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「ライトスタッフ」193分に、ただただ引き寄せられる高揚感と、人の生き方のバイブル的な輝き

1984年、この映画が封切られた時は、日比谷スカラ座で、最初の160分短縮バージョンを観た。そして、2011年、午前十時の映画祭で公開された時、TOHOシネマズ六本木でフィルム上映の193分バージョンを観る。そして今回、11年ぶりに映画館で観たものはデジタル版である。この映画に関しては、レーザーディスクもDVDも持っていて、いろいろと自分の勢いをつけるときに観ていたのだが、最近それもしていなかったから、数年ぶりに対峙した感じ。そして、また、色々と感動してしまった。193分という時間をこんなにも濃厚に感じる映画も少ない。私がリアルに映画館で出会った映画としてはフェイバリットムービーといえる。

とにかく、世界で初めて音速を超えたパイロット、イェーガーと、アメリカのマーキュリー計画で初めて宇宙を目指したパイロット7人を対比しながらも、彼らが上を目指していく姿が、時代の高揚感も含めて、感動に転化していく一編

戦後、冷戦もあり、アメリカの中で、宇宙開発とは最高に金をかけ、最高の人材を育て、作り上げた最高のプロジェクトだったと言えると思う。その時代の空気感を3時間超の中で体感できる映画である。そして、これを観ると皆が現代の閉塞感に気づいたりもする。そう、世界はもっと、熱く前進すべきである。人はもっと上を目指すべきだと。それは、人間が神からそうする生き物として生かされているからだと。

ここに描き出される、パイロットの競争と友情の姿は、今、大ヒット公開中の「トップガンマーヴェリック」の風景の遥か昔の情景である。それを比べれば、「トップガン」には、現在のもう一つ目的のないカジュアルさみたいのも感じたりする。映画としては、こちらも凄く面白かったですけどね。

何度も観て、色々考えさせられた映画である。でも、今回特に印象に残ったセリフがあった。皆で集った店が火事で焼け、そこでイェーガーとその妻が話す。妻が「パイロットの男は恐怖に耐える訓練をしてるが、妻はそれをしていない」。そう、この映画では、パイロットの妻の視点というものもしっかりと描いている。パイロットには確かに資質が必要だが、その妻にも、家族にもそういうものが必要だということだ。特にアメリカなどは夫婦でオフィシャルな場所に出ることが多い。そういう文化がない日本は家族で資質を高めるというような文化も無くしてるような気がするわけである。夫婦の話では、ジョン・グレンの奥さんが吃音気味でうまく話せず、ジョンソン副大統領のインタビューを断る部分で、グレンが電話で「お前の思ったようにやれ」と応援する部分は素敵だった。そう、ここにある男女関係もアメリカの代表として描かれている。

まあ、夫婦という点では、先にも書いた、サム・シェパード演じるイェーガーと妻役のバーバラ・ハーシーの関係がものすごく素敵である。こういう男と女というのが、この映画を最初に見た時からの私の理想であったりする。二人でテネシー・ワルツを踊るシーンがある。何度見てもここの二人が美しい。

そう、今回は宇宙開発のドラマよりも、人間関係の細かいセリフがとても気になった。それは、私が今のどん詰まりの世の中を生きているからだろう。人は、時代の色に染まってしまうところがある。私たち、日本人は今、夢を追いかけることを諦めかけてるような状況だ。そんな中でこの映画を見ると、本当に元気が出たというか、もう一度チャレンジしなくてはと思ったりした。

とにかく、ビル・コンティの音楽は、映画を見るたびに私を高揚させる。今回もあっという間の193分だった。本当に、出来うるなら、この映画IMAXの大画面で観たいですよね。

今は、サム・シェパードも、イェーガーもこの世を去った。でも、この映画は残されている。多くの若者に観てもらって、自分の限界に挑戦する美しさみたいなものを、そして、競い合う人がいること、愛する理解者がいることの素晴らしさみたいなものを知って欲しいと思ったりする。

まだ、死ぬまでに映画館で3回は観たい映画ですよね。本当に至福の193分でした。



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