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「ベルファスト」生まれた土地を離れる悲しみと家族の絆と…。

今日、開催されたアカデミー賞で脚本賞を受賞した映画である。確かにそういう点から見るとよく出来ているとは思う。舞台は1969年の北アイルランド最大の都市、ベルファストでの庶民の日常。歴史が揺れ動き、故郷を離れなければならなくなる家族を少年の目(監督の視線)を通して描く。それは、多くの人に少年時代を思い出させるし、人の優しさと悲しみがモノクロの画面にいっぱい詰まってる映画だ。アカデミー賞は「コーダあいのうた」に輝いたが、この映画が選ばれてもよかったと私は思う。

そう言ってしまうのは、この少年(監督)が私と同じ年齢だからだ。その上、私もその3年後に東京都内の移動だったが、故郷の街を離れ転校した。だから、最後に街を離れる少年に私が乗り移った感じでもあった。それだけで共感過多な大事な映画になりそうな感じである。

日本人にはよくわからない、街の対立構造である。プロテスタントが、カトリックに対し暴動を起こすという、ファーストシークエンスはなかなか刺激的だ。他の国との戦争ではないが、子供にはよくわからない暴動。作られるバリケード。街は一瞬にして様変わりする。時は1969年、月着陸の話が出てくる。おばあちゃんが「本当に行ったのかしら?」という。まあ、子供だった私は疑わなかったし、その歳であのテレビ中継を見た記憶は今でも脳裏に強くこびりついている。それは、監督も同じなのであろう。

そして、ラクエル・ウェルチと「恐竜百万年」、「チキチキバンバン」などの時代のカケラの使い方も素敵な感じ。これらと舞台の「クリスマス・キャロル」のシーンがカラーになって登場するが、当時のカラー映画に対する子供の目ってこんな感じだったと思う。そう、映画の極彩色の向こうの世界は子供にとって刺激的な異次元だった。これは、同世代じゃないとわからない世界かもしれない。この映画がモノクロなのは、60年代にはやはりそれが似合うからだと思う。そう、映画も全てがカラーになっていくのは70年代になってからで、それまでは「総天然色」という単語が使われていたわけで、まさに、この辺りが記憶がカラーになっていく時なのですよね。

でも、そんな中でテレビで白黒で「真昼の決闘」を見ているシーンがあるが、これも風景として、同世代感が強いですね。この映画、監督のなんか思い出があるのでしょうか?あとは、サンダーバードだよね。あんな制服着てコスプレしてた子は日本にはいなかったけど、なんか羨ましくもあった。

映画は、大人たちの話に耳を傾けて、不安が募る毎日みたいなのを実にうまく描いている。そう、家族たちの会話を聞いて、子供がいろんなことを思う感じがよく描けている。その中で、「小さな恋のメロディ」のような恋愛模様も…。子供の芝居が良い映画には、やはり勝てない。まあ、監督が自分のことを描いてるというのは、なんかわかる気がする映画だ。

そして、そんな我が子を見守るお母さんが印象的。カトリーナ・バルフという女優さん。とても綺麗に見える時と、お母さんの顔になる時と、実にいろんな変化を見せる女優さんだ。そして、お母さん、結構なミニスカートで出てくる時があるのだが、これも時代だ。そして、そこから出てるおみ足が結構な太さがあり、日本のミニスカート風景もこうだったと同世代人として思ったりした。

だが、おじいちゃんが亡くなって、そのパーティー。そこで夫と踊る彼女はとても輝いていた。故郷の人たちと最後の宴。その後のバスで出かけるシーンとのコントラストがすごくいい。ここも、モノクロ画面がすごく生えてましたね。

後、この映画、上映時間98分。最近は2時間半が当たり前になってきましたが、私的に映画の時間はこのくらいが最も良いと思っている。そういう意味でも、贅肉がちゃんと取れた映画でありました。そして、またリピートしたい素敵な映画でした。ポスターに、少年が飛んでいる写真が使われているが、この絵の通りの映画だったと言っていいでしょう。

そして、今、この映画を見ると、ウクライナから逃れていく人々を想起する人も多いと思う。故郷を離れることって、やはり、戦争で強制されることではないと思うのですよ。早く、戦争が終わることをただただ祈り、逃げた人たちが故郷に帰れる日が早くくることを祈ります。


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