバル上映して興行が成り立った作品を、名画座に出したのは画期的だった印象である。今、封切り3ヶ月くらいでなんでも家庭で観られる時代は、「何か違うのでは?」いまだに思っている私です。

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文芸坐は、「ネットワーク」を2週にわたって上映していますね。アカデミー賞がらみでお客も入ったのでしょうか?テレビの内幕を描いたはしりの映画ですな。フェイ・ダナウェイが印象的だった。

文芸地下は、「スーパーSF=日本特撮映画大全」なのですが、いわゆるゴジラ映画はなしの、マニアックプログラムなのですよ。ゴジラはフィルム代も高かったとは思いますがね。「スーパー・ジャイアンツ」はここでよくかかっていた気がします。宇津井健のもっこり映画です。

そして、30周年記念興行の第一弾が「ノン・シアターの旗手たち」。当時の自主映画ブームの雰囲気が、プログラムから伝わってきます。とはいえ、まだ石井聰亙(現:石井岳龍)や長崎俊一の名はそこにはない。そう、まだ一つの世代交代的なムーブメントには至っていない感じである。

オールナイトで裕次郎特集があるが、この当時の日活アクションは、フィルムはあるものの、ほぼ退色した、「赤白映画」で(最近の人は、言ってもよくわからないだろうね)観ながら、実際の色を想像しながらの鑑賞であった。「紅の翼」や「零戦黒雲一家」は文芸地下で鑑賞した覚えがあるが、見事に退色していた記憶である。

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そして、この日観た映画のお話である。まずは「俺の血は他人の血」(舛田利雄監督)。筒井康隆の同名小説の映画化である。最近は、自転車乗りの方が本職のような火野正平だが、多分、彼の主演作というのはこれだけではないか?ヒロインが奈美悦子というと、時代を感じるが、ここでの奈美悦子はすごくキュートである。西野バレー団出身者は、とにかくスタイルがいいですよね。生まれた時から「エスクレメント」という言葉と共に怪力を出す男の話である。ある意味、筒井康隆ワールドである。だからこそ、映画化が難しく、傑作とは言い難いが、さすがは舛田監督ということで、なんでもまとめてしまう恐ろしさ。火野さんは学園ものによく出ていた時から、不良役が多かったりアウトローなのだけど、やはり身体が大きくなかったせいか、アクション映画が似合う感じにはならなかったというところ。でも、彼の作品で皆が語るのは「必殺シリーズ」だから、やはりアクション俳優であり、アウトローの系譜にいるわけで、その辺りの研究している方には観ていただきたい一本であります。

そして、「狼の紋章」(松本正志監督)。松田優作の初出演作品。主役は志垣太郎である。狼男役の志垣の敵役として出てくる。この映画、平井和正のウルフガイファンとしては、問題外の凡作と言っていい。松田優作も、その後の役者としてのオーラはない。ただ、身長があるので、志垣との差もあり、存在感はある。見せ場としては、ロケに南千住にあった東京球場が使われている。多分、壊される前の最後の勇姿である。とはいえ、今なら、もっと優れた狼男映画できると思うんですよね。誰か、挑戦しませんかね?

上の二本はSF映画であるが、アウトロー映画である。日本の映画というのは、時代劇から任侠映画、実録物と、アウトロー主人公のものが多い。それが日本人に活力を与えてきたわけで、SF作家の書いたものでも、そっちの流れに作り手が持っていってしまうのは、この頃は当たり前のこと。その要素がほとんどなくなった最近の日本映画にもパワーがないが、コロナ以後、その辺りも少し変わってくるのだろうか?

もう一本「ハウスHOUSE」(大林宣彦監督)。大林映画もここで初めて観た。まあ、変わった映画だなと思うのと、女の子がいっぱい出てきて、それなりに色は綺麗だったという印象。大林映画に関しては、私は根本的に生理的に合わない部分があるので、つっこまないのであしからず。

しかし、こういう、特に評価が高くない作品でも、この当時はワクワクしたし、楽しかった。観たときの記憶が改竄されているかも知れぬが映画館で観た風景画残っているのは大きな私の財産である。

だから、私は観たい映画は観た方がいい。知ったかぶりより、観ることで映画は心の肥やしになると思っている次第であります。昨今、数観ることを否定的にいう人もいるが、「観る時間があって、あなたが観たいなら我慢する必要もない。そのために映画館は存在するのです。」


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